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17.ねぇ、うちのコになりませんか?

 ギルドを出て、そのまま最寄りの門から外に出る。デュシスの町に入るときに預けた銀貨は返して貰えた。


 今はちょうど太陽が一番高い時間帯。

 この世界では1日2食が主流だから、私もそれに倣い食べないことが多い。前世でも仕事の日は昼抜き、残業、当たり前だったし、特に違和感はなかったりする。好きなときに水分がとれるだけ今の方がマシかな。


 懐かしく感じるようになり始めた記憶を思い出している間に、東の草原地帯に着いた。

 城壁から視認されない距離から地図を最大サイズにして、隠蔽技能を発動し、人影に気をつけつつ高速飛行してきたから、門番の冒険者と挨拶してからまだ10分少ししかたっていない。

 一度来た場所は移転出来るようになるし、次からは最悪、門を抜けなくても出てこれる。


 まずは、依頼を片付けてしまおう。そう思って、辺りを見回すが、入り口周辺の薬草は採り尽くされているのか、見付けることが出来なかった。


 仕方なく、再度、自分に目眩ましの魔法を掛け、高速飛行呪を唱える。マップを頼りに、人影の無い方に進んでいたら、かなり奥地まで来てしまっていた。


 入口周辺にはあった道もなく、一面に膝から腰丈の草が生えている。マップには敵対反応も多い。


 一応の用心に、アイテムボックスからオススメシリーズの武器・弓型と、危なすぎて前回は出せなかったポイズンナイフ(壊死毒)を出して装備した。


 ポイズンナイフを使うと、ドロップ品が壊死毒に侵されてしまうことがあるため、使いにくいことこの上ない。

 私のアイテムボックスには、この壊死毒に侵されたアイテムが多数死蔵されている。


 歩く度に出てくる虫系や齧歯類系の魔物を狩りながら、薬草を採集する。あっという間に30本近く採れた。


 採集は十分だと判断して、人の気配もなく都合が良いここでアイテムの検証をすることにした。試すアイテムは『豪華で安全な隠れ家』だ。

 ケビンさんたちに、旅立ち初日に出会ってから、ずっと誰かが側にいて確認出来なかったアイテムだ。


 アイテムボックスから隠れ家を選んで取り出すと、手にはボールペンほどの大きさの金属があった。

 上下逆さにした『し』の字、シャワーヘッドの部分には小さな豆電球がぶら下がっている。中にはこれまた小さな炎。熱くはない、優しい光だ。


 魔力を込めながら入り口を作りたい空間に固定すればいいらしい。固定先は空気でも可能との不思議設定。


 まずは地面に刺してみる。


 刺した瞬間に、頭の中に『カスタマイズしますか? 』の文字が浮かぶが今回は無視だ。魔力を100注いだ所で金属が膨張し始める。

 3メートル程の大きさになって膨張が止まった。街灯の様に草原にただ一本たった構造物の下には入口の下り階段がある。


 薄暗い、その入口を降りていくと玄関代わりの扉がある。恐る恐る開けると、そこは居間(リビング)だった。目の細かい暖色の絨毯が敷き詰められ、ソファーとローテーブル、食事も出来そうな長机と椅子が右と左に分かれてセットされている。


 長テーブルの方は総木製だけれど、ソファーは布製だ。昨日の宿屋の反省を踏まえてゆっくり座ってみる。


 おう!ふかふか。


 沈む訳ではないが、柔らかく体重を分散して受け止めてくれる。三人掛けの方のソファーなら十分寝れる。昨日のベットより断然良い。


 期待に胸を脹らませて他の部屋も見て回る。左の扉を開けると、そこには台所(キッチン)。冷蔵庫、トースター、ガス台、オーブン等、全て魔法仕掛けだが、必要な機材は全部揃ってるみたいだ。


 その奥にも扉があったけれど、一度、居間に戻り反対側の扉を開けてみる。

 石造りの廊下があり、両方に規則的に扉がある。手前から順に開けていくと、だだっ広い石造りの部屋、パイプ椅子と机があるだけの尋問室。一生使わなそうだから、そのうち倉庫にしちゃおうと思う。


 客間が両サイドに1つずつ、客間より少し大きな寝室が2つ、廊下の突き当たりに更に下り階段と左手に曲がって続く廊下がある。廊下はおそらくキッチンと繋がっているのだろう。

 風呂場は何処にあるんだ?


