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167.イヤだ!なんでボクらが

 疲れきった私に、レイモンドさんからの衝撃発言が襲う。


「一体何を」


「おや、出発前にそちらのアルフレッド殿と話していたでしょう? 貴女の祖国であるゲリエと同じことが出来ると。お忘れですか?」


 レイモンドさんは自分こそ不思議だと言うように、私を見つめ返していた。それに更に答えようとしたところで、ジルさんが控えめに咳払いをする。


「すまんがティナ、アルオルが限界だ。どうする?」


「あ、ごめん。アルオル、寝てていいよ。後は運んどく」


 呻くように申し訳ありませんと話したアルオルは地面へと沈没した。


「とりあえず隠れ家を出しますか。

 レイモンドさん、話はそれからで……。お風呂入りたい、眠い」


 ぶつぶつと呟きながら、隠れ家を出した。ジルさんがアルオルを順に担いで中に入ろうとしていたのを止めて、魔法で浮かせて中に入る。


 レイモンドさんにリビングで待っていて欲しいとお願いして、いつもの客間にアルオルをそれぞれ寝かせた。


「ジルさんも良かったら休んでいて下さい」


「いや、大丈夫だ」


 そんなやり取りをしつつ、リビングに戻る。ソファーに腰かけて待っていたレイモンドさんは、私の顔を見ると席から立ち上がり頭を下げた。


「それで何でしたっけ? 解放者?」


 疲労でぼんやりとする頭のまま、レイモンドさんに問いかける。


「はい。そうです。そもそもリュスティーナ様は境界の森と冒険者ギルド、そして世界との関係をご存じですか?」


 私の反応を見て何も知らないと判断したのか、レイモンドさんは問いかけてきた。スキル博学で調べれば分かるのだろうけれど、その気力が湧かずに首を振る。


「……ならば先ほどの反応もわかります。貴女様の父上は本当に何も話さなかったのですか」


 出来るだけ簡単に話しますが長くなると前置きして、レイモンドさんは冒険者ギルドと世界の歴史を語り出した。ここまで疲れてなければ、面白い話なんだけれど、今は勘弁してほしかった。


「……そんなわけで勇者が初代解放者となり、減り続けていた安全な土地を取り返せることを世界に示しました。各国は境界の森の解放を目指し、沢山の兵員を送り込みます。それに失敗すると、今度は解放する実力を持った勇者の争奪戦となりました。それは血で血を洗うものとなり、しばらくすると直接的な暴力では無くなりましたが、更に陰湿な策謀へと形を変えていったのです」


 とうとうと流れるように語るレイモンドさんの声をバックに、ジルさんが船をこぎ出した。私も眠いなとあくびを噛み殺しながら続きを聞く。


「事態は全世界へと広がっていき、解放者となった勇者が国を建てるまで続きました。勇者は自らが解放した土地を国土と世界に宣言しました。それがゲリエにある第6境界の森です」


「はあ……」


「眠そうですね。お疲れのところ申し訳ありません。手短に済ませましょう。

 王となった勇者は、冒険者ギルドに協力を求めます。そして『境界の森を解放した者にその所有権を認める事』『通常、境界の森の管理は冒険者ギルドが行う事』を世界に認めさせました。それが定まるまでも、かなりの時間と血が消費されたと聞き及んでいます。

 ちなみに第6境界の森がゲリエに管理されていたのは、解放地であった名残です」


「ならいっそのこと、解放した事を発表しなければそれで済むのでは? 言わなきゃバレないでしょ」


 解放した土地の所有権云々になるなら、世界に言わなきゃそれで済む話だ。そう思って話す。


「残念ながらそうはいきません。

 境界の森には冒険者ギルドから派遣された観測者がいます。その者から既にギルドには報告が入っているでしょう。

 数日中にも誰かがこの地を訪れるはずです」


「ならばその人に、私は所有する気がない事を伝えればいいですかね。レイモンドさんが王になればいいのに」


 その私と言葉には悲しそうな顔で「半魔ですから」と否定するレイモンドさんに今日はこのまま隠れ家に泊まるように勧めた。ダビデの部屋に案内するのは嫌だったから、主寝室に戻ってもう一部屋、客間を追加した。


