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168.世界に名乗りをあげよ

 しばらく視線を合わせたまま、互いに譲らず無言だった。ギルドから連れてきた人達の緊張が高まる。


「くっ、くく、はははは。ティナちゃんや、流石じゃのう。まさか迷いもせずにそう答えるとは思わなんだわ」


 我慢しきれないと肩を震わせて笑うクレフおじいちゃんを、毒気が抜ける思いで見つめる。


「御老!」


「よろしいのですか? その者はギルド所属のSランク。所有権は我らに……」


「黙れ。ティナは物ではないわ。そなたらも、現ギルド本部マスターの考えに毒されておるなら、さっさとこの地を去るがいい」


 叱責するクレフおじいちゃんの声は、真冬の鋼のような強さと冷徹があった。


「あの……」


「ああ、驚かせてすまなんだな。

 さてと、では解放者リュスティーナ殿。ギルド本部長老議会、議長として御身に提案がある。どうか時間を頂きたい」


 これがギルドのお偉いさんとしてのクレフおじいちゃんなのか、冷静な視線に貫かれる。


「クレフ、ティナ嬢が怯えています。我らが女王陛下に害を及ぼすならば、昔の仲間といえども容赦はしませんよ?」


 混乱している私を庇うように、レイモンドさんがクレフおじいちゃんとの間に割って入ってくれた。


「ふむ。先ほども感じたが、既にレイモンドを味方につけたか。流石、ティナちゃんじゃのう。なに、レイモンド、心配せんでもいい。わしとティナちゃんの仲じゃ。悪いようにはせんよ。

 ただ、ティナちゃんが作る国に我々冒険者ギルドの支部を作らせてくれればそれでよい。な、悪い話ではなかろう?」


「くに?」


 そんなつもりはなかったから、呆然と問いかけた。


「そうじゃよ。ティナちゃんはレイモンド達を守るのであろう? ならば解放者として、王となるしかなかろう。他国に庇護を求めるとしても、半魔を国民と認める国はあるまい」


「……クニ。え、国?」


「わが君。女王陛下。我々の忠義はただ御身の為に」


 アルオルとジルさんが恭しく頭を下げている。それに倣うように、半魔の村の人々も次々に忠誠と建国の祝いを述べていた。


「世界に名乗りをあげねばなるまい。それにはこの地に我々冒険者ギルドの支部があった方が形になろう。色々と加勢も出来る。

 それに、この元広域境界の森第8地区はこれから安定した国土とするためにも、魔物の討伐が急務。ならば我々の出番じゃて」


 損はさせないから安心して良いと笑うクレフおじいちゃんを見つめる。


「……おっしゃるように場所を変えましょうか。

 レイモンド村長と、出来たら数名、この村の代表として話し合いに同席してください。

 クレフ老、ご存知の通り、この地はまだ産声をあげたばかりです。税率や優遇措置、冒険者ギルドと国としての協定を結べるレベルではありません。

 ですから今からの話し合いは、あくまで国としての形が整うまでの繋ぎとなります。それを前提としてならば、喜んで解放者として話し合いのテーブルに着きましょう」


 大きな組織同士の話し合いなどやったことはない。だからレイモンドさん達にも同席して貰いたかった。


「当然じゃのう。今回はわしも現状確認に来ただけじゃし、軽く……そうじゃの、口約束程度で構わんよ。これからティナちゃんは忙しくなるであろうから、もしこのじじいの知識が必要であればいつでも連絡を寄越すんじゃよ」


「ありがとうございます。ではいつもの場所に隠れ家を出します。そこで話し合いを」


「リュスティーナ陛下、出来ましたら隠れ家は村の中央へ設置しては頂けませんか?」


 いつもの村外れに隠れ家を出して、そこで話し合いをと思ったら、ラインハルトさんが申し訳なさそうに話しかけてきた。


「ラインハルトさん?」


「ラインハルトとお呼びください。

 村の結界はまだ不十分です。不活性化したとは言え、邪気の影響はしばらく残りましょう。万一の時には、村人一同、隠れ家に逃げ込む許可を頂きたいのです。もし我々の忠誠心にご不審あれば『誓約』でもなんでもお望みのままに捧げます」


「ラインハルト!」


 言い切ったラインハルトさんに、レイモンドさんが怒声を浴びせる。初めてレイモンドさんの怒った声を聞いたかも。


「村長はずっと反対していたが、ティナがこの地の女王になるなら良い機会ではないですか。

 陛下の展開する隠れ家に魔物は入り込むことは出来ない。完全な安全地帯です。どうか我々にも貴女様の庇護を。湯を使わせて頂けるだけでも感謝すべきなのは分かっています。ですが、何卒」


 膝を付き頭を下げるラインハルトさんを、集まってきた村の人達が心配そうに見つめていた。


「うん、当然。ただ隠れ家は私の魔力で展開するし、出し入れの時に中に置き忘れたものは失われる。それに全員に快適な生活を保証は出来ないかもしれないけど、緊急時の避難先指定くらいならいくらでもしてください」


 あっさりと認めた私に、周囲が逆に慌てている。


 村人全員に一人一部屋、もしくは家族で一区画準備するのか可能かどうかは分からないけど、雑魚寝で良ければ何とかなる。


 緊急時には助け合うのが当たり前なのに、何をこんなに驚いているのやら。現に今までだってお風呂の貸し出しはしてたでしょうに。


「ならティナ姉ちゃん。お風呂は?」


 風呂嫌い代表のヨーゼフが恐る恐る尋ねてきた。これで入らなくても済むと思っていたのか、一時は満面の笑みだったのに不安そうだ。


「もちろんいままで通り。一声かけてくれれば貸すよ」


 うげっていう顔をするヨーゼフを母親が窘めている。


「はは、私は今から王様になるのかもしれないけど、ヨーゼフが知ってるティナだよ。普通にしていて」


 近寄って頭を撫でつつ周りの大人たちに聞こえるように話した。


「さ、隠れ家を出そうか」


 いつもの感じで話をしたら、ようやくみんなが笑顔になった。村の中央、申し訳程度にある広場に隠れ家を設置する。入り口は相変わらずの下り階段だ。


「さあ、クレフ老、皆さんもどうぞ」


 招き入れたクレフおじいちゃんとその一行をリビングに案内する。ここにどんな設備があるのか教えて欲しいと頼まれて、隠しても誰か他の村人から漏れるだけだから、皆が知っている程度の事は教えた。


