表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
178/250

176.私よりも向いてんじゃない?

 ジルさん一家が、ジルさんに連れられて少し離れた所で話始めた。私達のところからあっちに向かう前に、ジルさんは本当に申し訳なさそうにしていたのが印象的だった。


 山羊のルフ君はレイモンドさんとすっかり仲良くなった様で、何で角がなくなったのか、出して触らせて欲しいとねだっている。この子は本当に物怖じしない子だな。やっぱり子供の方が順応力は高いのかしら?


 まだまだ話し合いがかかりそうな事を確認して、私はアルオルへと視線を向けた。


「アルオル、レイモンドさん、少し家に戻ってきますね」


「我が君? なにゆえ……」


「少しポーション飲みすぎたみたい」


 苦笑をしつつ状況を話す。それだけで察してくれたアルオルは気まず気だ。


「いってらっしゃいませ。護衛は?」


「いらないよ」


「リュスティーナ様、申し訳ありませんが帰りにラインハルトを連れてきては下さいませんか?」


 移転しようとした所でレイモンドさんから頼まれた。


「了解。他の人は大丈夫ですか?」


「はい、よろしくお願いします」


 少々切羽詰まってきていたから、手短に答えて周りを見回した。何もなさそうな事を確認して移転する。


 隠れ家に駆け込みお花つみを済ませて、ラインハルトさんを探した。


 村長の家で山羊族の家族と待っていたラインハルさんを見つけて、共に来て欲しいと頼む。状況を話したら、山羊さん一家も赤鱗の人達と合流したいと言われ全員を連れて移転した。


「おかえりなさいませ」


 私が戻った事に気がついたアルフレッドが頭を下げる。


「お父さん!」


 ピョンと抱きついていたレイモンドさんから離れたルフ君が山羊さん一家に駆け寄った。


 息子がご迷惑をお掛けして申し訳ないと謝る山羊さん一家にレイモンドさんはにこやかに笑って否定している。この一家の順応力の高さはありがたいけれど、少し異常かも。半魔の特徴を隠せるレイモンドさんだけじゃなく、ラインハルトさんとも普通に話している。


「……リュスティーナ様」


 山羊さん一家を見ていたら、いつの間にかフォルクマーさんと街の人数人、それに後ろの方にジルさん一家が並んでいた。


「結論は出ましたか?」


 珍しいモノを見る目で山羊さん一家を観察していたアルフレッドが、瞬時に冷たい雰囲気を醸し出して、赤鱗の人達と私との間に立った。


 山羊さん一家の護衛をラインハルトさんに任せたレイモンドさんも私の後ろに立つ。


「我ら一同、リュスティーナ様のお心に従います」


 代表でフォルクマー団長がそう話すと、赤鱗の人々が頭を下げ復唱した。


「それは半魔を市民として認め、我が君の慈悲にすがって生きると言うことですね」


 冷静に確認するアルフレッドにフォルクマー団長が頷いた。その後、レイモンドさんの方に向き直り膝をつく。


「先程の御無礼、平に御容赦下さい。兵達は私の命令に従ったに過ぎません。

 怒りが収まらぬと言うならば、責任者である私の首を差し上げます。どうかそれで此度の件は納め、我々を認めては下さいませんか?」


 何卒と頭を下げるフォルクマー団長にレイモンドさんは首を振り立って欲しいと話す。


「……ただの不幸な行き違いです。出会いは不幸でも、手を取り合う事は出来ます。

 赤鱗騎士団の皆様及び、赤鱗の街の住人の方々を、私は半魔の村の村長として歓迎します。

 ようこそ、新たな土地へ。未だ安定せぬ地ではありますが、共に手を取り合い我らが女王陛下にお仕え致しましょう」


 これで良いかと一瞬視線を私に流しつつ、レイモンドさんは赤鱗の人達に語りかけた。


 …………私よりもよっぽど王様に向いてる気がするのは気のせいか?


「……リュスティーナ陛下にお願いがございます」


 レイモンドさんにお礼を伝えたフォルクマー団長が、今度は私に向かって土下座姿勢となる。驚いて反応が遅れたら、アルフレッドが冷ややかに先を促していた。


「赤鱗から一部、レイモンド殿の村へと移住者を出したいと思います。どうか許可を頂けませんか」


「おや、つい先程までは半魔を認めなかった貴殿方がまた随分な変わりようですね」


 皮肉に答えるアルフレッドに、フォルクマー団長は続けて話す。


「移住するのは、私の母と第三師団長の幼い孫。それと赤鱗の街を治めていた者の妻子です。戦える者は混ざっていません。どうか受け入れて頂きたい」


 ……これはただの移住じゃないな。どちらかと言えば、人質に近いのか?