 階段を降りると、また廊下があって、調合室、武器庫と続き、突き当たりにデデンと両開きの扉があった。ここがダンジョンなら『ようこそ! ボス部屋へ!!』と書いてありそうな重厚な作り。


 思いの外、軽く滑らかに開いた扉の先は、文字通り豪華だった。


 何処のホテルのスイートを参考に作ったのかはわからないけど、旅番組で見ていた様な部屋が目の前にある。

 入ってすぐの部屋は、バーカウンター付きのリビング。繋がる扉を開ければ、個人用のトイレとシャワールーム(バスタブ付)、ベットルームは別にあり、キングかクイーンかは知らないが正方形の厚いベットが中央にドドンと鎮座している。

 ベットサイドには、占い師が使うような大きな水晶が置かれている。ファンタジー感を醸し出してるのは、水晶だけかな。

 壁には備え付けのこれまた大きいクローゼットと、小さな本棚があった。

 入っている本の題名は、『隠れ家マニュアル~基本の部屋』『はじめてのカスタマイズ』『逃げ隠れの基本』など、どうやらここの使い方を説明しているらしい。全10刊の充実ぶりだ。暇になったら読もう。


 部屋に入る前に、慌てて脱いだ靴を手に持ったまま、しばし呆然とする。ここの絨毯は他と比べても更に良いものだ。


 ー…この部屋は土足厳禁だな


 汚さないように注意をしながら、静かに廊下に戻る。外に出ると知らず知らずのうちに、大きなため息が出た。よほど緊張していたらしい。あまりに立派な部屋は威圧感も半端ない。


 とりあえず、下の階はこれで見終わったから上に戻りさっきまだ確認していない廊下の先に進む。


 ちょうど中間くらいまできたら『ゆ』の文字の暖簾が下がっている。

 暖簾をくぐると左右に分かれた廊下の先に引き戸がある。そこには『殿方』と『姫君』の文字が……


 ひとつ言わせて!

 これ何処の温泉リゾート場よ!!


『姫』の方を覗いたら、脱衣場に大浴場、沢山の洗い場とそのまんま温泉施設だったから、ツッコミは棚上げして、後でゆっくり浸かろうと思う。


 すぐにでも、ひとっ風呂浴びたい気持ちを何とか抑え、一度外に出て実験を続ける。

 設置実験、エンゲージした魔物からの逃走実験などを次々と続けた。設置場所は本当に選ばない様で、草の上、土の上、水の中、空気中、前後左右逆さま、何でもござれだ。


 さて、そろそろ目立たない場所に設置し直して、風呂を楽しもうと決め、地図を使い敵対反応が薄い場所を探す。入ってしまえば関係ないとは言え、隠れ家から出た途端に戦闘で汚れるとか、勘弁してほしいからね。


 ……あれ? 人??


 敵を示す赤いマーカーの中に、ひとつだけポツンと中立の黄色のマーカーがある。近くにいる赤いマーカーは黄色のマーカーを追っているみたいだ。


 こんな奥地に珍しい。必死に走っているらしく、すごい勢いでこちらに向かってくる。隠蔽と気配察知、気配遮断を発動し、草陰に隠れて様子を伺う。


 草の陰から飛び出してきたのは、白い毛並の、え……、坊っちゃま!?


 白い毛並、長めの胴体、垂れた耳、クリクリおめめは漆黒のナツメグ。二匹といない、色々混ざった雑種だった私の最愛のお坊っちゃま!!


 目の前で草に足をとられて転び、そのまま這って逃げようとしている。先程より大きな音をたて、坊っちゃまを追って野犬が飛び出してきた。


 黒犬(ブラックドック)と呼ばれる、この辺りではよく群れで出る魔物の一種だ。坊っちゃまは、尻尾を丸めて耳を倒して全力で怯えている。


 こンの、バカどもがッ!!

 ウチのおぼっちゃまに、なにするかッ!!!