 レイモンドさんも村も落ち着いているだろうから、明日アルオルが目覚めてから共に帰ると言ってくれた。これで帰ったら村長が戻っていないという事態にはならないと、胸を撫で下ろす。単独行動して消えるって、良くあるよね。


 後衛がひとりでここまで飛んでくるのも、かなり危険な行為だ。帰り道くらいは一緒に戻って貰いたかった。


 以前何度か泊めていたから、レイモンドさんに、隠れ家の使い方の説明は不要だ。それも宿泊を強く勧める理由だった。







 翌日、目覚めたアルオルに事情を話し、ラインハルトさんはいるとは言え、長く村を空けていてはさすがに危険だと取り敢えず半魔の村に戻ることにした。


 目覚めてすぐに、二人に頼まれて鑑定し、アルフレッドの種族は私と同じ「半人半神」オルランドの種族が「真人」であることは確認している。


 ……人間には二種類の進化先があった。その内、神の階へと登れるのは「半人半神」だけらしい。二年間で調べた進化と魔物についての知識を反芻する。


 進化とは新たにこの地に現れた因子、つまりは邪気の影響を受けることだ。ミセルコルディアから吹き出した邪気は噴出点を経由し、世界にばら蒔かれる。それが集まり魔物となる。


 その魔物をこの世界の生き物が倒すことにより、邪気は調律神メントレの影響を受け、世界に有効な物質へと変化する。


 ドロップアイテム、経験値、魔物の核。様々な物質へと変化し世界に組み込まれていく。物質として消費される以外にも、生き物は経験値を身に受け続け、吸収限界を超えた瞬間さらなる効率化を目指し『進化』する。

 より経験値を……いや、邪気を吸収し、この世界を循環する力とする為に行われる行為だ。


 その中でも一部の生き物が『神の階』に昇る。人間だけは神の階を昇る者と昇らない者がいて、アルや私は昇る方の進化だ。その他の種族はみな行き着き先は一緒らしい。でもその先に何があるかは誰も知らない。神になって消えた相手が現れることはないからだ。まったく、行き着く先は一体何なのだろう?

 博学で調べても、何も分からなかった。


 ちなみにこれは博学から調べあげた内容で、世間一般の知識ではない。普通の人たちはそんなもんだで過ごしている。


「リュスティーナ様、そろそろ地上に。結界の中に入ります」


 考え事をしていたら、レイモンドさんに声をかけられた。昔使った空飛ぶ布を出して、一路村に向かっていたのだけれど、随分近くまで来ていたらしい。





「ティナ姉ちゃん!!」


 私の顔をみたヨーゼフが嬉しそうに駆け寄ろうとしていた。でも後ろから抱きついて止めた母親に無理やり地面に座らせられている。


「お帰りなさいませ、リュスティーナ様。

 村長、御無事で何よりです」


 留守を守っていた自警団の団長ラインハルトさんが代表して話しかけてきた。残りの居合わせた人々は一様に腰を折っている。


「ラインハルト、ご苦労でした。

 さあ、リュスティーナ様、とりあえず私の家へ。今後についてお話し合いをさせてください」


 恭しく手を差し伸べられて、レイモンドさんに誘導されかかった。


「いや、何の演技ですか。

 やめてください。皆さん、普通にしていて下さいよ。私はこの村の住人だから、少し頑張っただけです。もしそれでも気になるなら、Sランク冒険者として依頼を果たしただけって事でいいですから」


 苦笑しながら立ってくれと頼むが誰も立ち上がらなかった。それどころか、女王陛下と更に膝を屈して私を迎える。


「ティナちゃんや、立てと言うても、そやつらにとって今のティナちゃんは生殺与奪を握る相手じゃ。無理を言うで無いわ」


 建物の陰の方向から聞こえてきた懐かしい声に、顔を向けた。


「クレフおじいちゃん?」


「久しぶりじゃのう、ティナちゃんや。すっかり大きくなって。ますます美しくなったものじゃ」


 にっこりと微笑みながら建物の陰から出てきたクレフおじいちゃんの後ろには数人の同行者がいた。


「御老?」


「ふふ、あれが解放者リュスティーナじゃよ」


「クレフおじいちゃん、お久しぶりです。でも何故ここへ? 来るにしたって早すぎませんか?」


 観測者とやらの報告を受けたとしても、まだ一日しか経っていない。いくらなんでも冒険者ギルドが動くにしては早すぎるだろう。


「……ティナちゃんがこの地を解放したと聞いての。Sランク冒険者であるそなたがどうする気なのか確認にきたんじゃよ」


 私の疑問を受けてクレフおじいちゃんは話す。


「どうする……とは?」


「この地は、我ら人の手に取り戻された。協定によりこの地の解放者となったティナちゃんに所有権がある。どうする気じゃ。どこぞの国にでも売り渡すのか? それとも攻め込まれ国土の大半を失のうた生国に渡すのかね。それとも我ら冒険者ギルドに貰えるのかのぅ。

