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15.宿屋に泊まろう

 思いの外長くなったギルドを出て歩く。

 午後も遅い時間になってしまったし、早目に宿屋決めないといけないな。


 クルバさんオススメの宿に、マップを見ながら向かう。


「らっしゃい、らっしゃい!」


「おう、にいちゃん、小腹空いてないか?どうだい!一本!!」


 道には屋台が並び、通りかかる冒険者相手呼び込みが絶えない。香ばしい肉の匂いが漂い、ヨダレが湧いてきてしまった。活気と熱気が凄くて、ついつい私も楽しくなる。


 ギルドの近くにある宿屋、飛び猫亭を覗き込もうとした時、扉から戦士風の男がすっ飛ばされてきた。

 その人を追う様にまだ中身の入った器が投げつけられる。


 ー酒臭い。


「てんめぇ、なにしやがんだ! オレを蒼海のメンバーと知っててやりやがったのか!!」


 続けて出てきた冒険者風の男と揉み合っている。

 こりゃ、喧嘩だね。


 血の気の多そうな、その宿はスルーすることにして、門前町の小春亭を目指すことにした。


 さっき入ってきた門から少し歩いて、一本奥に入った所にその宿はあった。

 二階建て、おとぎ話の民家っぽい煉瓦作りの建物は全体を木と暖色で纏められていて、非常に良い雰囲気だ。これでご飯が美味しかったら、常宿に決まりだな。

 そう思いながら、扉を潜る。


「あら、いらっしゃいませ。可愛いお客様だこと。お泊まりですか?」


 正面のカウンターから柔らかな声がかけられた。明るい所から暗い室内に入ったから、視界が見えにくくて数回瞬きを繰り返す。

 白髪に恰幅のよい、小柄なおばあちゃんがこちらを見て笑いかけていた。


「冒険者ギルドから紹介を受けてきました。とりあえず、今日一泊お願いしたいのですが、おいくらですか?」


「一泊素泊まりなら、銅貨30枚、朝夕食事つきなら銅貨50枚よ。10日なら食事つきで銀貨4枚半枚、一ヶ月なら銀貨12枚となります」


 相場よりも少し高めなのかな?クルバさんから聞いていたより二枚高い。誤差なのかな。それともご飯が良いとか?


「食事つきで一泊お願いします。銀貨で大丈夫ですか?」


 カウンターに銀貨を置きながら尋ねる。


「ええ、もちろん。ただ、お釣りは半銀(はんぎん)で良いかしら?」


 半銀?初めて聞いた。


「半銀、ですか?」


「あら、あなた、異国から来たのね?

 ほら、ダンジョンの魔物からドロップする三種類の貨幣があるでしょう?その、銅貨1枚の10分の1の価値があるのが"賤貨(せんか)"、銀貨の半分の価値があるのが"半銀(はんぎん)"、金貨の半分の価値があるのが"板金(いたがね)"よ。この国が発行しているものだから、国内でしか使えないのが難点だけれど、おサイフの重さも少なくてすむし、 国内の商取引には普通に使われているわね」


 へぇ、金貨、銀貨、銅貨以外の価値がある通貨を国単位で発行してるのか。細かいのがないと大変だもんね。なら両替商とかもいるのかな?顔には出さずに考察する。


 ちなみになぜダンジョン産の魔物からしか貨幣がドロップしないのかは解明されていないらしい。


「はい、もちろんです」


 実物が見てみたくて、即返事をする。

 まずは、女将さんからキーホルダー代わりに数字の書かれた木片付きの鍵を受けとった。


「はい、これが半銀よ。他の国でもそうだと思うけれど、魔物からドロップする真ん丸の硬貨と違って、国で作っているのは板か卵形だから慣れればすぐわかるわ」


 渡されたのは五センチほどの小判型の硬貨だった。普通の貨幣に比べて意匠が荒く、一部は掠れてしまっていた。

 私を物知らずの旅人と判断したのか、丁寧に教えてくれる。スキルで博学とか持ってるのに、けっこう抜けている知識がある。これは、要勉強だ。


 お礼を言い、二階にあると言う部屋に向かおうとすると呼び止められた。


「あら待って、夕飯は夕方の鐘がなってから夜の鐘がなるまでよ。あと、お湯は別料金、トイレと井戸は裏庭にあるから、自由に使ってちょうだい」


「はい。わかりました」


 今度こそ部屋に向かう。


 二階の階段の脇が私の部屋だった。扉を開けて入ると、服をかける葉の無い木のような衣紋掛けと、一人用の細いベットがある。

 ベットの脇には小さな机。窓はあるがガラスはなく、ドライフラワーが吊り下げられていた。

 窓の下の壁に立て掛けられているのは、クレフさんの家にあったのより随分小さいタライ。


 とりあえず机に荷物を置いて、ベットに腰かける。


 固ったい!!


