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花冠の葬列  作者: 祥雨
思い出せない、忘れてしまった
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第壱話 少年と三つの雪化粧

身を切るような寒さが、全身を襲い身震いをしていなければ凍え死んでしまう。そう思わさせる極寒の地に少年は、立っていた。絵で描いたような、雪景色。どこを見ても、雪が降り積もっており、雪の重さで木がしなっている。木が折れてしまうのが先か、それとも雪が先に落ちるのが先か。どちらが先でもおかしくない状態。息を吐くと、白くなって大気の中へと消えていく。鼻と耳を真っ赤にして、少し離れている所でキャッキャッ楽しそうに遊んでいる三人の自分と十以上違う子供達を、眼鏡の奥で輝く瞳で捕らえている。


「アシェルー! アシェルもあそぼうよー!」


三人の内、和服を着た男の子が、三人を見つめて立ったままだった少年―アシェル=シェルリングの腕を引っ張る。他の二人は、雪の塊を雪の上で一生懸命転がしていた。あの大きさで雪合戦をするのは無理だろうから、きっと雪だるまを作っているのだろうと推測しつつ、腕を引っ張る男の子を持ち上げた。日に日に重たくなっていく為、目では見えないが成長しているんだと実感させられる。持ち上げた後、一、二回横に大きく振って、雪の中へと男の子を投げた。飛び過ぎないよう、力を調節して。


ぼふっと雪の中に飛び込んだ男の子は、数秒してから顔を上げ、キャッキャ愉快そうに笑う。こんな寒い中、雪の中に落とされたら自分だったらキレるだろうなとアシェルは男の子を見て思った。すると、大きな雪の塊を作っていた二人が、アシェルが男の子を雪の中に落としたのを見て、走ってやってきた。中華服の上にポンチョを着た男の子が、雪に足を取られ転倒する。隣で走っていた、ワンピースを着た女の子が突然消えた男の子を不思議に思い、足を止めてキョロキョロと辺りを見渡していた。


「ライ、大丈夫?」


雪に落とされ、キャッキャ笑っていた男の子を抱きかかえて、雪に足を取られながらも転倒した男の子の元へと向かった。隣で不思議そうにキョロキョロ辺りを見渡していた女の子の頭を撫でると、嬉しそうに笑う。すると、自分も抱っこしてと、両手を広げた為、アシェルは和服を着た男の子とワンピースを着た女の子を片方の腕で抱きかかえる。両手にそれぞれ十キロ程度の重みを抱える事となり、腕と背中と腰の痛みを覚えながらも、転倒した男の子に声をかけた。


転倒した男の子―ライ=ルビエラは、むくっと起き上がった。その様子を見て、大丈夫そうだなとアシェルは思い、ほっと一安心。雪まみれのライを見て、アシェルの両腕で座っている二人の子供は、ケラケラ愉快そうに笑う。その笑い声を聞いて、ライも愉快そうにケラケラ笑い出した。何がそんなに面白いのか、アシェルには理解できないが面白いんだろうなと思いながら、三人の子供を見ていた。楽しそうなのは何よりだけれど、こんな寒いのに薄着なのが凄いなと思いながら。


「オリとシズだけズルい! アシェル兄、ボクも! ボクもだっこ!」


「ざんねーん、もう、ばしょがないよーだ」


「ライがとろいから、ばしょがなくなっちゃったんだよ」


アシェルの左腕に座る和服の男の子―シズ=ルビエラが、べーっとライに向かって舌を出す。それをライがむきっとした顔で、見ながらもアシェルに強請る。そんなライにアシェルの右腕に座るワンピースを着た女の子―オリ=ルビエラが、ふふんっと言った顔でライを見つめる。シズも得意気な顔でライを見つめる。そんな二人にライが泣きだしそうな声で、「ボクも…ボクも…」と俯いた顔で言うものだから、アシェルは腰を下ろした。


「ライ、オリとシズより良い席空いてるから、顔を上げて」


大粒の涙を瞳に溜めたライが顔を上げる。ライと目を合わせ、アシェルは自分の肩に乗るよう目で指示した。ライは、手袋を付けた手の平で涙を拭き、アシェルの肩に、一生懸命足を上げて、片足ずつ乗せる。アシェルも、ライが乗りやすいように極力腰を下げるようにした。雪の上に座ってしまうと、コートが濡れてしまうし、なにより立ち上がるのがキツくなる。その為、座りたくなかった。立ち上がれるとは思うが、立ち上がれなかった時が怖い為。


「僕の頭に捕まっててね、落ちたら危ないから」


よいしょっと一気に腰を上げる。髪の毛を掴む力が強くて、抜けてしまうんじゃないかと不安に思った。が、ライが肩の上で「うわぁあああ」と嬉しそうな声を出したから、気にならなかった。ライを見て、二人が「いいなー!」と不満の声をもらす。腕よりも肩の方が、当然ながら位置が高い為、必然と見える景色が違ってくる。


