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127.主は守る。ただそれだけだ。

 恨みと憎しみが籠った暗い視線を投げ掛けられる。ようやく来たかと私に言った後、疾風さんは黙り込んでしまった。


「何故、ライガさんがここに?

 確かメーガンさんと一緒に、前線へ行ったはず」


 沈黙と刻々と増える魔物の圧力に耐えかねて、私から話しかける。居城の兵士達はこの隙に体勢を整えている様で、忙しげに動く気配がしている。


「お前が、メーガンの名前を出すか?」


 歪んだ笑みを見せられて、無意識に背が震える。


「メーガンなら、死んだよ。お前が掛けた魔法の巻き添えになってな……。因果応報(カーマ)だったか。見事にラルヴァに育ち、前線を崩壊させ、メント神官を殺し、居合わせた全てを殺し、そして、俺の最愛(メーガン)を奪っていったよ」


 ミチりと嫌な音を発てながら、青い石は額の中へ潜り込んでいったようだ。それに連動するように、ライガさんの瞳も充血し始める。


「え? 何の事ですか?」


「知らばっくれるな。白々しい。

 お前がペルデトルにかけた呪いだろう?

 俺に同情したという、貴族がそう言っていた」


 ペルデトル? 誰だろう?


 ライガのあまりの異常さに、ジルさん達も言葉が出ないようだ。


「たかが半魔を助けるために、軍神殿の神官に呪いをかけるか。初めて聞いたときには驚いたぞ」


 あれか? 話しているのは、サーイさんの上司にかけた魔法の事か?


 ただ、確かにラルヴァに取り憑かれる魔法は掛けたけれど、それでどうして、死人が出るんだ? アレは対象者を痛め付け、一定レベルまで衰弱させたら、勝手に解けるハズなんだけど。


因果応報(カーマ)は人を殺すようなものじゃ……」


 冷静に誤解を解こうと話し出したけれど、それに被せるように怒鳴られた。


「ならば何故、ペルデトルの体から、魔物が産まれた!

 あの形状し難い、小鬼はなんだ?!

 恨みを果たしたと言って、ラルヴァは消えたぞ!

 貴様があんな魔法を掛けたから、メーガンは死に、ゲリエは窮地に陥った!! 貴様だけは、我が身を何に落としても許さん。後悔に苛まれて、死ぬがいい!!」


 聞く耳を持たないライガは、魔物をけしかけ、自身も突撃してきた。


「ティナ!」


 装備を整えたジルさんが、ライガの足止めをするために正面に飛び出す。アルオルは私の周りに残り、魔物の対処を始めた。


「死ね!」


 ジルさんにしろ、ライガにしろ速さ重視の二人だ。その剣撃は速い。援護に魔法を放とうにも、ジルさんに誤爆しそうで、タイミングが掴めなかった。


「ティナに攻撃はさせん!」


 戦力が拮抗していると見たジルさんが、獣相化して攻撃を激しくする。二人の戦いを見守っている間に、アルオルとダビデの方も戦端が開かれた。ジルさんとライガの戦いだけに、注目しているわけにはいかない。後ろ髪は引かれつつも、私の周りで行われている戦闘に注意を移す。


「ダビデ、無理しないでね」


 こっちは数だけ多い雑魚だから、そんなに苦労することもない。物質量で押し潰されない様に注意をすればいいだけだ。


「ダビデ、いつものように結界を張るから」


「イヤです! ボクもこの相手なら、お役に立てます!

 どうか、無理はしませんから戦わせてください!」


 危ないからダビデには、避難しておいて貰おうと声をかけた。でも即座に叫び返され、更には魔物に突撃されてしまった。慌ててアルオルに声を掛ける。


「アルオル! ダビデをお願い!!」


 ちょうどジルさんが戦う場所と、ダビデ達が戦う中間に立ったまま、アルオルにダビデのサポートを頼む。問題なく護衛についた二人に感謝しつつ、戦況を冷静に観察する。


 魔物の半数は、ダビデ達の方へと向かい、残り半数はダンジョン公の居城に攻撃をしている。ジルさんとライガの戦いは、ジルさん有利に進んでいた。これなら、何とかなるか。


「クッ、何故だ! 何故お前は、あの娘を守る!