 久々のベットだから、少し上から勢いをつけて座ったら思いの外固かった。

 驚いて、薄い上掛けを剥いぎシーツの下を覗き込む。厚手の毛布が折り畳まれ敷かれていて、その下は板だった。固いわけだ。


「これが普通なのかなぁ。こんな固いのは、小学生の頃の臨海学校以来だよ」


 思わず小さくこぼす。ぐるりと見渡し、他に目を引くものが無いことを確認して買い出しに出ることにした。


「あら、お出掛けかしら?なら鍵を置いていってね」


 カウンターに座っていた女将さんに鍵を預けて中央広場を目指す。旅の間にケビンさん達にだいたいのお店の位置は聞いている。

 女の子向けの小物や洋服の店の位置まで、かなり詳しくわかっていて一瞬引いたが、狩人のカインさんには奥さんと女の子がいて、荷物持ちに連れていかれるんだ! だと血相変えて弁明されて納得した。

 ちなみに、後の妻帯者は盗賊のジョンさんだけで、残り三人は独り身の宿屋暮らしだと自嘲気味に教えられた。

 家族持ちは、借家や自分の家に住んでいるらしい。


 カラン


 涼やかな音色と共に、まずは服屋に入る。ここは既製服とオーダーメイドの両方を扱っている店だ。


「いらっしゃいませ」


 肩口で切り揃えた髪が美人の店員さんに声をかけられた。


「何か探しているの?」


 笑顔で問いかける店員さんに、直接伝えるのは少々恥ずかしい。


「あの、下着と靴下を探しています…」


 うん、顔真っ赤だわ。でも切実に足らんのよ。


 店員さんは動揺するでもなく、入口から見えにくい奥まった一角に案内してくれる。

 目の前には、様々な形の下着がある。ドロワーズ(カボチャパンツ)、ビキニタイプ、普通の、可愛いけれど股ぐりが浅いもの。

 素材も布、レース、よく分からないモノと様々だ。

 上用の下着は、シャツかタンクトップかキャミソールくらいしかなく、ブラは見当たらない。

 その代わり、片端に切れ目の入った短いサラシみたいなものが置いてある。

 あとは、コルセットもあるが、それには用がないから視界の外に押し出した。


 予想外に充実していて驚いてしまったが、目の前の下着から動きやすく、壊れにくそうなものを選び出していく。


「あの、これ…」


 手に短いサラシをもって店員さんに声をかけると、案の定、胸に巻いて揺れないようにするためのものだそうだ。端の穴に通して中に折り込む様にして外れないようにするのがコツよ?と、ウインクしながら教えてくれる。