「ライだけずるーい!」


「おれも! そこがよかった!」


「また今度ね」


ぶーぶーもらす二人に、アシェルは笑って返した。不満に感じて、つまらなくなったのか二人はアシェルの腕から下りたいと言い出した為、腰を落とすと、ぴょんっと下りてとそのまま走り出してしまった。それを見たライが、自分も下りたいと言い出し、ライの体を掴んで、地面に下ろすと二人を追いかけて行った。「まってよー!」と言いながら。元気だなと思いながら「あんまり遠くに行かないでよー!」と三人に声をかけると「うんー!」「わかったー!」などの返事が、少し遠くから聞こえてきた。


三人が遊びに行った事だし、自分は自分が座る椅子を作るかと椅子を作り始めた。椅子と言っても、ある程度の高さに雪を積み、固めて、座りやすいようにひらぺったく叩いていくものだから、椅子と呼べるかは怪しい。座れれば何でもいい為、凝る必要性はない。腰がずきずきと痛む中、アシェルは簡易な椅子を作っていた。ふと、三人を見ると、楽しそうに遊んでいた為、遠くには行っていない、約束を守っているなと安心した。


三人がはしゃぐのも無理ないなと、アシェルは三人の姿を見て思った。雪なんて、この地域は数十年に一度しか降らない為、次見れるのは今よりも大人になった時ぐらいだろう。アシェルも雪を経験するのは、今回で二度目。けれど、一度目は自分が赤ん坊の時だった為、覚えていない。その為、アシェルにとっても雪は、これが初体験と言ってもいい為、内心アシェルもはしゃいでいるのだが、仕事終わりである事と、三人の面倒を見ている事が重なり合って、はしゃいでいる場合ではない。


もう少しで、簡易な椅子が完成すると言った時に――


――ぐしゃっ


オリが、アシェルが作っていた簡易な椅子を、踏んで行った。


――ぐしゃっ


続いて、ライが、オリが踏んだ所とは違う所を踏んで行った。


――ぐしゃっ


最後に、シズがオリもライも踏んでいない場所を踏んで行った。


――プチンッ


目の前で自分が作っていた物を壊され、アシェルの堪忍袋の緒が切れる音が頭の中でした。踏まれた事によって、心を土足で踏まれた気持ちから、立て直し、ゆらりと立ち上がって、三人がどこにいるかを確認した。楽しそうに、鬼ごっこをしているようだった。完成する前の、まだ出来上がっていない時だったら、まだ良かった。まだ作っている途中で、それもまだ出来上がる前だから。だが、もうすぐ出来上がる、完成すると言った時に、踏んで行った。三人に悪意がないとしても、アシェルの心を折るには十分だった。


すぅっ、と冷たい空気を吸う。


肺が冷たい空気で満たされ、少し痛みを感じた。だが、今はそんな痛みに一々気を留めてはいられなかった。何度か深呼吸をした。これで心が落ち着き、あの三人を見て、可愛いと思えればこの事は自分の中でなかった事にしようと決めた。そして、三人を見た。可愛いとは思えたが、憎い気持ちもあった為、アシェルは三人に声をかけた。自分の中でなかった事にするのは、出来なかった。これで器の小さい人間だと思われようと、どうだっていいと思った。


「オリ、シズ、ライ。鬼ごっこしよう。僕が鬼で、三人が逃げるの。どうだい?」


笑顔で聞くと、三人はその提案に「うん!」と元気よく乗ってきた。それを内心ほくそ笑みながら、表では柔らかい、いつも通りの笑顔で「じゃあ十数えるね」と言って三人が走って逃げて行くのを見つめる。まずは誰から行こうかと考えながら、数える。三人の中で一番足が速いのが、シズ。持久力があるのが、ライ。だったら、距離もあまり離れていないオリから行くのが妥当だなと考え、十数え終わったため、――走り出した。


オリめがけて走ると、オリがキャーキャー楽しそうに言いながら逃げる。オリは曲がって逃げる特徴がある為、中々捕まえにくい。だが、アシェルはそれを知っている。くねくねと曲がって逃げるオリを、雪に手をつきながら追いかける。その内にシズとライが、追いかけられているオリを見て笑っている所に、オリが向かって走り出す。それを見て慌てる二人が逃げ出す。その方向へオリが向かう。この三人は、笑われるとそこへ行く習性がある為、狙うのは誰でもよかったのだ。三人が並んで、走っていく所に徐々に近付いていき――


――ぼふっ


「捕まえた」


雪の中に飛び込むようにして、三人を捕まえた。


三人は、捕まっちゃったと、残念そうに呟きながらも、楽しそうだった。アシェルは、息を切らせながら、起き上がって、眼鏡の位置がずれた為、なおしつつ笑って見ていた。極寒で先程までは寒かったけれど、走っている内に熱くなって来た。だがそれでも、まだ寒い為、立ち上がる。雪の中でずっと座っていたら、体温が下がってしまうから。


「オリーシズーライー、アシェルー、ご飯よー」


煙突から煙が出ている家の前に立っている女性から声をかけられ、ようやくご飯の時間かとホッとしながら、今回はじゃんけんに勝ったシズを肩の上に乗せ、オリとライは手を繋いだ。暖炉で暖まった、温かくて美味しいご飯がある家へと、雪に足をとられながらも、歩いて帰って行った。


「また雪が降るといいね、今度は四人でかまくらを作ろう」

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