「リュスティーナ殿」


「クレフおじいちゃんにそんな風に呼ばれると、なんか変な感じですね」


「うむ、ならリュスティーナ陛下のお許しが得られるならば、私的は場所ではいままで通りにさせていただこうか」


 是非そうして欲しいと頼んで、先を促した。


「では陛下、先程、ギルドの支部との話を致しましたが、この地の何処に新たな村を作られる予定ですかな?」


「新しい村?」


「ここは森の深部。交通網を作るのにもご苦労なされるでしょう。それに余所者を恐れる住民もいるのではありませんかな?

 ならばもっと森の端に新たな村をお作りになられるのでしょう。その場所の目星はついておいでか?」


 当然の事と言うように話すクレフおじいちゃんの言を受けて、半魔の隠れ里の住人達も頷いている。


「まだ決めてませんよ。さっきも話した通り、国になるのも知ったばかりです」


「ならばどんな場所が良いとかはあるのかね?」


「平地、水源があり、他国へのアクセスも容易。あとは稼げる場所も近くにあれば良いんですけど、それは冒険者ならばどこでも可能ですかね」


「ならば皆で検討して、後程、候補地をご報告しましょう」


 この森に詳しいラインハルトさんやレイモンドさんたちが請け負ってくれた。


「次は住人かの。冒険者達はそのうち大挙して押し寄せて来るであろうが、定住する住人や商店も必要じゃ」


「経済活動は重要ですからね。租税の問題も出てきますし、取り敢えずは最低限身内で回せればと思いますけど難しいかなぁ」


「支配の方式と租税関連でしたら、少しはお役にたてるかと」


 今度はアルが進み出てきた。


「あ、そっか。元高位貴族だもんね。ならどういうシステムを採用してるのか教えてくれる?」


 喜んでと話すアルフレッドに後からゆっくり話そうと決めて、クレフおじいちゃんに向き直った。


「では初期の住人は奴隷か流れ者かの?」


「は?」


「奴隷ならば陛下の心配する租税云々はなくなるからの。それに労働力として活用した後に、国が軌道に乗れば自由民とする事も出来よう」


「いや、そんなに急いで人を増やす気は……」


「増やさねば至高神様のオーナメントが発現せぬよ。神殿ひとつない国など、他国が認めまい。それに住む地を失い困窮しているものも世界には多い。ティナちゃんがこの地を解放し、呼び込めば感謝されるじゃろう」


 オーナメント? と首を傾げる私に、レイモンドさんが教えてくれた。一定以上のヒトが集まって暮らすと、職業選択の間を作る事が出来るオーナメントがある日突然現れる。それでもピンと来てなかった私に、クレフおじいちゃんが、ほら、デュシスに移転した時にあったヤツじゃよと言われて、多角形の水晶っぽい飛行体を思い出した。


「あー……アレ」


「うむ、あれじゃよ。あれがなくば職業にも着けぬし、各種神殿も来ぬ。発現条件は不明じゃが、多くの者が定住すると現れることは確認済みじゃ。定住者の確保は急ぐべきであろうのう」


 どうやって住人を増やすかは要検討と言うことにして、その場での確約は避けた。ただクレフおじいちゃんは何か腹つもりがあるらしく、意味深に笑っている。なんか嫌な予感がするなぁ。


「うむ、ならばわしらはこれで去ろうか。近々改めて協定を結びに来る。レイモンドよ、そなたとわしが持つ通信機を連絡として使いたいが構わないか」


「ええ、無論です。クレフ。

 この広域境界の森第8地区の解放の件、ギルドから世界へと広めてください。貴方ならば上手くやるでしょう?」


 詳しい内容はお任せしますと、こちらも腹を探らせない笑みを浮かべてレイモンドさんは話した。


「ふん、任せい。お主が驚く通告を作ろう。

 なら、急がねばならんな。ティナちゃんや、今日はこれで失礼するよ。

 ああ、わしの連れについては忘れて構わん。こやつらがこの国の担当になることはない」


 そんな事を話ながら、クレフおじいちゃんは足早に去っていった。疲れているだろうからと、あとはまた明日にしようとレイモンドさん達も帰り、隠れ家にいるのは私たちだけになった。


「怒涛……」


「お疲れ様でした」


「忙しくなるのはこれからだな」


「リトルキティ……いや、リュスティーナ陛下。さてこの後はどうするんだい?

 我々への指示は?」


 オルランドがいままで通りに呼び掛けようとして、改めて言い直した。苦笑を浮かべて否定しようとしたけれど、真顔で指示を待つ三人を見て思い直した。


「うん、なら前々から話していた身の上話を聞いてもらえるかな?

 チャンスは今しかなさそうだし、本当に私が国を作るなら三人には知っていて欲しい。聞いてもらえる? その上で各自が今後どうしたいか教えてくれると嬉しい」


 私が国を作るなら、前世の地球を参考にするだろう。社会システムも通貨も価値観もだ。ならば一番身近にいる人達には、真実を伝えておいた方が良いだろう。


 さて、どんな反応が来るか。少し楽しみで、凄く怖いね。





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