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140.どうしたものか

 私の護衛としてピン君だけが、サユースさん達と同行することになった。それ以外のメンバーとは王城で別れた。奴隷君も当然の事ながらお留守番なんだけど、残されると知って可哀想なくらい震えていた。その他の残ったメンバーに手出し厳禁とは話してきたけれど、どうなることか。


「ティナ、久しぶりだね。この数日どうしてたんだい?」


 私の顔を見て、笑顔で問いかけるサユースさん達に合流する。


「もしかして無いとは思うけれど、あの後嫌がらせはないだろうね。あるんなら、このババに言うんだよ。とっちめてやるから」


 虫ご飯で悲鳴を上げた騒ぎは、サユースさんの耳にも入ったようで、公式に獣人の国に抗議したらしい。事件の翌日、略式に謝罪を受けた時に、政府の高官から教えられていた。


「あの後、遠巻きにされるくらいで何もないので大丈夫です。それよりも今日は何を?」


「それさね。この国に掛かっている呪いだがねぇ。予想以上に厄介なものだったのさ。だから素材を王宮に手配させて、幾つか中和剤を作ったんだよ。それを試そうと思ってるのさ」


 そう話しながら、サユースさんは護衛の兵士達を置いてきぼりに、道を歩いている。慌てて追いかける兵士に混じって私も後を追った。






「……これも、駄目かい。まぁ、今までの中では一番マシになったから、中和剤の方向性はこれで良いようだね」


 街の外れに作られた特に症状が酷いもの達が集められた隔離病棟で、サユースさんは苦々しくため息混じりに話している。


 色々な種類の獣人に中和剤を試したけれど、どれも完全に呪いを解く事が出来たものはなかった。


「そう言えば」


「ん? どうしたね、ティナ」


 ふと疑問が口をついて出てしまった。患者を観察していたサユースさんが私に問いかける。


「いや、何で中和剤なのかなと。呪いなら解呪か解除薬なのでは?」


 そもそもの素朴な疑問だ。中和しなくてもそもそも治しちゃえばいいのに。


「あぁ、それかい。……周りも気にしているみたいだね。神殿で王が待っている。着いたら説明しよう。今は待っておくれ。二回同じ説明をするのは面倒だ」


 私の疑問を受けてサユースさんはここでの実験を辞めて、移動することにした。そのまま外で待たせている馬車に進む。


「?」


 視線を逸らして去ってしまったサユースさんの後を追う私にピン君が耳打ちしてきた。


「陛下のところには、オスクロ殿もいるはずです。僕もサユース殿が何故解呪を目指さないか知りたいので、是非お供を」


「止められない限り、好きにしていいんじゃないかな?」


「ありがとうございます。僕の家族や一族にもきっと犠牲者が出ています。だから、現状がどうしても知りたい」


「あー……口止めされたら沈黙してね」


 分かっていますと頷くピン君と一緒に、サユースさんの待つ馬車に乗った。





「さて、陛下。やはり準備して貰った素材では、何ともならなかったよ」


 初めてこの国に来た時に出た神殿の一室に通された所、そこには扉を背に窓から空を見上げる虎の陛下がいた。


 サユースさんが開口一番そう話すと、明らかに肩が落ちた。そのまま、護衛達に下がっている様に伝える。

 私も下がるべきかと悩んだけれど、サユースさんに残る様にと言われた。私の護衛役のピン君については誰も何も言わなかったから、壁際の目立たないところに控えた様だ。別の壁際にはオスクロが立っている。


「やはり駄目でしたか」


「ああ。予想通り術者の死で呪いが強化されている。しかもベースは異世界の創造神、国産みの女神ミセルコルディアのものだ。調律神メントレに見捨てられた私達じゃ、太刀打ち出来ないよ。

 ……馬鹿な息子が迷惑を掛けてすまないねぇ」


「では、間違いなく御子息、先のダンジョン公アルタールが、この地を呪ったと?」


「ああ、ほぼ間違いないだろう。何が目的でここを呪ったのかは知らないし、想像も出来ない。ただこの呪いの残滓(ざんし)には確かに息子アルタールの気配を感じる。

 このババの命で償えるならばどれだけいいか。私の命ひとつで解呪出来るのなら、喜んで死ぬものを」


「サユース殿! その様な事は。しかしではどうしたものか……」


「この世界が女神ミセルコルディアの世界と混ざる前の、浄化の力を持つアイテムがあればあるいはとは思うけれど。やはり騎士団の協力を仰ぐ事は出来ないのかい? あのアイテムがあれば……」


