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12.定収入GET!



 さんざん飲み食いして眉唾な武勇伝を聞き、大笑いしているうちに夜も更けた。あれもこれもと、酒のツマミをあちこちから分けて貰ってお腹いっぱい。


 クレフさんに連れられて家に帰り、来客用と言う小部屋で休ませてもらう。硬い板のベッドは壁に普段は収納されているらしい。


 翌朝早い時間に、ケビンさん達が迎えに来る。馬車はケミスのギルドに返却したから今日からはまた徒歩だ。装備はオススメシリーズに戻してある。

 昨日食べ過ぎて、朝ごはんは少しキツかったから昨日食堂の女将さんに貰った茶葉で、お茶を入れて飲んだ。すっきりした後味のお茶は二日酔いのメンバーにも、大好評だった。


 早朝の市場を抜けるついでに食料を買い増し、ケミスの町を出る。ここから辺境最大の都市、デュシスの町まで歩いて1週間かかる。途中にある渓谷は盗賊も魔物も出るし、最大の難所だ。


「これはクレフ殿、おはようございます。お早いですね」


 早朝農作物を積んで出入りする荷車を点検していた、中年の門番さんがクレフさんを見かけて声をかける。昨日は初めての町に緊張して気が付かなかったけど、やけにこの町の人達はクレフさんに丁寧だなぁ。


「おう、おはよう。見送りじゃよ。ほれ、通してやってくれ」


 私の背中を押しつつ、クレフさんがにこやかに挨拶を返す。


「はは、クレフ殿に見送られるとは豪勢ですな。さぁ、どうぞ」


「クレフさ……クレフおじいちゃん?」


 クレフさんといつものように呼ぼうとして、片眉を上げられて慌てて言い直す。


「おや、お嬢さん、クレフ殿のお身内かい? 冒険者ギルド本部の先代ギルドマスターにこんな可愛いお孫さんがいるとは知らなかったよ」


 にこやかに笑いながら門番さんが、爆弾を投下してきた。

 は、へ? 先代ギルドマスター?? 元冒ギルで一番偉い人?!

 門番さんとクレフさんを交互に見る。クレフさんは困った顔をしつつ、門番さんを軽く睨んだ。


「あ、もしかして、秘密にされていましたか? 申し訳ありません!」


 私たちに流れるビミョーな空気を感じて、門番さんが直角90度に頭を下げた。

 クレフさんは無言で私たちを押し、門を抜ける。


「あー、隠していた訳ではないのじゃ。なんとなく、話すタイミングを失してのぅ。知っとると思うとったしの。まぁ、今は何処にでもいる爺じゃよ。一応冒険者としての籍はあるから、今回のような件だと少しは有利かの?」


 茶目っ気を滲ませて笑う。どことなく申し訳なさそうだ。これはバレなかったら最後まで言う気なかったな。


「それと、ケビンたちへの依頼は、ギルドを通した正式なものにしておいたからのぅ。安心して送って貰いなさい」


「えーっと、ありがとうございます? 後、失礼な対応をして申し訳ありません??」


 呆然としたままお礼を言う。


「はは、ティナちゃんや、今まで通りで良いのじゃ。またケミスの町に来ることがあったら、寄っておくれ。約束じゃよ?」


 その後は簡単な別れをして出発の運びとなった。


 しばらく歩き、昼の休憩の時に改めてケビンさんたちに聞くと、クレフさんは15年くらい前まで長く本部のギルドマスターを勤めていたけれど、とある国家間も関わる事件の責任を取る形で引退して、惜しまれつつも、このケミスの町に引っ込んだそうだ。


 もっと早く教えてくれれば良いのにと、睨むと、まさか気がついていないとは思わなかった、と逆に笑われた。



 ****


 問題なく旅を続けて、目の前には辺境最大の都市、デュシスの町の城壁が広がっている。


 北には峻険な山と底が見えないような深い谷、西に広がる深い森は昼なお暗く、人の手を拒絶する。少し東に歩けば草原が広がり、南はケミスの町に繋がる街道がある。

 町の周囲には、駆け出しから、上級者まで様々なレベルを対象としたいくつものダンジョンが点在する。


 万一の時には魔物の侵攻を止め、住人たちを守る城壁は何処までも高く、厚い。所々ある物見櫓には、バリスタや石弓が備え付けられており、空を飛ぶ魔物への備えも万全だ。


「おう! ケビン達じゃねぇか! 久々だな!! おっ死んだかと思ったぜ!」


 町に入る長い列に並び城壁を見上げていたら、いつの間にか順番が回ってきていた。半開きになっていた口を閉じて前を向く。使い込まれた鎧に、不揃いな服の戦士たちが何人か立って、町に入る旅人を確認している。


