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115.アルフレッドの葛藤

 朝日が昇って、交代の冒険者達がきた。この町で広域攻撃系の聖属性を使えるのは、今のところハルトと私だけだ。ギルド上層部の話し合いの結果、日中はハルトが、夜間は私が城門に詰めることになった。


 ギルド内には、女である私にアンデットが活性化する夜間を任せることを、心配する意見もあった。でもそれ以上に昼間、勇者が戦う姿を住人やランクの低い冒険者達に見せ士気を高める事が重要視された。今のデュシスはそうでもしないと、前線が維持できないほど追い詰められている。


「今日もお疲れさまでした」


 夜勤の冒険者達に挨拶をして、物見櫓を降りる。すっかり夜勤のメンバーとも顔見知りだ。各地のギルドから集められた精鋭達だから、パッと見、みんな強面で体格もいい。夜間に見るには迫力が凄いけれど、付き合って見れば純情である意味単純な人も多い、普通の人達だった。


「おう、お疲れさん。また夕方にな」


「いや、俺達は運が良いぜ。最初はお嬢ちゃんで大丈夫かと思ったが、なんのなんの。お嬢ちゃんが夜番になってから、何だかんだで正面で死人は出てない。何度か、特殊個体とやり合ってるが、こっちが優勢だ。トドメを刺せずにいるのが悔しいが、欲を出せば危ないから仕方ない。まったく、頼りになるぜ」


 そんな風に口々に話しながら、代わりの冒険者達に昼の間は任せたと言って、それぞれの寝床に帰っていく。夜は少数精鋭で守っているから、みんなレベルが高い。だからこそ、仕事終わりに軽口を叩く余裕があった。


 ちなみにスカルマッシャーさんや、サーイさんを初めとしたデュシス組は、昼間を担当している。暴走しがちなハルトを抑えるのに苦労しているそうだ。これも、住人達への配慮らしい。






「お嬢様、少しだけお時間を頂いても、宜しいでしょうか?」


 アルが私に話しかけてきたのは、クルバさんの家の庭に設置させて貰っている、隠れ家での事だった。


ちょうどお風呂から出てきた所に声をかけられて驚いた。お風呂の前で出待ちって、された方はびっくりするよね。


「あ、うん。何?」


「……出来ましたら、何処か人の来ないところで」


「なら、私の部屋でいいかな?」


 謝罪するアルを連れて、私の部屋に戻った。私の部屋に入ったアルは、室内を見回して絶句している。


 そう言えば、ここにアルオルを連れてきた事はないかもしれない。そもそも、地下二階には入るなって言った気もするし。

 いや、部屋自体には何度か来たことはあったっけ? でもゆっくり中を見る時間はなかったはず。驚かれても仕方ないかな。


「ここが私の部屋。いつも思うけど、豪華すぎて落ち着かないんだよね。

 出来たらアルの部屋と変わって欲しいくらい。アルならこんな豪華な部屋、慣れてるでしょ?」


 否定するアルへ苦笑しながら、ソファーを勧める。アルの正面に私も座って聞く体制になった。


「それでどうしたの?」


 アルが話し始めるのを待った。


「今回の魔物の件で、ご報告がございます。

 まずはこちらを確認して頂けませんか?」


 そう言って差し出してきたのは、封を切られた手紙だ。よく分からないまま、中を確認して、結局分からないまま、アルフレッドを見る。


「恋文?」


「……何故、そうなるのですか」


 脱力したようなアルの態度に、腹が立つ。


「いや、だってこの文面。会いたい。探していた。この心は貴方のもの。全てを捧げる。だめ押しで、人目を避けて会おう、だよ?

 他の何なのさ?」


 この非常時に何をとは思うけれど、世の中では吊り橋効果やらなんやらもあるそうだから、おかしいことではないのだろう。可愛い子だといいね。恋の許可ならいくらでも出すから、行ってくれば良いよ。


「この字は男の物です。そして、左の角をご覧下さい。小さく菱形の図形が書かれているのはお分かりですか? これは、我が一族に仕えてくれていた者が、名を書かなくても分かるようにと開発された符丁です」


 のんびり構えていた私に、アルは深刻な顔で先を続ける。


「符丁って、これデュシスで渡されたんじゃないの?」


「はい。今日、物見櫓から下に降りた際に、オルランドが受けとりました。オルランドより報告を受けて、お嬢様へご報告した次第です。渡してきたのは、町に入り込んだ特殊個体です」