 そなたは冒険者。所属はギルドじゃ」


 最後のほうは冗談めかしていたけれど、目は笑っていない。それどころか、クレフおじいちゃんの連れの人たちは値踏みするように私を見ている。


 私がこの広域境界の森の解放者のひとりであることは、もう既にバレているらしい。


「私がここの支配者ですか? 何を愚かな事を。この地はこの村の人々のもの。私がどうこう言うことではありませんよ。何処かの国にも渡さないし、冒険者ギルドの支配地域にするつもりもありません。

 もし私がいることで所有権云々になるなら、私がここを出ていきますよ」


 支配する気なんかないからそう話したのに、周囲で聞いていた村の人々が息を呑んだ。


「ティナ姉ちゃん! 行かないで!!」


「リュスティーナ様! どうか」


「私らを見捨てるのかい?」


 口々に非難されて混乱してしまった。困っている私に気がついたレイモンドさんが、村の人達を落ち着かせ説明してくれる。


「リュスティーナ様がこの地を去れば、支配者不在となったこの地は、周辺の国々により切り分けられるでしょう。

 我々は存在を許されぬ半魔と、種族のタブーを置かしたはぐれ者の集団。この地の先住民として認められることはありません」


「ならなんで、あの時、邪気の噴出点の話をしたんですか? 時間がかかっても魔物を狩る事で邪気濃度を落とせば、この村の在り方に変化はなかった」


 私の見込みが甘かったのだとレイモンドさんは肩を落とした。


「まさかリュスティーナ嬢がこれほど強いとは思わなかったのです。噴出点に向かえば、魔物が押し寄せてきます。それを叩くだけでも十分でした。あわよくば噴出点を直接攻撃していただき、しばしの安寧をと欲を出したのが間違いでした」


 申し訳ないと私と村の人達に頭を下げるレイモンドさんを見て、誰も何も言えなかった。まともに戦える数人は今回のレイモンドさんの計画を知っていたのだろう。ばつが悪そうにしている。


 要するに今回の事は私のやりすぎが原因ってことなのか。頑張ったのに空回ってしまったか。


「ティナ嬢が悪いのではありません。どうか勘違いをなさらないでください。

 我々はこの地を離れてもよいのです。私が住む場所を変えれば、村も移動せざるをえない。ですから気に病まないで下さい。何処か別の境界の森を探します」


 諦めの漂う周囲の空気に反応してヨーゼフが母親の腕から抜け出した。


「イヤだ!! ボクはここから動きたくない!

 なんでボクらが住んでる場所を追い出されなきゃいけないんだよ。そんなのは変だ!!

かぁちゃん! みんな! なんで当たり前の顔をしてるんだよ!!」


「半魔として生まれたならば仕方のないことなの。生き残る為には目立たず争わず、身を伏せて生きるしかないのよ。ねえ、ヨーゼフ、いい子だから我慢してちょうだい」


 イヤだイヤだと泣くヨーゼフを必死に宥める声がする。


「…………クレフ老、私はここの人々が、この地から追い出される事を認めません。私が状況判断を誤り、この村を苦境に立たせてしまったのなら責任はとります。例えクレフおじいちゃんでも、冒険者ギルドでも、ここを我が物にする気なら、唯々諾々と従うわけにはいきません」


 啜り泣きが響く中で、きっぱりと話す。


「ならぱどうする気じゃね?」


 さっきまでと違い突然きっぱりと話し出した私にギルド関係者達が警戒の視線を寄越す。一部は武器に手をかけていた。それを制したクレフおじいちゃんが、私の覚悟を問う。


「共に戦った仲間が許してくれるなら、私はこの地の解放者となりましょう。

 そして、私はこの地の支配者として、この村の人々を認めます。その文化も価値観も生存権も全てです」



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