「ふん、リック、あの程度で死んでたまるかよ。少しあっちでも依頼を受けただけだ。ほれ、さっさと入れてくれ!」


 拳を合わせて挨拶をしているケビンさんたちは嬉しそうだ。ギルドカードを提示し、後は顔パスで通される。私も流れで入ってしまおうと思ったら、止められた。


「おう、嬢ちゃんはちょっと待ってくれな。デュシスの町は初めてだろ? ちょいと教えてくれ。なぁに、ケビンたちの連れなのはわかっている。手間はとらせねぇよ」


 顔にいくつもの傷痕をつけた強面に、にっかりと笑われて肩を抱かれる。後からギルドに行って知る話だが、デュシスの町の入り口を守る門番は冒険者達が交代で行っている。依頼料は安いが比較的安全で準備のいらないこの仕事は人気らしい。


「ッテ! ロジャー、てめぇ、殴らなくても良いだろ!!」


 間髪入れずにリックを殴り付けたのは、ロジャーさん。この1週間で随分仲良くなって、口を開かなくても気分くらいはわかるようになった。

 ……うん、いまはニヤニヤ笑ってるな。


「はじめまして、ケビンさんたちに護衛して貰ってデュシスに来ました。この町は初めてです。田舎から出てきたので身分証もありません。どうしたらいいですか?」


「おう、初めての遠出かい? ケビンに護衛を依頼するなんて運の良い嬢ちゃんだ。見た目は少々おっかないが腕は確かだからな。

…で、だ。この板に、名前とデュシスに来た目的を書いてくれ。保証料に銀貨1枚預けてもらえるか? 帰るときか、身分証を手に入れて、ここに来たら返却する。……おう、字書けるんだな。バッチリだ。そうかい、手紙を届けになぁ。大変だったな。


 では、ようこそ、冒険者の町、デュシスへ!」


 まだ後ろにも列が出来ているから、さらっと入れた。


「さて、ティナちゃん、約束のデュシスの町にはついたけれど、手紙の届け先はわかってるのかい? 俺たちもこの町は長いから、名前を教えてもらえたら一緒に探してあげられるよ?」


 ケビンさんパーティーで一番の常識人、狩人のカインさんが聞いてくる。そう言えばいってなかったな。


「デュシスの町の、クルバさんにと言われてます。冒険者ギルドに行けばわかるから、と。ギルドまで連れていって貰えますか?」


「く、クルバかい? 本当に??」


 後ろで盗賊のジョンさんが吹き出している。

 おじいちゃんのこと教えてくれなかったんだから、お相子だよね?


 こくん、と頷くと、依頼終了確認にギルドまで来てもらわなきゃならなかったからちょうどいいとか言いつつ、冒険者ギルドを目指し移動することになった。



『ようこそ、冒険者ギルドへ!』


 剣と斧がクロスする看板の建物に入ると、編み込みをたらした少女が満面の笑みで迎えてくれた。私よりもいくつか上かな、鳶色の瞳とそばかすの散ったほっぺが可愛い。


「って、なんだ、スカル・マッシャーさん達じゃないですか。気合い入れて損しました。

 お帰りなさい。商隊の護衛及び、第6境界の森の調査任務、無事に終了したと、こちらでも報告を受けています」


 スカル・マッシャー?? 小さく呟くと、カインさんから、俺たちのパーティー名だと教えられる。


「ただいま、マリアンヌ。護衛依頼の完了報告を頼む。あと、すまないがギルマスを呼んでくれ」


「護衛? しかも、ギルドマスターをですか??」


「ほら、ティナ」


 背中を押されてカウンターまで進み、バックから預けられた手紙を取り出す。

 ケビンさんもギルドマスター宛てだと別の封筒を取り出した。


 渡していいものか悩み手紙を握り締めたままの私に、優しく少し見せてね、と、伝えてそっと手紙をとられた。


 差出人を確認する為に後ろにひっくり返した所で形相が変わる。

 ちょっと待ってて下さい! と叫んで、後ろの階段を駆け上がっていった。


 遠くから、「おとーさーん!! おとーさぁーん! たいへん、たいへーん」って落ち着きのない声が響いている。


「お父さん?」


「マリアンヌはここのギルドマスターの娘さんだよ。落ち着きのないのが玉に傷だけどな」


 苦笑しながら教えてくれる。ちなみにここのギルドお抱えの薬剤師はギルドマスターの奥さんだそうだ。


 辺境最大ギルド、まさかの家族経営疑惑!!