 魔物を生み出し、神官を殺した娘だぞ。祖国を危険に晒したそんな娘を何故そんなに、必死に守る」


 鍔迫り合いになった所で、ライガがジルさんに問いかけた。


(あるじ)は守る。ただ、それだけだ。

 お前が主を害するなら、排除するのみ」


 静かに答えたジルさんは、ライガの腹を蹴り飛ばし、反動で後ろに飛び退いた。


「ティナ!」


(いかずち)よ!」


 ジルさんに名前を呼ばれたタイミングで、攻撃を仕掛けた。中空から雷がライガを襲う。体勢を崩していたライガは、何とかその一撃を地面に転がる事で避ける。


 ただジルさんがその隙を見逃すハズはなく、上昇した脚力をフルに使い、ライガの頭を目掛けて、剣を振り下ろした。


 これで勝ったかと一瞬気を抜いたけれど、反対にジルさんが宙を舞う。私自身も、いきなり身体が重くなったように感じて、バランスを崩した。


「二対一は、少々可哀想だ。加勢させて頂こうか」


 頭上から面白がるような、笑みを含んだ艶やかなバリトンの声がする。驚いて顔を上げれば、そこには貴族服を小粋に着こなしたナイスミドルがいた。


 シルバーグレイの髪が太陽に輝いている。血色の悪い顔との対比が凄い。


「公爵か。余計な事を」


「そう言うな。今、介入せねば、死んでいたぞ?

 せっかく私が手を貸したのだ。満願成就して貰わねばな」


 フワリと短いマントを靡かせ地面に降り立った公爵は、何処かで見たことがある気が……。


「君がお客人か。初めてお目にかかる。私は、この地を統べるダンジョン公アルタールと申すものだ」


 表情も声も穏やかなものなのに、何故か寒気が止まらない。


「はじめまして。ティナです。

 私達に何をしたんですか?」


 この人が出てきてから、身体から力が吸い取られている様な怠さを感じる。それに、気のせいか、援護魔法が全てキャンセルされている様な……。


「それは君の本当の名前ではないと思うが……。だが妻が言うのは本当の様だ。お客人はやはり優秀だね。

 私はただそこにいるだけで、生き物の生気を奪う生き物なのさ。そして、魔法の力もね。だから、お客人が得意としている魔法には、頼れない。さて、どうするかね?」


「ダンジョン公は、ギルドマスター・トリープの姉である、闇月姫だと聞いておりますが……」


 笑みを深くした自称ダンジョン公に、問いかけた。確かに言われる通り、魔法は発動しない。今は少しでも時間を稼いで、何が起きているのか確認しなくては。


 ジルさんの獣相はそのままだ。私が使う魔法とジルさんの獣相化はどこが違うんだ。気力と体力を消費して行っている所は変わらないはずなのに、何故獣相化は発動する?


「ああ、私の可愛い娘達。闇月姫、月光姫。この地を守る双月。

 今、トリープは妻が迎えに行っている。闇月は少し反抗期の様でね。部屋の扉を固く閉めて父親を入れてはくれないんだ。困ったものだよ」


 肩を竦めながら、話す公爵の隙を探すが、見つけることが出来ない。ジルさんはジリジリと私に近づいて合流した。でも、アルオルとダビデは魔物の中に取り残されてしまった。魔法の援護がない状態での、多数との戦い。助けに行きたいと、気ばかりが焦るが、後ろを見せたら殺されると予感して、走り出すことが出来なかった。