 女性冒険者たちがよく買っていく人気商品なのだそうだ。


 三点セットで10組選び出し、靴下売り場に移動する。実は、転生時にあったわたしの下着は全部カボチャパンツで凄く辛かったんだわ。ごわごわするし。上はないし。


 商品を落としそうになっている私を見かねて、店員さんは一度カウンターに下着類を預かってくれた。


「靴下ならここね。でも、お嬢さん下着も靴下も安いものじゃないわ。そんなに大量に買って大丈夫なの?」


 払えるのかと言う心配ではなく、純粋に私を心配してくれているみたいだ。世間知らずのカモが来たって感じなのかな。


「えっと、大体おいくらですか?」


 所持金は大量にあるから本来は聞かなくても良いけれど、怪しまれるのも嫌だから一応確認しておく。


「そうねぇ、下着類は全部で銀貨10枚ってところかな?」


「なら、全く問題ないです。靴下も、歩きやすいのを中心に20足ほど下さい」


「20っ!!」


 店員さんが驚いているけれどかまっていられない。まだまだ買いたいものは沢山あるんだ。急がないと今日中に終わらなくなってしまう。


 並べられた靴下から、ゴムもどきが裾に入っていてずり落ちないものを選び出す。あんまり数がないから、在庫のほぼ全てを購入することになった。


「その商品はビック・スパイダーの糸を織り込むことにより、伸縮性を持たせた一級品よ。さっきの下着より高くつくわ」


 全ての商品をカウンターに運び会計をしてもらう。


「沢山買って貰うから、おまけするわね。全部で銀貨35枚で良いわよ」


 財布代わりの無限バックから銀貨を出して払う。初めてポイント変換した硬貨を使うこととなった。買いすぎの気もするけど、後悔はしていない。


 またお越し下さい。という店員さんの声に見送られて次の店に移動する。最後の方はいやに丁重だったなぁ。

 人目に付かない場所で、アイテムボックスに全て突っ込んだ。


 次の狙いは、前々から気になっていた財布代わりのポーチだ。


 大きなものから小さなものまで、様々なバックが所狭しと吊り下げられている。

 私が欲しい、小さな袋はカウンターの脇にまとめられていた。


 カウンターの背後には、目立たない大小の袋が一つ一つ棚に入って並べられている。地味なのになんでだろう?


「いらっしゃい!何を探してるんだい!?」


 カウンターで刺繍をしていたご婦人が、予想外の威勢のよい声で尋ねてくる。私の視線が後ろに注がれているのに気がついたのか、説明してくれた。


「これかい?魔法のカバンさ。大容量のものからちょっとだけ多くはいるのまで様々あるよ!」


「え、無限のは?」


「バカお言いじゃないよ!無限バックなんて迷宮(ダンジョン)のレアドロップ品だよ!!こんなところにあるはずないさね!」


 え、私、大中小、しかも中は二個も持ってますけど?


 不機嫌そうに私を見つめるご婦人の不興をこれ以上買わないうちに、退散することにした。手近にあった刺繍の、可愛い巾着を買う。ちょうど無限バック(小)がぴったり収まるサイズだ。


 店をで次第、財布を巾着の中に入れる。これでパッと見、無限バックとはバレないだろう。


 さて、次は食料の買い出しだ。そろそろ夕飯の始まる時間だし、巻いていこう。

 本当は武器屋にも行きたかったけど、それは明日にするしかないかな。となると、もう一泊宿を取らないと駄目か。スプリングが効いたベットがある宿屋さんってないのかしら?


 中央広場に戻り、その外周を歩く。

 沢山のテイクアウト用の屋台が並んでいる。焼き鳥、焼き肉串、粉もの、パン、サンドウィッチ、出来合いのものを迷わず買い込み、人目に着かないところでアイテム・ボックスに収納していく。私は肉派。ここの広場にある屋台は肉料理とパンものばかりだが、不満はない。


 ちなみに、ご多分に漏れず、アイテム・ボックス内は時間経過はない。無限バックは恐ろしくゆっくりとだが、バック内も時間が流れていた。


 もう店じまいの所も多かったせいか、だいぶおまけしてもらえた。多分、今日買ったものだけでも、一週間は生きられる。甘味を見つけられなかったのがイタイ。マリアンヌに明日あったら、忘れずにオススメの店を聞こう。


 夕方の鐘が何処からか響いてきたので切り上げる。あとは明日の朝、食材を買って、武器屋に寄って目立たない装備を手に入れて、初めての依頼といきましょう!




 さて、小春亭に戻って来ました。夕飯の時間が始まったようで、カウンターの脇を抜けた食堂から明るい声が漏れてきている。


「お帰りなさい、はい、鍵よ」


 食堂の中で配膳をしていた女将さんが一度カウンターに戻り、鍵を出してくれた。食堂にはもう一人、二十歳前の女の子もいて、忙しそうに動き回っていた。


「食事ももうできるわ。すぐ食べるかしら?」


 頷く私をカウンターに案内すると、泊まり客の夕飯メニューは決まっているとのこと。もし好き嫌いや、体質に合わない等で食べられない時や、足らないときは、別料金で追加するようにとメニューを渡される。


「あら、でもお嬢さん、文字は読めるかしら?難しいなら、誰かに相談してね?」


「大丈夫です、読めます。ただこちらは初めてなので、わからない料理名があったら質問するかもしれません」


 うん、一行目にある、「ケフラン煮込みボルエ風」からしてわからない。ケフランってなに?ボルエって、地方の名前かなにか??値段も他のと比べて一桁多いし!