 あまりの驚きにフリーズしていたが、怯えて震えるぼっちゃまを見て、今度は急速に頭に血が昇った。


『打ち払え! 狂乱の紅蓮よ!!』


 怒りのままに攻撃魔法を放つ。十分に魔力と怒りを込めたその炎は魔物を殲滅し、ついでに周囲10メートルほどの下草を焼き払い消滅させた。


「マル! マル君! マルお坊っちゃま!!」


 草から飛び出し首に抱きつく。懐かしさに涙が滲む。ふかふかの毛並みと潤沢な皮下脂肪で、近所でも『生きたリアルぬいぐるみ』と絶賛されていたウチのお坊っちゃま。

 ん? なんかイマイチ固い?? ついでに生臭いし、毛並みも泥とホコリで汚れている。


 違和感を感じて、首に埋めていた顔を上げてぼっちゃまを確認する。

 あれ、なんか、少し大きくなった気が…、ぼっちゃま中型犬なのに、今は二足歩行で、120センチ以上あるよ?? なんで??

 とうとう肥満が過ぎて、縦にも伸びたか?!


「あの……どなたかと……」


 かすれた声で、ぼっちゃまが話す。空耳だよね!?


「え、マル、マぁル、私よ、姉ちゃんよ。覚えてないの?」


「ごめんなさい、ボク、マルでも、マールでもありません、ごめんなさい、ごめんなさい、殺さないで…」


 プルプル震えながらそう言われる。


 ン? まさかの犬違い??

 抱きついたまま、少し離れてまじまじと観察する。


 白地にクリーム色の模様。黒のナツメグ型クリクリおめめ。鼻は短め、垂れ耳で丸い顔のかわいこちゃん。赤い首輪がワンポイント!


 でも、身長、およそ120センチ……骨がくっきり浮くレベルで痩せている。洋服はシャツとパンツだけど、これもぼろぼろ。


 うん、悔しいけれど、見た目はそっくりでも、大きさが全然違う。しかもぼっちゃまは人の言葉を喋れない、純粋な雑種犬(ワンコ)。残念だけど、犬違いだ。


 気が抜けて少し涙がこぼれた。


「ごめんなさい、間違いだったみたい」


 怯えて震えるワンコをそっと放し、俗に言う"女の子座り"でペタンと座る。期待した分脱力感が凄い。


「いえ、あの、その、ごめんなさい、殺さないで、お願いします、殺さないで……」


 私が離れると、ワンコはグラリと大きく揺れ地面に倒れた。口が動いているから何か話しているのかと耳を近づけると、小さく「殺さないで、ごめんなさい」と繰り返し呟いている。


 このまま、ここに置いていったら、遠からず他の魔物に喰われる事になる。そう判断した私は、ワンコの側に隠れ家を設置し、出来るだけ振動を与えないように抱き上げたワンコを連れて中に入った。



 カスタマイズする時間が惜しくて、さっきのままの隠れ家に駆け込む。階段に一番近い寝室にワンコを寝せて観察する。


 擦り傷は多少あるが、重い外傷は見当たらない。疲労と空腹と黒犬に襲われた恐怖で倒れたのかなと適当に当たりをつけて、高位回復魔法(パーフェクトヒール)を唱える。問題なく発動したのを確認して、ワンコと自分に浄化の魔法をかけた。

 毛並みも肉球も本来の輝きを取り戻して、抱きついたら極上のぷよぷよを楽しめそうだ。このまま見つめていると、欲望に負けて心行くまでモフリそうだから、急いでキッチンに移動する。


 さて、この世界のワンコの病人食って何なんだろう?

 消化がよく、油分が少なくて、でも美味しそうなフレーバーが効いているもの、かなぁ? 前世の手作り犬ご飯を思い出しつつレシピを考える。でも、言葉も話していたし、犬というよりは人寄りなのかもしれない。まったく、一体どうしたものか……。


 結局、マカロニと細かく刻んだ野菜を入れたチキンスープと、野菜を数種類柔らかく煮込み、少量のウサギ肉と共にミキサーにかけたポタージュモドキ。それに昨日買ったパンの中でも柔らかいもの、と言う簡単メニューになった。もちろん、玉ねぎとかの犬にNG素材は徹底排除している。


 冷めるといけないから出来上がった料理をアイテムボックスにトレーごと入れて部屋に戻る。一応、面倒くさいから滅多にやらないが、独り暮らし歴は長いから家事は何でも一通りやれる。


 お、起きたのかな?


 部屋の前に着くと、中から気配を感じる。アイテムボックスから料理を出して中に入った。


 予想通り、ベットには上半身を起こしたワンコが座っている。

 私を見ると大慌てでべットを滑り降り、床に土下座した。


「ごめんなさい、ごめんなさい、こんな立派な部屋で立派なベットを汚して、ごめんなさい! 何でもします、殺さないで!!」


 ワンコは混乱している!!