「ペラペラとよく回る口だ。用件がそれだけならば、口出しせんでもらおう。その娘は俺の獲物。苦しんで、苦しんで、のたうち回らせて殺す娘だ」


 表面上は穏やかに話す私達に痺れを切らしたのか、ライガはそう言うと武器を鳴らした。ジルさんが警戒した顔で、ライガを見つめる。


「ティナ、ここは危険だ。アルオルとダビデの所へ合流してくれ」


 公爵とライガの両方を警戒しながら、ジルさんは私に囁く。


「魔法を封じられたお前は、足手まといだ。アルオルに合流して、守ってもらえ。ここは俺が片をつける」


「おや、そうは行かない。狼獣人殿、かの英雄の末たる騎士ジルベルトだったかな? 君がそのお客人を主と定めたのは意外だったが、こちらとしても彼女には少し用があってね。お付き合い頂こうか」


「何故俺の名を」


「ふふ、私をあまり甘く見ないでくれたまえ」


「いい加減にしろ」


「ああ、分かった、分かった。ならばもう少しだけ加勢をしよう。因果応報を使い、君の恋人を奪った相手を痛め付ける、その手伝いをする約束だったからな。

『青き石よ。想いを力に変える清浄なる石よ。彼に力を』

 さて、どうなるかな?」


 舌打ちしながら急かすライガに、公爵は悠然と頷き、力ある言葉を呟いた。


 その言葉に反応するように、ライガの額の宝石は溶け出し、血管へとでも入り込んだ様に盛り上がる。


「グギィィィィィ!! ガァァァァァ!!」


 意味のない苦痛の悲鳴を上げて、両手で顔を覆ったライガは身を捩る。


「パワーアップなんてさせるわけないでしょ!!」


 弓を引き絞り、ライガを射た。光の矢は問題なく形作られ、ライガを目指し飛ぶ。しかし、その身を貫かんとした時に、突然表れた闇に呑まれて消えた。


「ふふ、そう邪険にせんで欲しい。彼も最愛の恋人を失った悲しみを乗り越えなければならないんだよ。私が与えた青い石は、その装着者の望みを叶える為に、最良の進化を促すアイテムだ。彼がどうなるのか、共に見守ろうではないか」


 こちらに手を向けた公爵は本当に楽しそうに瞳を輝かせて笑っている。


「さあ、変化するぞ。神に成るか、人となるか、魔と落ちるか。

 想いは強く、悲壮な程甘美。故に私はお前に力を与えた。今こそ、時は来たり。ライガよ。お前の無念を果たすときだ!」


 バサッと短いマントを翻し、公爵が声を上げる。それと呼応する様に、ライガの悲鳴も止まった。


 ゆっくりと、顔を覆っていた両腕が下に落ちる。いつの間にか踞っていたから、下半身は確認できない。


 武器を握った両腕に、地面に手をつき、体を支える腕。二対の腕がそこには生えていた。そして、瞳もまた二対。白目はなくなり、虫特有の複眼になっている。裂けた口をガチガチと鳴らしつつ、こちらを威嚇していた。


「おや、随分と禍々しくなってしまったものだ。残念だが、これは失敗だな」


「貴方は、彼に、何を」


 何とか声を絞り出し問いかける。答えが返ってくるとは思わないけれど、それでも問わずにはいられなかった。


「うん? 何、少し君が使った魔法に干渉させて貰ってね。苗床となるに相応しい魂を探しただけだよ。まさか、こんなに禍々しい生き物になるとは、私も思わなかったが……。仮にもAランク、もう少し矜持を持つべきであろうに」


 興が削がれたと呟くと、公爵は空中に浮かび上がった。


「闇月姫よ、我が愛しき娘よ!