 驚いている間に、後ろの階段から細身の男性が降りてきた。後ろにはマリアンヌがついてきている。


 マリアンヌと同じ鳶色の瞳、暗褐色の髪。無駄に音をたてない歩き方、視線の使い方などから、歴戦の冒険者だったことが容易に予想される。流石、ウチの両親の元パーティーメンバー、おそらくレベル60は超えているだろう。


「……スカル・マッシャー、任務ご苦労。マリアンヌ、ここは任せる。……ついてきなさい」


 最後は私に対しての一言だ。カウンターの脇から伸びる別の階段から上に上がる。いくつかの扉を素通りして、突き当たりのギルド長室につく。扉に下げられた表札が中々にシュールだ。


 扉を開け中に入る。引き出しから何かのアイテムを出して、作動させる。盗聴防止かな。

 沈黙が重い。

 ……オトーサン、貴方のお仲間は無口系ですか? 教えておいて欲しかった! これ、どーしたらいいの??


「リュスティーナ、か。しばらくそこで待ちなさい。手紙を読む」


 とことん沈黙が重いです。執務机の向かいに置かれた椅子に座り息を殺して待つ。

 クルバさんは始めにケビンさんが取り出したもう1つの手紙を読む。これはクレフさんからの手紙とのことだった。眉間の皺を伸ばしつつ読みきると、ため息を1つついて、両親から預けられた手紙を読み始めた。


 ……窓から聞こえる虫の声がうるさい。じりじりと時間が過ぎる。手紙からこぼれ落ちた赤みがかった2枚のプレートに西日が反射して地味に眩しい。


「……両親は?」


 しばらくたって手紙を読みきってから、クルバさんは口数少なく質問する。嘘をついても仕方ない。ここは正直に言おう。


「死にました。バグベアードと戦って、死にました。バグベアードは狩りましたからご心配なく」


 負けたとは言わない。負けてはいない。ただ戦闘の途中で力尽きただけ。


 一度、瞑目してからクルバさんは口を開く。


「……なぜここに?」


「父が、冒険者登録をするなら必ずこの町でするようにと。後は、元パーティーメンバーであるクルバさんに手紙を渡すように…と。母は、必ず迎えにいくから、町で待っているようにと言って…。だから、私は、せめて手紙をと、ここに来ました。ご迷惑でしたら、謝罪致します」

 

 緊張感が周りを支配する。恐いなぁ、仲良しのギルドメンバーに子供の後を頼んだって雰囲気ではない。なんなんだ、これ。


「いや、迷惑ではない。よく、ここまでたどり着いてくれた。クレフ殿とスカル・マッシャーのメンバーにも後で礼を言わなくてはな。

 すまんが、リュスティーナ、この魔石に血を垂らしてくれないか?」

 

 そう言って滑らせてきたのは、人差し指の爪くらいの小型の魔石。軽く鑑定した所、封印の鍵らしい。

 痛いのはごめんだけれど、覚悟を決めて左手の小指に小さな傷をつけ、魔石に血をつけた。血は魔石に吸い込まれる様に消え、封印が解除される。

 一度、強い光が照射されると、そこには鉄製のギルドカードがあった。


 刻まれているのは私の名前。

 ランクは最低のGランク。

 加入日は12歳の誕生日だ。


「……本物、か。では、"狂愛"と"血塗れ"の死も本当か……」


 深い深いため息をつく。


「狂愛、血塗れ??」


「君の両親のことだ。"狂愛(きょうあい)の妖精王"に"血塗(ちまみ)れの聖女"。とても有名な冒険者の二つ名だ。もう引退したから、今では吟遊詩人の歌くらいでしか名前はでないがね。何も知らんのか?

 俺はあの二人と共に、他に二人加えて、五人パーティーを組んでいた」


「両親から最後に、こちらのギルドマスターが元パーティーメンバーだったことは聞きました。両親は技術や知識は教えてくれましたが、思い出は教えてくれなかったので。すみません」

 

 深刻な気配のまま問いかけられて答える。それよりも、狂愛に血塗れって、ウチの両親はなにやったんだ!


