破損彼女
彼女は比べられることが嫌いだった。
だから過度な期待に重圧に潰されてしまった。
じっと棺桶の中を覗く彼女。
人気者だった彼女が死んだ。
人気者だった彼女と今棺桶の中を覗く彼女は幼馴染みだった。
兄弟でもない血の繋がりもない二人を、幼馴染みというだけで比べて来た周りの人間。
優遇された少女は今棺桶で眠る。
棺桶の中の少女には脳も臓器もないという。
沢山のモノを持っていた少女。
成績優秀でスポーツ万能の容姿端麗。
友達も多く周りからの信頼の厚かった少女。
でもそんな少女は今空っぽなのだ。
空っぽで燃やされる。
眠る少女の顔を覗き込む彼女の表情はこちらからでは見れない。
彼女と知り合ったのはほんの一年前なのに、私は彼女を守りたいと思っている。
期待やプレッシャーしか与えられずに、抑圧され潰された彼女。
壊れかけの彼女。
別にあの少女に恨みとかがあるわけではないが。
好意を抱けるわけでもない。
彼女は今どんな気持ちなのだろうか。
彼女の背を見つめるとさらり、と髪がなびきこちらを振り向いた。
黒い大きな瞳は曇りのないガラス玉のようだ。
右手が口元に添えられている。
感情の現れない顔つき。
「どうかした…?」
そう問いかけると私から視線を外し、ぐるりと黒目が一回転する。
そして宙を見つめてふむ、と吐息を漏らした。
「なるほどなぁ、と思って」
消え入りそうなほど小さな声。
周りのすすり泣く音などに混じって聞こえなくなりそうなくらいだ。
それでも私の耳には何故かスッと入り込んでくる。
透明な透き通った声。
首を横に動かしちらりと棺桶を振り返る。
そして私を真っ直ぐに見つめて口を開いた。
「これがザマアミロ、か…って」
ふわり、彼女は微笑んだ。
大きな目を猫のように細めて軽く首を傾げている。
重圧に押しつぶされた彼女は、比べられた少女が居なくなっても同じなのか。
綺麗な笑顔。
儚く脆く、そして破損している。