 名作RPG風のナレーションが聞こえてきた。ベットサイドにトレーを置き、ワンコに向き直る。


 あれ? いない??


 土下座のまま対角線の壁際にへばりついていた。う~ん、こりゃ、随分怯えてるなぁ、どうしたもんか。


「あの、ワンコさん、とりあえず落ち着いて。お腹空いてませんか?? …パンとスープを持ってきてみたんですけど、食べませんか?」


 とりあえず、食べ物で釣ってみた。餌付けは基本だよね!

 おう、耳と鼻がピクピクしとる。もうひと押しかな?


「消化が良いように、チキンスープとウサギ肉入りのポタージュですけど、冷める前に是非」


 近くにいると怖いかな、と考えて出入口の脇まで下がる。


「え、え、お、お嬢様、これ、食べて良いんですか……?」


 お嬢様って誰やねん? ……私かっ!


「はい、ワンコさんに食べて貰うために作りましたから、食べてくれると嬉しいです。ただ、口に合わなかったら残してくださいね。何か他のを作ってきます」


 おうっ! 凄い勢いで食べてる!

 あ、喉に詰まった。スープで流し込んで、残ったポタージュをパンにつけて食べてる。よっぽど空腹だったのね。


「とりませんから、ゆっくり噛んで食べてください」


「モゴッ、あり……ゴホッ、ありがとうございます。ありがとうございます、こんな美味しいもの久しぶりです」


 息つく間もなく食べ続けるワンコさんに、キッチンからおかわりを鍋ごと運んできて思う存分食べてもらう。

 急激に食べて大丈夫かと心配になったが、さっきの回復魔法で胃腸も完全に回復したらしく問題なく食べきった。


 食べ終わったワンコさんをひと悶着あったが何とかベットに戻し、こんな奥地に一匹でいた事情を聞く。


「あの、ボク、旅の途中でご主人様に捨てられてしまったんです。街道でボクだけ下ろされて、馬車が走り出して……必死に追いかけたんですけど、見失って……。契約も解除されてるし、ボク、……ボク」


 うん? 迷子?? それとも捨て犬??


「ボク、コボルドだから……」


 コボルドってあのゲーム序盤に出てくる犬??

 久々に頭の中に常識が浮かぶ。


 犬妖精(コボルド):直立した犬の姿をした妖精種。大きさは1メートルから二メートル。群れで生活する習性をもつ。犬獣人の一種とされているが、実際は妖精と見る向きもあり、獣人、人間、妖精、全ての種族から中途半端と蔑まれている。そのほとんどは奴隷として一生を過ごす。


 用語辞典みたいな説明文が浮かんでくる。常識としては分かるけど、これじゃ実感湧かないって。時々、この世界の人達とずれるのはこのせいか。


 目の前では、可愛いワンコさんが泣いている。群れで生きる種族なのに、一人じゃ嫌だよね。


「なら、ワンコさん、お仲間が見つかるまででも良いです。何処か行きたいところが出来るまででも構いません。

 ……ねぇ、ウチのコになりませんか?」


 ベットの脇に座り、俯くワンコさんの顔を見ながら掻き口説いた。

 これは私の感傷かもしれないけれど、このコが哀しむ所は見たくない。


「私はお金持ちじゃありません。権力があるわけでも、飛び抜けた実力があるわけでもありません。それでも、ワンコさんさえ良ければ、一緒にいませんか?

 飢えさせる様なことだけはしないと約束します」


 精一杯誠実に伝える。たとえ私が飢えても、このコにだけは食べさせる。そんな不思議な覚悟があった。


「え、え、お嬢様、ボクはこのままここにいて良いんですか?」


「もちろん、私はリュスティーナです。お名前を教えてもらえませんか?」


 少し悩んで本名を名乗った。お、少し尻尾が揺れはじめている。耳も立ってきてるし落ち着いてきたかな?


「ボクはダビデです。ご主人様」


 ゆっくりと立ち上がり、ベットに腰かけた。尻尾の振りが早くなってきてるね。どうやら滞在を受け入れてくれそう。


「ダビデさん、ご主人様は止めてください。私のことはティナと呼んでください」


「はい、ティナお嬢様。でも、本当にボクをかってくれるのですか? ボク、戦えません、役に立つ事といったら、家事が出来るくらいです。今までのご主人様は皆さん、ボクの料理の腕は誉めてくれましたけど……」


「お嬢様もいらないですよ。ただのティナと呼んでください。同居人なんだから気楽にいきましょ?

