表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/9

それぞれの理由

 道すがら話を聞いたところ、レイアは賞金には全く興味が無いらしい。天覧武道会入賞者という肩書なら騎士の世界でも十二分に通用する。それどころか、本家魔法使いを抑えての優勝ともなれば、引く手数多、働く場所も、女も、何でも選びたい放題だということだった。

「何よりも名誉なことなんだ。それは」

 最後に一言、噛みしめるように付け加えた。

「そういうきみはどうなんだ?」

「俺? 俺はアニマに誘われて」

「それはきっかけだろう。何かほかにあるはずだ」

 改めて考え直してみても、シンにはそれらしい動機が無かった。友人に誘われるまま魔法使いの祭典に紛れ込んではいるが、偉そうに自分を魔法使いだと標榜する勇気はない。アニマのように世界一の魔法使いになりたいわけでもないし、レイアのように名誉が欲しいわけでもない。賞金は少し魅力的だが、どうしても欲しいと思うほど困窮しているわけでもなかった。

「まさか本当に無いのか? 主体性のないやつだなぁ」

 レイアに呆れられたが、何も言い返せなかった。

「腕試し、とか?」

「私に聞くなよ。自分のことだろう。しかし、案外そんな人間の方が手強かったりするのかもしれない。まぁ目的など特に無くてもいいさ。時にそれは足枷にもなりかねないからな」

 軽く笑い飛ばされた。

 アニマに追いつきたい。可能な限り早く。そう言おうとしてシンは止めた。シンとアニマの複雑な事情を知らないレイアからすれば、女の尻を追いかけ回しているようにしか見えないだろう。格好悪すぎる。そろそろ村に入りそうだ。話を切るタイミングとしては頃合いだった。

 小さな村だった。おかげで目当ての換金所は簡単に見つかった。

「おめでとうございます。ただいまキャンペーン中で、先着十名様まで三十ポイント差し上げております。どちらか一名となりますが、どうぞお受け取りください」

 予期せぬ事態にレイアと顔を見合わせる。

「きみがもらえばいい。さっきも言ったが、私だけではもっと時間がかかったはずだ。それに、三十ポイント程度、すぐに取り返してみせるさ」

「なら遠慮なく」

 受付からもらったばかりの真新しい通帳には三十と書き込まれていた。シンは受付にポイントを十ポイントだけレイアに移すように頼んだ。

「きみは・・・・・・なんというか、馬鹿がつくほどお人よしだな。そんなことでは、いつか足下を救われるぞ。しかし、押し問答になるだろうから、これはありがたく貰っておくよ」

 レイアは通帳を指で挟み、片目でウィンクした。同性相手になんだかおかしなやつだった。バッチリ決まっていたが、不覚にもときめいたりはしなかった。

 換金所を出たあとは、町を適当に散策した。めぼしい建物は小さな大衆食堂と宿屋が一軒ずつ、そのほかは怪しげなトレードセンターが一軒あるだけだった。何はともあれ腹ごしらえだと思い、大通りに出ようとしたところで、後ろから路地に引き戻された。

「待て。誰かくる」

 人相の悪い三人組と、それに付き従うメイド姿の美少年という例の組み合わせだ。シンたちとほぼタイムラグ無しにフーセンまで辿り着いていたらしい。

「参加者のやつら実はたいしたことないんじゃないか。コイツがとろとろしてても、このありさまだ」

「ただでポイント貰えるなんて得しましたね。この調子で予選突破しちゃいますか」

「しちゃいますか」

『がはははははっ!』

 癇に障る馬鹿笑いはシンたちのいる路地裏まで筒抜けだ。状況から推察すると、先を越されたと見て間違いなさそうだ。腐っても天覧武道会の参加者と言ったところか。会場でのいざこざから、取るに足らない相手とばかり侮っていたが、こと魔法に限れば、シンの方が劣っているという現実を突きつけられた。直視したくない現実だった。

 無用な争いは避けたい。だが、馬鹿笑いを続ける三人組の後ろでしょんぼりとうつむいているクリスのことが気にかかる。

「待て。待つんだ。助けるな」

 路地裏から飛び出そうとしたところを、強引に引きとめられた。振り向き、反論しようとしてやめた。レイアの方がシンよりも余程険しい顔をしていた。黙って四人が食堂に消えるのを見届けた。

「海岸で姿を見かけたから見直したんだがな」

 レイアは誰ともなしにひとりごちた。

「じゃあ行こうか」

「どこに?」

「盗み聞きに決まっているだろう。アホか、きみは」

 ため息交じりで、さも当然のように言われた。「悪いのは俺か?」とシンは自問してみたが、全く納得いかなかった。 

 こそこそとネズミのように食堂の窓下に男二人、仲良く陣取った。気づかれないように、そっと窓をわずかに開くと、餌をねだり鳴き喚くガチョウのような大声が外まで響いてくる。周りの客はさぞ迷惑だろう。だが災い転じて福となす。おかげで耳を澄まさずとも、会話の内容は聞き取り放題だ。

「おい。初めはなに狙う? やっぱメイシン湖の謎か?」

「そうですね。千ポイントは魅力的ですし、いいんじゃないでしょうか。我々三兄弟の力を持ってすれば、余裕を持ってクリアできるでしょう」

「賛成、賛成!」

 丸々と太った男トォンの問いにひょろひょろと背の高い男チィンが答え、ずんぐりとして小さな男カーンがうるさく追従する。三人がテーブルを囲み、料理をほおばる横でクリスは一人、直立不動を強いられていた。

