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103.新居へご案内

 公衆の面前で土下座したハルトに、私はかなり焦ったけれど、ハルトのハーレムメンバー達は、またかと言う表情を浮かべている。


「ハルトはいっつもソレだ」


「主様は都合が悪ぅなると、いつもそれでありんすね」


「ハルト様、ティナ様が困っていらっしゃいますよ」


 どうやらハルトは日常生活でも土下座を連発しているらしい。連発すると有り難みが薄れるのは世界を越えても同じようだ。やっぱり、ここぞと言うときにだけ使わないと、効果が落ちる。


「これはな、俺たちが謝罪を伝える最上級の形なんだよ!

 黙ってみてろ!!」


 土下座したまま、額を地面につけているのにそれでも上から目線ってどんだけだよ。まったく、変な少年だわ。


「……ティナお嬢様、どうされますか?」


「ダビデはどうしたいの?」


 流石に基本は無関心とはいえ、土下座少年を囲む美少女とウチの同居人達だと、周囲に人だかりが出来始めている。そろそろ恥ずかしいし移動したい。


 それと気になる点がもうひとつ。これ、アルが以前やってた行動、言動に近いんだけど、アルの時には感じた悲壮感やねっとりとした迫力がないのはどうしてなんだろう?

 ハルトの土下座は、高校生くらいの若者が、仲間内のギャグかノリで集団で行う遊びに近い感じがする。まぁ、これくらいの方が私もしても助かるんだけど。


「……立って。味噌は家にある。

 入れ物はあるの?」


「ない! が、買う!!

 樽でいいか?!」


「どんだけ持ってく気だよ!! タッパー……はないか。小さい壷で十分」


 ヒャッホーって、リアルで叫ぶ人間って初めて見たわ。

 財布を握りしめ、手早く壷を買っている。だから、複数買っても、ひとつ分しか渡さないよ!


「ティナ様」


 咎める様にアルが私の名前を呼んでくるけれど、苦笑を返した。


「まぁ、怒らないでよ。……同じ調味料を愛する同好の志だからね。少しは情けをかけるさ」


「だがなぁ、ハニーバニー、アレはまったく反省していないぞ」


「まったくだ」


 オルやジルさんにまで話しかけられて困ってしまう。ハルトが反省してないのは私も感じてるけど、まぁ、こういうキャラクターなら仕方ないかなと思った。しっかし、どうやらハルトは、ウチの同居人達から嫌われてしまったようだ。……ま、自業自得か。


「そう怒りなんしな」


「狐か」


「わっちは狐族の奏者でありんす。無礼な口は許ささんぇ?」


 ジルさんと狐の美女が話しているけれど、お世辞にも友好的とは言えないみたい。同じ獣人っぽいのに、なんでだろう?


 あー……、もう、バチバチ火花を飛ばさない!


「その口調、滅ぼされた狐族の国の王族に近い方かな。まさかこのような形でお会いできるとは。噂に違わぬ、美貌と色気。流石、傾国の美女を輩出すると名高き国」


 恭しく一例をしながらオルランドが狐美女に話しかけている。流石すけこまし、美女の情報は多く持ってるんだね。


「……狐族の王族にのみ伝わる古語を日常に使うなど、正式な王族ならしない。大方、遠い傍系か騙りか何かだろう。第一、王直系の一族は滅んだ。王家は国と運命を共にしたと聞いている」


 ジルさんが淡々と否定したら、狐美女が突然激昂した。ジルさんが美女に興味があるとは思えないから、同じ獣人情報かな?


「黙りゃ! わっちの里はお前ら獣人族が見捨てんしたせいで、滅びんした!! わっちは最後の国王が一子、ケーラ。()が何を言おうと、わっちは狐族の最後の奏者でありんす!!!」


「狐族は、別名妖狐族とも言われていた種族です。長く人族と友好関係を続けていましたが、魔族に近い種族と断され、人族の連合軍に攻め滅ぼされました。10年ほど昔の話のはずです」


 私やダビデが分かっていない事に気がついたアルが小声で補足説明をしてくれた。ケーラさんはジルさんに詰め寄ってるけれど、ジルさんは無反応だ。


「奏者とは、狐族の王族、それも直系王女のみに発現することのあるアヤカシの力、幻術の一種と言われておりますが、詳しくは不明です」


「いや、その王族がなんで滅ぼされて、しかも奴隷落ち……。魔族に近いって」


「愚するのも大概にしぃや! 散りなんし!!」


 コソコソ話していたら、ケーラさんの叫び声が響いて驚いた。バルトのハーレムメンバーも慌てて間に入ろうとしているけれど、間に合いそうもない。標的になっているジルさんは、反撃の許可を求めてか、私を見ていた。


 ケーラさんの体が輝き、一本だった狐の尻尾が、3本に増えた。え? 尻尾が増えた?!