 父は戻った。速やかに開門せよ!!」


 居城の正門に向かって、公爵が朗々と宣言する。


「さて、お客人殿。ソレは差し上げよう。しばし楽しんでくれたまえ」


 ライガの成れの果てをを指差し、公爵は正門に攻撃を開始する。すっかり化け物の姿に変わったライガは、公爵の指示と共に襲いかかってきた。


 二対の内、武器を持っていない手は、鎌へと変化していた。背からは、虫の羽が生え、耳障りな音を発てている。


「コロス、コロス……。メーガン……」


 威嚇音に紛れる様に聞こえてくる音は、私への殺意と、亡き恋人の名前。


「ティナ! 行け!!」


 そんなライガの突撃を身体で受け止めて、ジルさんが叫ぶ。押さえきれなかった腕に抉られ、ジルさんの身体から血が舞う。


「ジルさん!」


 このままじゃ不利だと判断して、武器を長剣に変え、私も参戦した。初めて見る私の剣さばきに、ジルさんは驚いているようだ。


「気を抜かないで! ポーション使う間、私が押さえます。早く治してください」


 こんな事もあろうかと、自作のポーションは各自に分配してある。それを使うようにジルさんに指示を出す。何とかジルさんがポーションを使う間くらいなら、一人でもライガの相手は出来る。


 二人で入れ替わり立ち代わり、ライガを攻撃する。ダビデの方も気になるけれど、援護にいくだけの余裕がない。


「……まったく、強情なことだ。娘にも困ったものだとは思わんかね?」


 しばらく門を攻撃していた公爵が、私達の所へ戻ってきた。


「……ライガよ。あちらも攻撃してみろ。おそらく楽しい事になるぞ」


 公爵は退屈そうな視線のまま、戦闘音が続くアルオルがいる辺りを指差した。


 グルリッと縦に180℃頭を回したライガは、羽を広げて飛び立とうとした。


「させない!」


 羽を斬り、移動を妨げようとしたけれど、一歩遅く空に飛ばれる。ライガの口が大きく開かれ、喉の奥に闇が渦巻く。


 魔物たちもこのままでは巻き込まれる事に気がついたのか、一斉に海を割るように避けた。


 魔物の中心には、ダビデとアルオル。肩で息をして、疲れてはいるようだが、大きな怪我はない。


 ライガを弓で攻撃するべきか、ダビデを助けるために走り寄るべきか逡巡する。弓で打ち落とそうと決めて、武器の形を変えた時には既に遅かった。


 喉の奥からせり上がってきた闇の塊は、炎を纏い、弾丸となって中心にいたダビデに向け打ち出された。


「ダビデ!」


 警告の叫びを上げるけれど、足がすくんでいるのか、ダビデは回避行動を取らない。


「アル!!」


 予備の物とはいえ盾を持つアルに、ダビデを守って欲しくて名前を呼んだ。


「マイ・ロード! ダメです!!」


 ダビデの前に飛び出そうとしたアルは、オルランドの警告を聞き、迷った様にたたらを踏んだ。

 刻々と炎はダビデに近づいている。もう、アルに命令するのには間に合わない。


 ならば、私が身を投げ出してもと、ダビデと炎の間に飛び出そうと足に力を込める。


「ティナ! 危険だ!!」


 その私も、ジルさんに後ろから、羽交い締めにされ……。


 ……ああ!!


 視線の先には、顔を恐怖で引き攣らせたダビデ。

 その身体に直撃する闇の炎。

 ダビデの体を弾き飛ばしながらも、貫通した塊はそのままダンジョン公の居城に激突し、穴を開ける。


「離して!!」


 本気でジルさんを振りほどき、ダビデに駆け寄る。肩や背にライガからの攻撃が当たったけれど、そんなのに構っている暇はない。


「ダビデ! ダビデ!! しっかりして!!