「謝るな。君のせいではない。

  ……もし、冒険者になるなら、そのカードを使いなさい。君の父が正式な手順を踏んで作ったものだ。

  あの日、ご両親が揃ってギルドに現れて、町はお祭り騒ぎだった。正直に言って、名乗りは変えてもらいたい。家名だけでも騒ぎが起きる。

 あと他にご両親から預かっているものがある。もし、娘が一人で訪ねてきたら渡してほしいと頼まれていたが、まさか本当になるとはな」


 再度ため息をつき、先程とは別の引き出しから、見覚えのあるバックを取り出した。これは、無限バック(中)!! 口を縛る紐だけは、私の手持ちと色ちがいだ。


 慌てて受け取り、中身を確認する。手紙か何かあるかと思ったが、そういったものは何もなく、おそらく両親が冒険時代に溜め込んだであろう、アイテムと金銭が大量に入っていた。


「これはバックの口を縛る紐が封印の役割をしていてな、今までどうやっても開かなかった。ヴィアが自分が死んだら、開けられるのは娘のみにしておくと、笑って預けていったよ」


「中を見ればわかると思うが、リュスティーナ、君がしばらく生活するのに困らないだけのものは入っていたはずだ。

 わざわざ危険の伴う、冒険者をすることはない。身分証変わりにギルドカードが欲しいと言うのであれば、成人までここで働けばよい。俺が面倒を見よう」

 

 強い視線のままそう告げられる。

 私は無言でテーブルに置かれたままになっている、鉄製カードに手を伸ばした。


「申し出はありがたいと思いますが、私は世界を見てみたい。自由に旅をしてみたい。だから、冒険者になります。冒険者には国境はないのでしょう?」


 本音を言えば、何かに縛られるのが嫌なだけだ。今はなにより自由が欲しかった。会社…否、社会の歯車に組み込まれて、それを人生の満足だと自分に暗示する日々はたくさんだ。


「なら、リュスティーナ、せめて成人まではこの町で過ごして欲しい。ここならば、俺や周りもサポートしてやれる。

 冒険者として名前が通り成人を向かえれば、危険も減るだろう。

 どうだろう、どうしても旅に出たくなったら、それは仕方ない。それまででもいい」


 高速でメリットとデメリットを天秤にかけて答える。


「わかりました。お願いします」


「では、さっそくで申し訳ないが、リュスティーナ、君の両親はこの辺境では有名すぎる。安全のため、出来たら偽名を名乗って欲しい。ただのニックネームだ、ギルド登録名は変えない、頼めないか?」


 有名すぎるって、一体。何度目かの疑問がよぎる。


「別にいいですけど、ウチの両親、一体何をやったのですか?」


 そのうち分かるだろうと誤魔化され、通り名を決めるように促される。


 リュスティーナ・ゼラフィネス・イティネラートルが本名だから、あんまりにもかけ離れた名前にすると自分でもわからなくなる。もう二度と誰にも呼ばれることがない名前になるかも知れないけど。

 私の提案で呼び名は『ティナ・ラートル』になった。


 ひとしきり終わって、弛緩した空気が流れる。


 さて、と、ここからが本番だ。

 ギルドマスター様、商談しましょ♪


「マスター・クルバ。道々、ポーション類が不足していると言う話を聞きました。私もお役にたてるかと」


 雰囲気を一新するためにも、ニヤリと笑って提案する。元パーティーメンバーなら、ウチの母が薬剤師なのは知っているハズ。

 案の定、喰い付いてきた。


「また日を改めてと思っていたが、ちょうどいい。ティナ、君もポーションを作れるのか?」


「はい、母に教えられて、中位回復薬(ハーフポーション)までの回復薬は作れます。解毒薬、各種解除薬も初級までなら全て作れます。

 冒険者の活動が優先ですが、成人までは受けられる依頼に制限がかかるとか、合間にバイトさせてもらえると嬉しいです」


 にこやかに笑って伝える。あくまで、優先は冒険者(じゆう)。ここは譲れない。交渉の狙いは成人までの身の安全と定収入。


「納品可能な数と条件は?」


 流石ギルドマスター、話が早い。私の口調から何かしら要求があることに気がついたのだろう。端的に聞いてくる。


「納品数は、10日毎に中位回復薬(ハーフポーション)5、下位回復薬(ローポーション)10。回復薬以外は在庫を見ながらギルドからの依頼で作ります。魔力回復薬(マナポーション)は応相談です。原材料は、ギルドで手配してください」


 うん、ここまでは大丈夫そうだ。数はかなり控え目に申告した。子供ならこれくらいが精々だろう。

 では、条件を。


「納品条件ですが、この国では今、薬剤師の強制徴用が行われているとか。成人までで結構です。私を徴用から守ってください。ギルドお抱えの薬剤師なら、徴用はされないのでしょう?」


「うん? そもそも冒険者は国に所属しない。徴用もされないぞ」


 怪訝そうな顔で言われる。それは知ってる、けど、私は未成年。道々ケビンさんたちに教えてもらったんだからね!


