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106.活性化する迷宮 上

「ティナちゃん! 来てくれたんだね! 待ってたよ!!」


 デュシスの噂を聞こうと、急いで向かったギルドに着いた途端、トリリンからの熱烈な歓迎を受ける。そのまま、こっちにとトリリンの執務室に案内された。


「トリリン、どうして私を待って?」


 いや、ダンジョンからそのまま来たし、今日私がここに来るなんて分かるはずないのに、何で待ってたんだ?


「え? ティナちゃん、トリリンが送った手紙を読んで来てくれたんじゃないの??」


 キョトンとするトリリンに、私も首をかしげた。


「いや、ダンジョンの入口で、ハルトからの手紙を受け取って。ゲリエの噂を聞いたので、詳しいことを聞こうとギルドに」


「えぇ?! そうなの??

 なら、トリリンが出したお手紙は読んでない?」


 頷く私に、トリリンは困ったような顔になった。


「失礼いたします。マスター・トリープ、ティナ様が来られたと聞きましたが……。あぁ、これは、ギルドの呼び出しに応じて下さり感謝します」


 入ってきたラピダさんに挨拶を受ける。トリリンが私は手紙を読んでいないと伝えている。


「では、偶然とは言え、ギルドに来てくださり、大変助かりました。ギルドから、スキュラ殺しのリュスティーナ様に指名依頼があります。聞いていただけますか?」


 一瞬目を閉じ、落ち着いたらしいラピダさんは、私の返答を聞かずに先を続ける。このギルドからの指名依頼って、信用ならないからなぁ。


「大陸全ての迷宮で活性化傾向が報告されています。この土地も例外ではありません。スタンピートを防ぐため、大規模討伐を行う事が、決定されました。

 ついては迷宮都市国家連合として、Bランク以上の全ての冒険者達へ、攻略迷宮を割り振り、内部にいる魔物の討伐要請いたします。Bランク冒険者、リュスティーナ様は現在攻略中に北部遺跡型階層ダンジョン『強欲祭壇』の魔物占有率低下をお願い致します。

 異論はございませんね?」


 いや、異論はありますって。そもそも何でこんな話をしてるのかすら、分かってないし、意味分からないから。


 聞きたいところが多過ぎて、とっさに反論できないでいる私に変わり、アルが口を開いてくれた。


「お待ち下さい。我々はつい先程まで、長く『強欲祭壇』に籠っていました。状況が分かりません。詳しい説明を求めます」


「また貴方ですか。面倒な。

 貴女方が『強欲祭壇』に籠っていたのは知っています。ですから迎えも送らずに、そのまま攻略を続けさせていました。下層へ人を送るのも、構造上大変ですし、占有率の低下にも繋がっておりましたから、ギルドとしても助かっておりました。その他の指名依頼の冒険者達は5日ほど前から、仕事に入っています。貴女方で最後です。

 ご友人のハルト殿は、南部フィールド型ダンジョン『暴食王座』の攻略を開始されています。西のダンジョン『憤怒泉門』はギルド子飼の冒険者達を向かわせました。先日スキュラを退治したせいか、他のダンジョンに比べて、活性化は緩やかです」


「ティナちゃんがスキュラレディになる前に狩ってくれたお陰だね。ありがとう♪」


 トリリンがすかさず合いの手を入れてくる。まぁ、到着当初の討伐が何かの役に立ってるなら良かったよ。


「東はどうなんだ?」


 ジルさんがラピダさんに問いかけている。東西南北全部、活性化してるなら、東がまだだね。


「東はねぇ、な、なんと!! 凄いんだよ!! これぞ、ミラクル!! これこそが奇跡!!!!」


 勿体振るトリリンに呆れたのか、ラピダさんがあっさりと教えてくれた。


「流れのソロAランクが、都合の良い事に先日こちらに着きました。実力も確かだった為、東部『嫉妬哀哭』の対処を依頼しております」


「薄っ暗い、陰気な男だけどね~」


 トリリンはティナちゃんの方が好きだよ~と軽く話かれられるのを無視して、ラピダさんに問いかけた。


「それで『強欲祭壇』で何をすればいいんですか?」


「先程申し上げた通りです。出来るだけ短期間で多くの魔物を狩って頂きたい。一定レベルまで魔物の分布濃度が低下すれば、迷宮の活性化も収まるでしょう。それまで、深部への攻略を一時中止し、殲滅戦へと移行して下さいませ」


 淡々と皆殺し推奨と言ってくるラピダさん、おっかないわ。


「そう言えば、ティナちゃん、今、何処まで攻略進んだの?」


「85層をクリアして、上に戻ってきた所。数日休んで、90層を目指すつもりだったんだけど……」


 85層!?とラピダさんとトリリンに驚かれてしまった。そう言えば、新記録だったっけ。


「さすが……」


「スゴ~イ」


 絶句している二人に、ちょうどいいチャンスだからと、クリア推奨なのか資源回収用なのか、そろそろ確認したいと伝えた。


「強欲祭壇は、資源回収用です。クリアしても、ダンジョンコアの破壊はお控えください」


 少し悩んで、ラピダさんが結論を出した。なら、クリア確認はどうするのかと思って確認したら、ダンジョンコアまで辿り着けば、直通のルートが開くらしい。それをギルド員が同行して、クリア判定を出す決まりだそうだ。