 ねぇ、ダビデ!!」


 身体を揺さぶり反応がないから、アイテムボックスから取り出した霊薬を何本もかけた。それでも、ダビデの身体の怪我は、まったく治らない。


「ねぇ、何で治らないの?! しっかりして。

 ダビデ、起きてよ! ねぇ、ねぇったら!!」


 揺さぶっても抱き締めても反応しないダビデの耳元で叫ぶ。


「ハハハハ、ザマァミロ、コレデ、愛スルモノヲ、ウシナウ絶望ガワカッタカ? オレガ喪ッタノハ、犬デハナク、恋人ダ。オマエノ哀シミナド、稚戯ニヒトシイ」


 嘲笑する耳障りな音がしているけれど、今はそんなことはどうでもいい。


「ダビデ、ねぇ、ダビデ。どうして? どうして……」


 どんどん冷たくなっていくダビデの霊薬に濡れた身体を、抱き締める。焦げた毛と肉の臭いがした。


「サテ、絶望ノ中デ死ネ」


 首に風を感じる。このままだと、おそらく私の首は落ちるのだろう。ぼんやりとそんな事を考えながらも、ダビデから視線を動かせなかった。


「テ……ティナ!」


 ジルさんの苦痛を堪える様な声がする。何処か怪我でもしたのだろうか?


 ぼんやりと視線を巡らせれば、壊れた煉瓦の花壇に身体を凭れさせたジルさんが見えた。


「逃げろ。どうか、逃げてくれ」


 絞り出す声に首を傾げる。


 怪我をしたジルさん、私の腕の中で冷たくなっていくダビデ、嘲笑を響かせるライガ。頭の中でぐるぐると渦巻く。


「あ……あああああぁぁぁぁぁあ"あ"あ"ァァァァ!!」


 どうしていいか、どうしたいのか分からなくなって、衝動のままに悲鳴を上げる。悲鳴に引き摺られるように、魔力が溢れ、周囲を圧倒していく。公爵にいまだ喰われ続けているが、それよりもずっと私から発せられる魔力の方が多かった。


 ライガを簡単に飲み込み、喰らった魔力は、私の心のまま更なる暴力を望み、敵を求めて都市へと広がっていく。


 膨大な経験値が入ってきているのが分かる。でも、今の私にはどうでも良いことだ。全部、どうでもいい。悲しい……悲しい……どうしていいか分からない……。


「ほう。やはりお客人の魔力は素晴らしいな。

 地母神への供儀に相応しい」


 魔力暴走から逃れた公爵は、顎に手を当てて、何かを考えているようだ。そうして、一つ手を叩くと、空中に両開きの豪華な装飾が施された門が現れた。


「さて、お客人。私はここで待つ。この地の安寧と、真実を求めるのであれば、是非訪ねてきてくれたまえ」


 仰々しく一礼すると、門の中へと消えていく。それをぼんやりと無感情に見送った私は、また魔力暴走を起こしたまま、いつの間にか地面に座っていた。私の魔力は魔物を喰らい、暴走したその一部をダビデに注ぎ続けている。死んだと理性では分かっていても、感情がついて行かない。壊れた器に力が溢れても、それでも諦めきれずに力を注ぎ続けた。


「……帰ろうか。ダビデ、お家に帰ろうね。

 ほら、今度の休みに一緒に買い物に行くんでしょ。早く、元気になって……」


 魔力の使いすぎでふらつく足で、北を目指す。


 貸家に着いた時には、目の前が暗く回っていた。それでも気にせず、隠れ家を使う。久々の、『オススメ!カスタマイズ』が出て、悩みながらも部屋(それ)を追加した。


 フラフラとダビデを抱えたまま、歩き続ける。ダビデの身体は、私から注がれた魔力の効果で、生前の綺麗な形に戻っていた。


 今までになかった美しい石造りの扉を押し開く。

 ガランとした部屋の中央には、ガラスの覆いがついた台座があった。他の部屋よりも明らかに寒いその部屋に入り、ダビデを寝かせる。


「ごめん、ごめんなさい。許して……いいえ、許さないで。怒っていいよ。憎んでいいよ。守ると約束したのに」


 ダビデを寝かせた台座の角に、何度も額をぶつけた。額から生暖かい何かを感じたが、それよりも今は衝撃と痛みの方が欲しい。


 ますます体調は悪く、目眩の他に吐き気までしてきた。それでも止める気になれず、鈍い音をたてながら頭を打ち付ける。


 ヒューズの飛ぶ様な音と共に意識を失うまで、私はそれを止めることが出来なかった。

 







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