 その証拠にフォルクマー団長はどのような扱いでも構わないから、是非にと頭を下げているし……。


 そう考えたのは私だけじゃないようで、アルフレッドとレイモンドさんもどうしたものかと思案気に視線を交わしている。


「本来であれば、俺の妻子も預けたいが先程の暴言を聞き諦めた。()()、これが今、我々に出来る唯一の誠意の見せ方なんだ。どうか受け入れて欲しい」


 それまで後ろの方に控えていたジルさんからも頼まれてしまう。


「…………ジルさんがそう言うなら。でも村に受け入れるかどうかはレイモンドさん次第だよ」


 私は構わないと伝えてレイモンドさんに視線を向ける。瞑目し考えていたレイモンドさんは、ひとつ頷くとラインハルトさんを呼んだ。


「ラインハルト、頼みがあります」


「何だ、村長」


「新しい村長になってください」


「な? 何故だ!」


「苦労をかけますが我々半魔の村だとて、これだけ多くの獣人を受け入れる余裕はありません。

 赤鱗の皆さんには新たな場所に都市を作って頂くことになるでしょう。

 ……私は新たな赤鱗の地に住みます。我々に馴れていただくにはその方が良いでしょう。リュスティーナ陛下も、少なくともしばらくは新たな地に住むことになると思われます。陛下の家もそれに伴い移動することになります。

 ですから、あなたに村を頼みます」


「へ? 何で」


 いつの間にか私の移住まで決まっていて驚いてレイモンドさんを見つめる。


「土地の広さの問題で全員を村に受け入れることは出来ません。

 それに解放されたばかりの土地には、魔物が出ます。村にはアーティファクトがあり結界が張れましたが、赤鱗の街はそうはならないでしょう。

 ならば落ち着くまでは、陛下の家は緊急時の避難先として新たな村にあるべきです。どうかご一考を」


 深々と頭を下げつつ提案された。そう言うことなら、引っ越しもやむなしかな。


「……そうだね。ならその方向で」


「お待ち下さい。陛下にこれ以上のお慈悲を頂戴する訳には参りません。我々は何とか安全を確保し、街を作ります」


「無理です」


「厳しいだろうな」


「無理だ」


 レイモンドさん、ラインハルトさん、ジルさんの順で否定される。何故と問いかけるフォルクマー団長達に、実力が不足していると言い切ったラインハルトさんが頭を掻き毟りつつレイモンドさんに答えた。


「俺の村長はあんただけだ。だからあんたが戻るまでの代行なら受けよう」


「感謝します」


「おう、感謝してくれ。それとあと数人、村から連れていけ」


「何故です?」


「陛下のお側近くに仕えるのが新たな住人だけじゃ格好がつかない。役に立つかは分からないが、いないよりはましだろ」


 既に治世は始まっていると見るべきなのかな?

 何だか面倒な事になっている。


「……確かにそうですね。では後で村に戻ったら希望者を募りましょう」


「話がついた所で、赤鱗の民に何処で街を作らせるかですが……」


 アルフレッドが話を戻した。それに対してレイモンドさんから、ひとつの候補地を提示される。


「……昔、都市があった場所?」


「はい。既に廃墟ではありますが、石壁や地下水道が一部無事に残っております。数年前までは我々も狩りの拠点として使っておりました。近くに汚染されていない湧水もあり、なにより街道から半日程の距離で平地です。

 新たな都市を築くのにはうってつけかと」


「とりあえずそこで構わないかな? 落ち着いてやっぱり無理だってなったらまた違う場所を考えるから」


「望外の喜びでございます」


 始めに数人と状況を確認してから移動する事となる。道案内はレイモンドさんだ。


 半魔の村に移住する人達は、ラインハルトさんに即引き渡された。別れを惜しむ素振りはあったけれど、混乱も動揺もなかったから本人達にはもう話していたのだろう。


 移動の準備が整うまでの間に、ラインハルトさん達を半魔の村に送って、ついでに隠れ家を回収してくる事にした。


 荷物を持ってくるために、アルオルとジルさんにも同行するように頼む。


「じゃ、ちょっと行ってきますね。

 私達も一緒にその都市候補地に行きますから、準備を整えて待っていてください」


 見送ってくれた人達にそう話し、私達は移転した。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