「ケーラ!! ダメだ!! やめろ!!」


 買い物から戻ってきたハルトが間一髪、ケーラさんを止めて、増えた尻尾が元に戻る。ジルさんやダビデ達に集まるように話し、ハルト達を促して歩き始めた。


「ティナ、悪かった」


「うん、驚いた。なんでウチのジルさんを攻撃したの?」


 謝るハルトを見ながら問いかけた。攻撃を仕掛けてきたケーラさんは、他の女の子達に押さえられている。ジルさんは、まったくの無表情。もっと怒ってもいいと思うんだよね。


「ケーラの国は、獣人の国からの援軍が来なくて滅んだとされている。だから、獣人には過剰に反応することがあるんだ。本当にすまない」


 今度はジルさんに謝っている。しかし、10年前ねぇ。恨みは時を超えるんだねぇ。


「……今後はやらせないでよ。あと、ジルさん、必要な反撃はしていいです。ギルドでラピタさんに言われたのを気にしてるんでしょうけど、気にしなくていいです。やられたら、やり返せ。ただし過剰防御は禁止。いいですね?」


「承知した」


「さぁ、ハルト、北にある遺跡群の手前に私達の仮拠点があるから、前で待っててね。味噌はどんなのが欲しいの? ついでに醤油もいる?」


「え? くれるのか?! てっきり、もう貰えないかと。ババ……っと、オバチャンいい人なんだな!!

 ありがとう!!」


 あー……なんか暗いと思ってたら、怒った私が味噌や醤油を分けないと思ってたのか。そんな狭量な事をするつもりはないんだけど。


 道々、警戒して話さなくなったお互いの同居人達に仕方なく、ハルトと雑談しながら歩いた。


 どうやら、私がズルをしてチートを複数ゲットし、この世界に降り立ったと思って当たりがキツかったらしい。まぁ、初期訓練的に、ズルをしたと言われても仕方ない状況だから、苦笑だけで済ませたけれど。それに、訓練時の遠征はハルトの方でもあったらしいが、3週間コースでは最終ミッションも含めて2日しかなかったそうだ。


 ポイントで何を受け取ったのかと、お互いに腹の探りあいにはなったけれど、決定的な事は聞けなかった。でも、ハルトはスキルと武器にポイントを多く割り振ったから、アーティファクト系の管理者オススメシリーズはひとつも持っていないらしい。


 オススメシリーズの武器は涙を呑んで諦めた。形態が変わる武器、メッチャ欲しいー!! と往来の真ん中で叫びだして恥ずかしかった。


 そんなハルトを貸家の前で待たせて、みんなを連れて中に入る。

 居間で待っていてくれるように話して、奥の部屋に隠れ家を設置して、キッチンに向かった。


 ダビデと相談しつつ、預かってきた壷に、味噌と醤油をそれぞれ詰め、外に出る。


 退屈そうに待っていたハルトは私達の手の中に壷があるのを確認して目を輝かせた。


「そ、それ!!」


「うん、味噌と醤油。よく分からないから、一般的に田舎味噌と呼ばれるモノと、濃口醤油にしたね。無くなったら、売るから知らせて。あー……ただ私たちもダンジョン攻略に入るから、いないかも。なら、ギルドに伝言か依頼でも残してよ。こっちから会いに行くからさ。住み家はどこいらへん?」


「家はスラムと下町の間だ! 孤児院の隣だからすぐ分かる!!

 マジか~、マジで味噌かぁ。ようやく、ようやぐぅ~、エグ」


 泣くほどかい!!


「あの、先程の私達の仲間が攻撃をした事、ハルト様の当初の言動、合わせてお詫び致します。そして、出来ればでいいんですが、ティナ様、ハルト様とお友だちになっては頂けませんか?

 お願いいたします」


 従順系美少女が咽び泣くハルトに変わり、私に向かってお礼を言う。ついでに申し訳なさそうに、お願い事もしてきた。


「え、いや、友達って」


「はい、お友だちです。ハルト様は私達の生活を気にするあまり、親しい友人は愚か、知人すらいない状況です。周りにいるのはハルト様を利用しようとする者ばかり……。どうかお願いします。ハルト様と忌憚ない友人付き合いをして頂けませんか?」


「ステファニー、余計な事を言うんじゃ……」


 涙声のまま、恥ずかしそうにハルトが抗議の声をあげる。


「ステファニーさん、ハルトも子供じゃないから、そんな周りが頼んでお友達って変ですよ。それに……ま、同好の志認定はしましたからね」


 言外に知人にくらいはなっていると伝える。私の両手を握りしめ、ステファニーさんはお礼を言った。いや、そんなにハルトの交遊関係が心配だったのですね。うっすら涙浮かべているし……。


「ステファニー!……くっそ。ティナ、また味噌と醤油が無くなったら連絡する!! 今回は悪かったよ!!

 じゃあな!!」


 手を振りハーレムメンバーを引き連れて去っていくハルトを見送る。


「何と言うか、嵐のような……」


「変なやつだったな」


 せっかくオブラートにくるんだのに、ジルさんが身も蓋もない言い方で切って捨てた。


「はは、まぁねぇ。

 さぁ、中に入りましょ。アルオルが調べてきてくれたダンジョンの情報を確認して何処に潜るか決めないと。頑張りましょうね」


 口々に同意するウチの同居人達を頼もしく見上げながら、貸家に戻った。




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