「文字が読めるなんて、頭が良いのね。

 ええ、料理の内容ならいくらでも聞いてちょうだい。作っているのは夫だけど、内容は分かるわ。

 今日の夕飯は、パンと温野菜ササナ風。巨大ウサギ肉のローストに、スープよ。飲み物は一杯だけサービスで付くのだけれど、アルコールは飲めるかしら?」


「飲んだことないのですが…」


「あら、そうなの? でも、生水って訳にもいかないし。そうねぇ、ならシードを水で薄く割ったものにしましょうか?

 知ってると思うけど、シードはリンゴ酒のことよ。甘口に作っているから、お嬢さんでも美味しく飲めるはず。少しお待ち下さいね」


 そう言い、カウンターの中に入る。しばらく他の泊まり客を見るともなしに観察していると、女将さんがトレーを抱えて戻ってきた。


「さぁお待たせ!沢山食べてね」


 バスケットに入った大きめのパン三個。深皿一杯の大盛りのスープ。30センチほどの皿には上半分に薄いピンクのソースがかかった湯がいた温野菜、下にはサイコロに切られた山盛りのステーキ。飴色のソースからは香ばしい良い匂いが漂っている。

 最後に中ジョッキと同じくらいの大量の飲み物を置いて出来上がりだ。


「凄い!美味しそう!!」


 思わず歓声を上げる。ここ一週間、粗食だったからバランスの良い食事は本当に嬉しい。


「うふふ、ありがとう。しっかり食べて。足らなかったら、声をかけてね。何か足すわ」


「え、こんなに食べきれないかもしれませんよ!でも、頂きます」


 食べ始めた私から、女将さんは離れ、別のテーブルに注文を取りに行く。どうやら、そのテーブルは今日宴会らしい。

 赤ら顔の中年男性を中心に6人ほどで陽気に騒いでいる。


 漏れ聞こえた話から、おそらく、行商人。それもこの町で取れる素材を王都まで運び、王都から仕入れた流行品を町で売りさばいているらしい。今日、最後の大口の仕入れが終わり、明日にはここを発つそうだ。


 ーお腹苦しいなぁ。


 無言で次々と皿を片付けていたけれど、半分ほど食べたところでお腹が苦しくなってしまった。

 周りが私に注目していないことを確認して、コッソリアイテムボックスに残りを収納する。

 さすがに汁物はどうなるか分からなかったから、無理をして飲みきった。


「ごちそうさまでした。美味しかったです」


 盛り上がる周りへの対応で忙しそうな女将さんに声をかけて上に上がる。


 あ、お湯貰うの忘れてた。


 部屋に入りタライを見て思い出す。まだ下は忙しそうだし、どうしようか?まぁ、魔法で水を出す事もお湯に変えることも簡単に出来るけど、やったら怪しまれるかな?


 しばらく待ってみて、下が落ち着いたらお湯を貰うことにして、一度休憩することにした。と言っても、娯楽もない部屋でベットも固いとなると、すぐ飽きる。


 思い付いて、アイテム・ボックスから今日買った下着類を出してタライに入れる。そのまま、階段を降りて裏庭に出ると、壁際に井戸があった。井戸の周りは石が敷き詰められていて、汚れないようになっている。


 タライに水を汲み、一度全ての下着を軽く洗う。薄い色ばかりだから色移りの心配はないけれど、一応そのなかでも濃い目の色の物は後から洗った。やはり少し色のついた水を、近くにあった側溝に捨て、再度水を汲んだ。その水を湯気がたたない程度のぬるま湯に変えて、洗剤を入れる。

 この洗剤と、手荒れ防止の台所用ゴムもどき手袋(黒)は部屋で宝玉(アーティファクト)から作り出したものだ。


 黒い手袋は夜だし、遠目にはパッと見、革手袋に見えるはず。今も宿屋から漏れる光で洗濯しているけど、かなり薄暗いし多分バレない。大丈夫。


 あー、ランタンか松明でも買ってくれば良かったかな。初級魔法が使えるとバレてるし、ライトの魔法くらいは使ってもいいかしら?