「ウソ! そんな事」


「特殊個体の多くは、私を救出しようとした者達です。彼らが何故、あんな風になったかは分かりませんが、この手紙を見る限り生前の記憶を保持していると思われます」


「そう。それで何で私にこれを見せたの?」


 私にこれを見せて何をしたいんだろう? 取られるとは思わなかったのかな。


「前回はお嬢様に正直に話さず、後悔をすることになりましたので。二度、同じ過ちをするのは許されません。

 その上で、リュスティーナ様、どうか、お願い致します。私とオルランドはこの手紙に乗ってみようと思います。どうか、許可を」


 スッとソファーから立ち上がり、頭を下げたまま動かなくなる。


「あー……リュスティーナは止めてね。変な感じするから。

 さて、どうするかな。これの差出人は誰なの?」


 驚きすぎて働かない頭で何とか質問を絞り出す。最初に出会った時から比べれば、私も随分信頼されたもんだ。


「この符丁はヤハフェ、オルランドの祖父が使っておりました。私の救出を指揮したのも、ヤハフェです。お嬢様も何度か会っております」


「うん、覚えてる。忘れられる訳ないよ。ジルさんを怪我させた、あの枯れ木……」


 危なく枯れ木じじぃって言いそうになって慌てて口を閉じた。それをどう考えたか分からないが、アルが更に深く頭を下げた。


「ヤハフェに変わり謝罪致します。処罰をと望まれるのでしたら、何なりと慎んでお受け致します。ですから、どうか許可を」


「いや、私が許可したとしても、どうするのさ? ここはゾンビに包囲されている。特殊個体のお仲間が迎えにきてくれるの?

 そもそも良くも渡せたよねぇ」


 何よりもそれがビックリだ。


「この手紙に書かれていることが本当で、ヤハフェが敵陣にいるのならば、私達に危害は加えないでしょう。城門から外にさえ出られれば、あとは何とかなるはずです。最悪、城壁から身投げでもすれば良いかと考えております」


 こらこら、何を思い詰めてるのかな? それだと失敗したら即死亡だろうに。ため息をついて、アルへと提案する。


「ねぇ、アルフレッド様。これを私に見せたってことは、それなりに覚悟はあるんだよね? この手紙の主は私にとって、ただの敵だもん」


「それは……」


 いい淀むアルへと苦笑を送った。仲間を売りたくはないけれど、聖騎士として魔物も許せない。ついでに幾らかは今の仲間である私達の事も考えていてくれているのかもしれない。


「……冒険者ギルドに情報を渡す。その上で、私達はこの手紙のお誘いに乗り、ヤハフェと接触を持った上で、情報収集を試みる。

 それなら、デュシスからも協力を得られるかもしれない。ヤハフェがもしも、このゾンビ騒ぎの首謀者である特殊個体のビフロンだった場合、話し合いより殺し合いを優先する可能性もある。そこは覚悟して。アルオルが敵に回るのは出来たら勘弁して欲しいけれど、必要なら戦わせてもらうからね。

 それでも良ければ、許可をするよ」


 この戦況が固定化し、じり貧になっているデュシスの状況を知る人達なら、この申し出を受けるかもしれない。起死回生とはいかなくても、反撃の糸口にはなるかもしれないし。


 分かりましたと口数少なく話すアルも、ある程度、私の反応は予想していたんだろう。本当であればこのまま眠るつもりだったけれど、すぐにギルドに向かうことにして、着替える事になった。


「アル、そう言えばオルランドは何で来なかったの? 普通なら絶対アルと一緒に来そうなのに」


 ベッドルームで着替えている間、待たせていたアルに、扉の隙間越しに問いかけた。


「オルランドでしたら、探ってみると少し外へ行きました。私はティナお嬢様へ相談する事に致しましたが、オルランドは手紙を含めお嬢様へ情報を報告する事を反対しておりました。説得出来ず、申し訳ございません」


 バンッ! と着替えの途中だったけれど、音をたてて扉を開ける。


「なんでそういう大事なことを先に言わないの!!

 オルランドは外に行ったの?!」


 アルは膝を屈し、顔を伏せたまま慌てて同意した。


「……へぇ、私の許可なく外へね。これは戻ったらお説教案件かな? アルはオルランドは無事だと思ってるんだよね。

 分かった。なら急いで、ギルドに向かおう」


 日暮れまでには必ず戻る、特殊個体の待機場所を探すだけだと言って、オルランドは出掛けたらしい。オルランドが本気になれば、城壁などあってもなくても同じだと、誇らしげに話すアルに呆れてものも言えない。


 出かける私達の足音を聞き付けて、ダビデとジルさんもついてきてしまった。オルランドの暴走を聞いて、ジルさんが腰に下げたままのスリッパに手を伸ばす。


「止めるなよ?」


「止めませんよ。それどころか、思う存分どうぞって感じです。

 まったく、あのバカ。少しは信用しろっての」


 怒りのあまり、久々に素が出てしまった。

 燻る怒りのまま、ギルドに向かって足を早める。


 途中邪魔が入ることなくギルドに着き、クレフおじいちゃんとクルバさんに会える事になった。







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