「にしても、85層かぁ。ねぇねぇ、ティナちゃん、エリアボスは何だったの?」


 身を乗り出して好奇心に瞳を輝かすトリリンを、ラピダさんが嗜めている。ダンジョン内の情報は買い取るのが基本で、落ち着いたら情報をまとめて、ギルドへの提出を依頼された。


「では、リュスティーナ様。85層までの魔物を、上層から順に出来るだけ多く狩ってください。迷宮の沈静化が確認され次第、こちらの通信機で連絡いまします」


 手渡された通信機を見て、ここにきたそもそもの目的を思い出す。そうだよ、デュシスだよ、ゲリエだよ。危なく聞かないで帰る所だった。


「あの! ゲリエの国が大敗したって聞いて。詳しいこと、知りませんか?」


「あ、あれね、お隣さん、大変そうだよね」


「はい。ギルド間の報告程度でしたら存じております。」


「ゲリエは、まぁ、どうでも良いとして、デュシスやその周辺は大丈夫なんですか?!」


「良いんだ……」


 ボソッとトリリンはそう言いつつ、デュシスの現状を教えてくれた。


「だって関わりないですから」


「ドライだねぇ。まぁ、トリリン、そんなティナちゃんもキライじゃないけど。ならさ、ティナちゃん、ギルドマスタークラスしか知らない事、トクベツに教えてあげる♪」


「目的は何ですか?」


「えー……そんな疑り深い」


 今までの事を考えると、素直に受け取れないんだよね。それと、私が欲しいのは誰でも知ってる情報。ギルマスしか知らないような、危ない情報はいらない。


「少~し、ギルド内部の情報も教えて、引きずり込もうなんて考えてないから、大丈夫だよ~」


「トリリン、本音漏れてる」


「トリープ様……」


 ラピダさん頭を抱えてるし。まぁ、気持ちはよく分かる。何でこんなのがギルマスやってるんだろう。いっそのこと忙しいだろうけれど、通信機でクルバさんに聞こうかな。その方が早い気がしてきた。


「トリリン、一般公開されている情報だけで大丈夫ですから。もし変な情報を寄越す気なら、他所で聞きますよ」


「えー……せっかくティナちゃんからのお願い事だから、トリリン頑張っちゃおうかと思ったのに~。残念だよ。気が変わったらいつでも教えてね。

 で、何だっけ? ゲリエが負けた話だっけ?」


 うーんとね……と少し悩んでから話を始める。


「隣国との最前線で、神官騎士団に魔物の襲撃があったらしいんだ。それで混乱してるところに開戦。惨敗したんだって。バッカだよねぇ。

 で、バカついでに、お国もトリリン達冒険者ギルドと対立してたから、国内の治安は悪化。魔物狩りも覚束ず、各地で反乱が勃発。前線の後退と共に、廃棄する地域も出てきてるって話。

 で、ここからがオフレコなんだけど~」


「あ、いいです。聞きたくないです」


「えー……残念」


 だから、何だか知らないし、知りたくもないけど、さらっと私を巻き込もうとするな!!


「デュシスは?」


「デュシスは前線と反対側ですから、土地自体に大きな被害はないはずです。ただ、デュシスから戦争に出ていた部隊は大きな被害があったでしょう。今年徴兵された全兵力の2割が死亡し、半数が捕らわれたと聞きます。

 それと、デュシスからケミスの町までについては、かろうじて冒険者ギルドが稼働しています。その他の地域に比べれば、治安が安定しています。何故かポーション類も手に入っている様ですし。

 悔しいですが、さすが殺戮幻影やギルドの妖怪……目覚めたキマイラの膝元と言うべきでしょう」


 王都から逃れた一部冒険者ギルドの関係者も逃げ込んだらしい。なんだか大変そうだなぁ、クルバさんに今度栄養ドリンクでも差し入れよう。ポーションの納品の方が喜ばれそうだけど。今度、大量に双方向の宝箱に入れておこう。


「他に確認したいことはありますか?」


 みんなの顔を見て、質問が無さそうだから首を振った。


「では、Bランク冒険者、リュスティーナへ混沌都市国家連合、冒険者ギルドからの正式な指名依頼です。

『強欲祭壇』内の魔物を討伐せよ! この都市でスタンピートを起こさせてはならない!!」


 気合いの入ったラピダさんの声を受けて、知らず知らずの内に背筋が延びた。ほんと、この人がこのギルドのギルマスなら納得なのに。


「あはは、ラピダそんなに気合いを入れなくても大丈夫だよ。

 まだ姉様も動いてないし、そんなに切羽詰まってない。でも、リュスティーナちゃん、失われし希望の雫。お願いだよ、この土地の為に力を貸して」





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