TASさんが異世界に転生したそうです
ユニークスキル:テキストスキップ、壁抜け、オートセーブ、リセットバグ、仕様ミス、物理演算導入
0.異世界転生
その赤ん坊は、生まれてからわずか三秒しか泣かなかった。
元気な赤ん坊だと取り上げた乳母が、不審に思いその顔を覗き込む。
生まれたてに似つかわしくないほど、おだやかな微笑を浮かべた赤ん坊。
赤ん坊は、空中で右手の指をくいくいと動かした。
世界が、暗転した。
1.勇者誕生
青年は、商人の馬車に乗っていた。
彼は、空中で右手の指を動かす。
突如馬車の屋根の上に移動し、そのまま直立した姿勢のまま青年は超高速で移動する。
いつの間にか彼はは岩に刺さる剣の前に立っていた。
『剣を抜きますか?』
青年の頭に、直接語りかけてくる謎の音声。
青年は首肯し、剣を抜いた。
神官と思われる人々がどよめき、そのうちの一人が彼のもとに近づく。
「おお、神よ、我等がもとに勇者を――」
青年は右手の指を動かすと、めまぐるしく周囲の景色が変化し――世界が暗転した。
『――称号:勇者を獲得しました』
謎の声が、暗転した世界に聞こえた。
2.魔王討伐
「おお、よくぞ現れて――」
王城に呼び出された青年は、口元に微笑を携えた表情。
一切その表情筋肉を動かさず、彼は空中に右手を出した。
まるで何かを操作するように、空中で指先を動かす。
王様の言葉が、まるで早回しされたかのように加速する。
最後に、とある質問をなげかけた。
「――魔王を倒しに行ってくれないだろうか?」
青年は、首を縦に振った。
ファンファーレが、どこからともなく鳴り響いた。
3.装備新調
勇者は仲間を探すために、王城をまずさがすことにした。
城内を案内するメイドが、彼に頭を下げてこう言った。
「誰か気になった方がいらしたら、私に声をかけてくだ――」
青年が右手を動かすと、メイド少女の言葉が一瞬で終了させられた。
青年は、騎士の訓練場に案内されていた。
そこの壁の一角に、ひたすら体当たりを繰り返していた。
四回目ほどで、勇者は壁の間をすり抜けた。
城の外は地獄のような空間だった。足場のようなものが見当たらず、底抜けの闇が広がっていた。
しかしそんな中にある透明な足場を、勇者はしっかりとらえて歩き出した。
しばらく歩くと、突如禍々しい武器屋に勇者は出た。
いらっしゃいという言葉は聞こえたが、どこから聞こえたのかわからない。
前進すると彼の身体はカウンターを貫通し、店の内部にきちんと出た。
振り返ると、いかつい親父の顔があった。どうやらさっきまで、同じ座標に居たらしい。
青年は親父の横にある棚に向かう。
棚の前で右手と左手の指先をがしがし操作している。
世界が、暗転した。
※
勇者は仲間を探すために、王城をまずさがすことにした。
城内を案内するメイドが、彼に頭を下げてこう言った。
「誰か気になった方がいらしたら、私に声をかけてくだ――」
青年が右手を動かすと、メイド少女の言葉が一瞬で終了させられた。
青年は、自分の体を確認した。
世界を救った英雄に送られるはずの装備といわれる、軽金剛の鎧が装備されていた。
4.仲間二人
勇者は再びメイドに声をかけた。
「誰か居ましたか?」
首を横に振る勇者。
「それでは――」
勇者の右手操作により、またまためまぐるしく口を動かすメイド。
「何処へ行きますか? 酒場 闘技場」
勇者は、右と左の手をひたすらに動かした。
やがて、メイド少女の出す選択肢がかわった。
「クエストに挑戦しますか? 警告の谷 恐れの砦」
勇者は警告の谷を選択した。
「では、馬車でお待ちください」
勇者は、メイド少女の後ろの壁を聖剣で斬りつけた。
勇者は後ろに跳ね飛ばされる。
先ほどまでとは違い、外の光景は普通に曇り空、石材の城であった。
城の壁を透過したように通過して、城の周囲をかこう城壁に激突した。
激突してもダメージ一つなさそうである。さらに壁もへこんでいない。
勇者はそのまま自由落下し、馬車の屋根に激突――しなかった。透過して、馬車の中に体を収めた。
世界が暗転する。
世界が光を回復したとき、彼は氷に覆われた山々のふもとに居た。
勇者の背後には、鎧騎士と弓を構えた女性の姿があった。
いつの間にか、仲間が増えていた。
5.最終決戦(前)
勇者は、メイド少女に話しかけた。
「クエストを中止しますか?」
はい、を勇者は選択した。
視界が暗転して、勇者たちは城の入り口に戻された。
ちょうどそんな時、空が闇色に染まる。
全ての人物の身体が、突如として動けなくなる。
そして空の中から、一人の大男が現れた。
マントをまとった、悪魔の角のようなものが生えた男だった。
「ふん、これが勇者か、他愛ないな。我の金縛りで動きを封じられる程度で――」
右手を操作すると、誰しも動けない中で勇者のみが動きだした。
しかし、目の前で動いているにも関わらず魔王は一切気付いて居ないようだ。
勇者はそのまま背後に回り、魔王の頭を聖剣で斬った。
世界が、暗転した。
6.最終決戦(後)
いつの間にか、勇者とその仲間たちは魔王の城に居た。
紅い絨毯の上で蹲る魔王。
「ぐ……、このまま私を……、このぉ……」
珍しく台詞を早回ししない勇者であった。
突如、魔王の口から毒煙がはかれた。
勇者を庇うために目の前に立つ鎧男。
その場に倒れる彼と、叫び声を上げる弓の女。
しかし、勇者は毒のダメージを全く受けていなかった。装備により打ち消されていた。
毒を吐いた後、魔王はその姿を変容させた。
巨大な黒いすすの球体のようになった魔王。
勇者は、魔王に背を向け地面を聖剣で叩いた。
跳ね飛ばされた勇者は天井に激突した。
一切ダメージのない勇者と天井。
勇者は剣を下に向け、落ちる方向を魔王に向けて調整した。
魔王に聖剣が接触した瞬間、勇者の位置は魔王と天井との間に突如ワープした。
その位置で、天井と魔王との間を超高速でピストン運動する勇者。
決着は、わずか十五秒であった。
魔王の霧が晴れ、黒々とした空は青い空に回帰した。
7.エピローグ
魔王を倒した後、駆け寄ってくる弓の女。
右手を操作してその台詞を全て早回しし、勇者は城の外を眺める。
「長く、苦しい戦いだった。王女も死に、魔王も死に、多くの命が失われた戦いだった」
はじめて放たれた勇者の台詞は、酷く棒読みで、酷く感情が篭っておらず、酷く作業感に溢れたものだった。そして、その言葉と共に、世界は暗転した。
『――称号:世界を救いし者を獲得しました』
END
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