 再度、色の薄いものから手洗いしてざっと絞る。布地が痛むよりはと、シワを軽く伸ばした後は、魔法で乾かし風圧でプレスして形を整える。その後はまたアイテムボックスに収納した。


 靴下も同じように洗い終わったときには、食堂の喧騒も随分静かになっていた。


「あのぅ、女将さん、お願いがあるのですが…?」


 壁際で休憩していた女将さんを見つけて声をかける。


「あら、どうしたの?」


「遅い時間に申し訳ありませんが、お湯を頂きたいのですが、大丈夫ですか?もし忙しい様でしたら、結構です」


「あら、遠慮しないで。ようやく落ち着いてきたし、大丈夫、銅貨三枚だけれど良いかしら?タライも持ってきてくれたのね、準備の良いこと。ありがとう、すぐに渡すわ」


 頷いて銅貨を渡すと、そういってタライを受け取り、キッチンの方に入っていく。


 入口から覗いていると、まずタライに水を汲み、そこにビー玉っぽい紐で縛られた赤い玉を入れる。

 しばらくすると、タライから湯気がたち昇る。


「お待たせ。はい、お湯よ!

 あら、どうしたの?湯沸しの魔石がそんなに珍しいのかしら?これは安物だから、熱湯までは温度が上がらないし、そんなに心配しなくても火傷はしないわよ」


 湯沸しの魔石ですか、それ、なんて、ファンタジー。今、私は異世界に来た実感を初めて感じたかも知れない!


 浮き足だったまま、重くなったタライを抱えて部屋に戻ろうとする。


「あ、少しだけ待って貰えるかしら?

 実はね、さっき洗濯をしているお嬢さんを覗いているお客様がいたのよ。本人は強い魔力を感じたと言い訳していたけれど、一応、大丈夫だとは思うけれど、部屋の鍵はしっかりかけてね。

 明日には出発する旅人さんだし、大丈夫だとは思うのだけれど、何かあったら、大声を上げなさい。下に私たち夫婦も住んでいるからすぐ駆けつけるわ。まぁ、部屋は知られていないはずだから、おばぁちゃんの気にし過ぎだとは思うのだけれど」


 他の客に聞こえないように小声で教えてくる。そんなに大丈夫を連呼されると余計に不安になる。なに、今の私に欲情するなんて、真性のロリですか?!


 現実逃避に余計なことを考えていたが、現実は変わらない。


 ゲッ、さっきの見られてた。ヤバイなぁ。

 どうしようか。

 でも、あの程度で強い魔力って、どんだけ弱いんだよ。


 反応しない私を心配そうに見ていた女将さんに、教えてくれたお礼を言って部屋に戻った。

 無論、地図は表示して、誰かいないことを確認しながらだ。


 部屋に入り、鍵を閉め、ついでに魔力感知系と透視系妨害魔法を使った上で魔法の鍵で施錠もする。これで扉を無理に開けて入るくらいなら、隣の壁をぶち破った方が楽な程度には強度が上がった。部屋にライトで明かりを灯す。


 タライを床におき、少しばかりさっきの行動を反芻してみた。


 問題になりそうなのは、台所用ゴムもどき手袋、洗剤、乾かすのとアイロン代わりの魔法かな。


 万一の時の為に、言い訳は考えておかないと。

 それ以上に、もう会わない、認識されないのが重要。


 ってことで、結局前に着けたときは目立った効果を発揮しなかった首飾りと絶対守護者の腕輪を再度装備する。


 名脇役の首飾り:装備者がどんなに目立つ行動を取っても、主役になれない首飾り。絶対に目立ちたくない、そんな、シャイで引きこもりなあなたにぴったり。ただし、脇役になるにも限度はある。


 どの程度までが限度か知らないけれど、今回はおそらく有効だろう。人目に付かないはとても大事。

 後は、ギル達との戦闘で分かった事だけれど、私は状態異常全耐性なだけで、無効ではない。モノによっては効いてしまう。保険は必要だ。この二つはしばらく外すことはないだろう。


 そこまで準備をして、部屋全体に防御陣の魔法をかける。ここまでして、ようやく少し落ち着いた。いきなり逃走しなくちゃならないかとビビったわ。


 服を脱ぐのがイヤで、浄化魔法を使い、顔と手足だけを布で拭いた。今日はお風呂は我慢だ。


 透視系のスキルを警戒しながら、ベット周辺だけ2重に防御陣を張り眠りについた。




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