「あれは我々の、この国の始まりを祝うアイテムです。それに例え命じたとしても騎士団のもの達が手放すとは思えない……」


「だが、あれを使えばこの国の窮状を救える」


「一度の窮状と、連綿と続くこの国の正統性の証。私自身も今回の事にアレを使ってそれで神の怒りを買わぬか、それがご意志に添うことなのか恐ろしさで身が震えます」


 何かのアイテムを求めるサユースさんと、それを渡すことを渋る王様はその後も言い争っていた。


「ともかく、今しばしお待ち下さい。兵士達に命じて、更に手に入りにくい素材を手配させております。アレに手を出すのは最後の手段です」


「出来るだけ急いでおくれ。日に日に呪いは定着し、解呪が難しくなっていく。その内私でも、どうしようもなくなるよ」


 話し合いが一段落したタイミングを測っていた様に、出入口の扉が強く叩かれた。


「陛下! 失礼致します!!」


 返事を待つことなく飛び込んできた兵士の前に、オスクロが立ちはだかる。


「何事だ?!」


「大変です!! 王妃様がお倒れになりました」


 兵士は武器に手を掛けて問いかけるオスクロに頭を下げつつ叫ぶ。その一報に動揺した虎の陛下は、兵士に駆けよって揺さぶりながら詳しい話を聞いている。


「これにて失礼する!」


「お待ち! 陛下。このババも行くよ」


 オスクロに私を王宮へと送るように言いつけて、兵士に先導されて、虎の陛下とサユースさん、そしてお弟子さんは去っていった。


「とうとう王妃様までも……か」


「までも?」


 独り言の様に呟いたオスクロに問いかけた。


「王太子殿下も一月(ひとつき)ほど前にお倒れになった。此度は王妃様か。陛下のご心痛もいかほどか」


「え? 王太子殿下もお倒れに?」


「ああ、ピンは知らなかったのか。最近ご公務にもお出ましにならず、休養をとられている」


「そんな……」


 ショックを受けて黙り込むピン君を見つめてから、オスクロが私に改めて話しかけてきた。


「ティナ、すまんが混沌都市まで行って来てくれ。あちらにも浄化系のアイテムを集めてもらえるように依頼していた。その第一陣が準備できたとの連絡がきた」


 サユースさんも了承済みの件だと話されて頷く。


「神殿経由?」


「いや、他国からアイテムを集めていることは知られたくない。お前なら自前で移転可能と聞いた。すまんが自力で頼む」


「了解」


「書簡をダンジョン公の居城に届ければアイテムを受けとることが出来るはずだ。それともし混沌都市で何かやりたいことがあるなら、今日の夕刻まで戻ればいい。アイテムは明日以降陛下からサユース殿に渡すことになっている。遠慮せずにやってこい。どうやら長丁場になりそうだ」


 オスクロが懐から取り出した書簡を受け取りながら、他に注意事項はあるのかと尋ねた。


 否定するオスクロと心配そうに私を見つめるピン君に挨拶して、迷宮都市へ向かった。神殿からならば、移転の魔力が関知されても大事にはならないし、そもそも魔力に詳しい獣人は少ないから心配無用だと見送られる。


 ダンジョン公の居城の中庭に出ると良いと言うオスクロのアドバイスに従って移転した。突然出てきた私に驚くかと思いきや、どうやら予告が来ていたらしく、速やかに書簡とアイテムを交換する。


 受け渡しの間、獣人の国での状況を聞かれたから出来るだけ正確に伝えておいた。頼まれた用件が済んでもまだ時間があったから、ひとつ気になっていた場所に向かう。




「おや、お嬢さん。お久しぶりですね」


 この前のスタンピートで被害に合ったのか、半壊した建物を片付けているおっちゃんが私を見つけて声をかけてきた。


「ご無沙汰しています」


「家賃にはまだ早いように思いますが?」


「いえ、今回は家賃ではなく……。契約を解除しにきました」


 アルオルもジルさんもいない今、貸家を借りているメリットはもうない。それに獣人の国での仕事が長引くならば、借り続けても意味はないだろう。


「おや。あそこは被害が少なくまだ住めるはずですが?」


「天井が一ヶ所穴が空いたくらいで後は特に問題ないです。でも、実は依頼で他国に行くことになりまして。すみませんが清算させてください」


「まぁ、今なら借り手は沢山います。こちらとしては何の問題もありません。しかし、また借りるときに見つかるとは限りませんが、良いのですね?」


「ええ。もう既に中に私物はありません。今日にも引き渡せます」


「分かりました。では、中へどうぞ。解約の書類にサインを」


 おっちゃんに示されるまま、貸家を解約する為の書類にサインする。これでまたひとつ、気になっていた事が終わった。最終の精算を済ませて外に出る。


「さて、戻らなきゃ」


 この混沌都市内では魔法の制限がない。皆、好き勝手魔力を使うからわざわざ居城の中庭まで戻らなくて済んで助かった。


 日が傾きだした空を見上げて、急いで獣人の国へと戻った。




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