 家事、得意なんですね。嬉しいです。私は遠方の出でこっちの料理良くわからないから、出来たら今後、お手伝いをお願いしたいです。

 でも、しばらくは体力を戻すことが優先ですよ? 無理はダメです」


「はい、かしこまりました。ですがティナお嬢様、呼び方はこのままでお願いします。それとボクに対する丁寧な口調はお止めください」


 しばらく押し問答したけれど、呼び名だけは変えられずに私が折れた。ダビデと呼び捨てにするように何度も頼まれ、仕方なく受け入れたけど、たとえ犬でも、わたしより年上を呼び捨てって違和感あるんだよね。


「あっ! いけない!!」


 今後の予定などを話していて思い出す。そう言えば、今は依頼の途中で、かつ明日は朝イチに野菜を買いに市場に行かなきゃならなかった。すっかり忘れてた!

 夕の鐘までに城壁の入り口まで戻らなきゃならないのに、今から歩いたら間に合わない。


「お嬢様??」


 ダビデの毛が驚きで逆立っている。


「明日の朝、用事があって、どうしてもデュシスの町に行かなきゃならないんです。でも、今から歩いたんじゃ、間に合わない。……ダビデ、今から見るもの、経験することは決して誰かに話さないと約束できますか?」


 もし、約束してもらえなかったら、ダビデは留守番だな、と思いながら問いかける。


「お嬢様、もちろんです。お嬢様が言うなと命令されるなら、ボクは決して喋りません」


 アイテムボックスに食器を片付け、急いで外に出て隠れ家を仕舞った。その時点でダビデは目を見開いて固まっていたけれど、まだまだ甘い。


 ダビデの抵抗が無いことを良いことに、高速飛行呪を二人分かけて制御する。移転(テレポート)も考えたけれど、初めての魔法を複数にかける決心がつかなかった。

 自分たちに隠蔽をかけてから十分に高度を取り、城壁に向けて急ぐ。町の近く、人気(ひとけ)のない丘の陰に隠れて着地したときには日は傾いて、もうすぐ夕方の鐘がなりそうな時だった。


「ダビデ! 急ぐ…え?」


 ダビデはぐったりと下草の上に倒れ込み白目を剥いている。少し刺激が強すぎたか。

 ダビデを背負い、城壁に向けて駆け出す。転生してから、スタミナも敏捷も随分上がったから、コボルドを抱えての中距離走くらいは難なくこなせるようになっていた。


 城壁の門にたどり着くと、もうすぐ閉めるらしく、中に入る人もまばらだ。駆け込んできた私に、門番役の冒険者が話しかけてくる。


「おう! ギリギリの到着だな。目的と身分証を出してくれ……って、ケビンと一緒に来た嬢ちゃんじゃねぇか!! どうしたんだよ、犬妖精(そんなもの)背負って」


 あ、この人最初の時の門番さん?? えーっと、名前なんだっけ?


「こんばんは、先日はお世話になりました。こうして無事に冒険者になれました!

 今日は薬草採集で外に出てたんですが、コボルドを見つけて」


 そう言いながらギルドカードを渡す。あ、思い出した! リックさんだ!


「おう、そうかい。採集はうまくいったのか?」


「ええ、リックさん、何とか達成出来そうです。あと、この子も一緒に入りたいんですけど大丈夫ですか?」


 気絶したままのダビデを示しながら聞いてみる。


「ああ、まぁ、良いけどよ、ソレ、奴隷か? 契約はどうなってるかわかってるのか?」


「ええっと、本人は契約を解除されたと話してました。だから、今後は一緒に住もうかと…。身分証ってどうしたらいいんでしょうね? コボルドも冒険者登録出来るんでしょうか??」


 微妙な顔をされてしまった。何で??


「あー、嬢ちゃん、ケビン達に聞いてたが、本当に浮き世離れしてるんだな。コボルドは種族奴隷だから、この国では奴隷以外にはなれないぞ。コボルドを市民として認めてるのは、伝説のテリオ族の国か、ダンジョン都市国家連合の中でも、混沌都市だけのはずだ」


「え、え、うそっ! ホントに??」


「あぁ、マジだ。とりあえず奴隷獲得おめでとさん」


 いらんわ!!







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