「はい、成人の冒険者は徴用されません。でも、未成年ならギルドは仮登録です。保護者の同意があれば徴用されてしまいます。私は天涯孤独の身。そんな未成年は神殿か、ギルドか、領主が後見を勤めることになるでしょう? なら、絶対に徴用されないは言い切れない」


「知っていたのか。なら、なぜ、わざわざポーション作成技能保持者だとばらした? 秘密にして、成人を迎えてしまえばいいだろう」


 こちらの答えはわかっているのだろう、マスター・クルバもニヤリと笑った。


「秘密は何処かから漏れるものです。ならば、ばれる前提で対応を考えればいい。特に、マスター・クルバは母の能力を知っています。ならば、隠し通すよりも、お互いに利益で結ばれた方が良いと思われませんか?」


「くくっ、どちらに似たのか知らないが、非常に現実的だな。確かに今、ポーション職人は不足している。

 ……良いだろう、クレフ老も、もし、君が冒険者になり、技能を生かすつもりなら成人までの助勢を約束する手紙を寄越した。

 では、最低でも10日に一度、下位回復薬(ローポーション)10個、中位回復薬(ハーフポーション)5個を納品して貰う。材料はギルドが渡す。代金は適正価格を払おう。

 その代わり、成人までの間、冒険者、ティナ・ラートルの後見人は冒険者ギルド本部の先代マスター、クレフが勤める。後ろ楯はデュシスの町の冒険者ギルドが行う。異論は?」


「ありません。ただし、私の冒険者としての日常活動については口を挟まないで頂きたい。あと、納品以外のポーションについて、個人で売ることも許して下さい。ギルドの商売の邪魔になる様な規模ではしません」


 底冷えする視線を浴びながら、要求を言い切る。仲の良い人達、ケビンさんたちとかには、もしポーションが足らないなら譲ってあげたいしね。顔も知らない誰かの役に立つよりも、関わりのある人を助けたい。これはエゴだね。


「……良いだろう、では、商談成立だ。さっそく、下で材料を受け取り、10日以内に持ってきてくれ。受け取りはギルドの受付で大丈夫だ」


 しばらく考えて、クルバはオーケーを出した。何かあったらその都度話し合えばいいと判断したのだろう。


「これをどうぞ。とりあえず初回の分です。これから、宿を決めたりと少しかかりますし、一回の納品でどれくらい稼げるのかも知りたいですから」


 そういいながら背負っていた無限バック(大)から回復薬を取り出す。バックの中に入れておいたポーション類、少なくなってきたしそろそろ補充しないとなぁ。宿屋に着いたらアイテムボックスから忘れずに移動させなきゃ。


「ローポーションは1つで銅貨50枚、ハーフポーション1つで銀貨5枚、もしもフルポーションを納品して貰えるなら銀貨50枚払う。

 素材を提供した場合は半額だ。素材の提供が不要な場合は前週までに申告すること」


 そういいながら、机をあさって机に銀貨を並べ出す。


「今回はローポーション10個で銅貨500枚だから、両替して銀貨5枚、ハーフ5個で銀紙25枚、合わせて30枚だな。

 この町なら一ヶ月連泊の中レベルの一人部屋の宿代がおよそ銀貨8~10枚だ。朝と夕の食事はつく。

 王都で一年に、一家4人が生活するのに必要な金額が金貨5枚、銀貨に換算すると500枚だが、この町は物価が安くて、大体半分もあれば十分に生活できるな」


 そう説明しながら10枚ずつのタワーにして、銀貨を渡してくる。そうですか、100枚で繰り上がりですか、10進法と間違わないようにしないとなぁ。


しっかし、本当にポーション類は高騰してるんだね。これじゃ一般人は手に入れられないんじゃないの?


「しかし、さっきのバックの中身を使えば何も心配することはないだろうに。まさか、金銭が入っていなかったのか?」


 財布として使っている無限バック(小)に銀貨を入れつつ答える。これも目立つから、近々可愛い小物入れでも見つけて取り替えなきゃ。親から渡された小袋は、実用一辺倒だしね。


「ありましたが、自分の生活は出来る限り自分で賄いたいですから。買い取りありがとうございました。次は10日後までに納品します」


「次回の素材は明日以降、マリアンヌに預けておく。依頼も明日からにして、今日は休め。宿は門前町の小春亭か、ここから三軒先の飛び猫亭がおすすめだ。

 後でマリアンヌには事情を話しておく。何かあったら、そちらに相談するように」


 話は終わりだと言うように退出させられる。首に下げたメンバーカードが嬉しい。


 えー、転生13日目。ようやくギルドメンバー証をゲットして、成人までの定収入のあても確保成功!!


 さぁ、次は楽しいお買い物♪♪




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