「ちなみにお前はどう思うんだ?」

 鶏肉を突き刺したままのフォークを向け、トォンがにやにやして問いかけた。クリスがビクッと体をすくませ、答えられないでいると、残りの二人も下卑た笑みを浮かべた。

「兄さんも人が悪いなぁ。こんなオカマちゃんに聞いても仕方ありませんよ。恥ずかしくないんですかねぇ。男がそんな恰好をして。私なら死んだ方がマシだと思いますけど」

「それもそうか。こりゃ一本取られたな!」

 三人で汚い顔を突き合わせて「ぐふふ」と笑う。シンは堪忍袋の緒が切れそうだったが、レイアに窘められて、浮きかけた腰をもう一度下ろした。三人の話はまだ続くようだ。ブチ切れるのは、話が終わってからでも遅くは無いと思い直した。

「それより、あの噂どう思います?」

「あん? メイシン湖にはエルフが水浴びに来るってアレか?」

 クリスを蚊帳の外に追い出して、三人兄弟は密談を始めた。声量が落ちたせいで、途端に聞き取り難くなった。

「エロ豚どもが」

 レイアが吐き捨てた。

「どういうことだ?」

「どうやら水浴びにくる女エルフを覗きに行くつもりらしい。というか、耳が悪いな。あれくらい聞き取れるだろう」

 一言多くさえなければ、常人離れしたウサギ並の聴覚に称賛の声を送っていただけに、シンは残念でならなかった。いちいち一言多い男だった。

 クリスのことは、助けられるならば、手を貸してやりたいが、その一方で、本人にその気が無ければ、どうしようもないような気もする。難しいところだ。

「じゃ、腹もいっぱいになったし、行くか」

「行かれますか」

「行こう、行こう」

 汚したテーブル周りをそのままに、三人は笑いながら食堂を出て行った。クリスは一人片づけをしている。結局、店の人に止められるまで掃除を続けていた。三人の姿はもはや影も形も無くなっていた。

 クリスは大きくため息をつくと、髪の毛を一本引き抜いた。一瞬でピンと立ちあがり、一方向を示した。導かれるままにクリスは店を出て行った。

「あいつ、魔法上手いんだな」

「ああ。昔からそういう子だった」

 感心するシンに同調するようにレイアが呟いた。

「知り合いか?」

 シンが尋ねると、レイアはあからさまにしくじったという顔をした。

「いや! 知らないぞ! 私はあんな子供のことは知らない。近所にいる魔法の上手い子に似ていると言ったんだ!」

 大慌てで言い訳をする。レイアとクリスはお互いに知らないふりをしているが、旧知の仲であろうことは疑いようが無い。

「お前の周りには魔法の上手い子どもが随分たくさんいるんだな」

「そうなのだ。凄いだろう」

 レイアはすっかり安心しきった顔をして胸を張った。

 シンは段々レイアのキャラが掴みかけてきた。すぐ感情が顔色に表れる、基本的に正直な男だ。三人組に絡まれていたクリスをいの一番に助けに入ったくらいだから、正義感も人一倍強そうだ。一言も二言も多いのは珠に傷だが、その部分にさえ目を瞑れば、良好な関係を築けそうな気がする。クリスとの関係を秘密にしているのは、何か複雑な事情があるのだろう。シンは大人しく騙されることに決めた。

 クリス(と三兄弟)をこっそり尾行するということで、二人の意見は一致した。慌ただしく森の中へ逆戻りする。生い茂った草木が遮蔽物となり、どこへでも隠れられる。見つかる心配は無さそうだ。心配の種はメイシン湖へ到着する前へ追いつけるかどうか、その一点に限られる。フーセンを発見するのは、向こうの方が早かったのだ。油断はできない。

 レイアの足は速い。体格そのものは、シンの方がやや勝っている。それにも関わらず、少しでも気を抜くと、あっという間に置いて行かれそうになる。とにかく身のこなしが上手いせいで、一歩進むごとに差をつけられる。

「早くいこう。きみが案内してくれないと道がわからないんだ」

 道なき急斜面を難なく駆け上がると、足を止めてレイアが言った。

 シンはじんわり汗ばんで、肌に服の生地が張り付いてきているというのに、レイアは全く汗をかいているようには見えない。

 落ち葉が敷き詰められた地面は腐葉土と化していて、歩きにくいことこの上ない。その上、急斜面からは、瘡蓋のような肌をした広葉樹が何本も突き出し、行く手を阻んでいる。彼のように独力で急斜面を超えることは早々に諦めて、素直に魔法の力を借りることにした。

「もうちょっと体を鍛えたらどうだ? イチイチ魔法を使うのも面倒じゃないか」

「ほっとけ」

 苛立ちまぎれに言うと、鼻で笑われた。

「性格悪いぞ」

「それこそ放っておいてくれ。それより下だ、下」

 レイアに言われて、斜面の上から反対側を見下ろすと、先頭のクリスから少し離れて、御一行が仲良く歩いてくるのが見えた。一足早く地面に伏せたレイアに、慌ててシンも倣った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