おいかけっこ
今回はかなり短いかな……前話の半分くらいです。
明かりの消えた川原でただ一人、空を見上げる。
いつものように座っていない。川の横で、ずっと立ちっぱなしだ。
朝、目覚めた時にはもう彼女はいなかった。
鞄が消え、焚き火もすっかり消えていた。
それを川に放り込むと、大きく伸びをする。罪悪感はあまりない。どうせ、自分で作った物なのだから、その内消えるだろう。
今日も、天気はいい。何が起こるだろうかと、世界を見下した気持ちで考えた。
彼女が現れたのは夕方。いきなり坂の上から「今日の夜も来るよ」と叫んで走っていった。
うるさいと言ってやりたかった。まあ来るときに言うが。
そんなこんなで待っていた深夜。
彼女が男五人を連れてやってきた。
勿論、走って。
「助けてー!」
この暗闇の静寂を吹き飛ばす、少女の声。
昨日の星空で悩みは吹き飛んだのか、最初に出会った時の暗い表情はどこにも見当たらない。
一日でこんなに変わるのか、そんな呑気なことを考えている内に、おいかけっこに巻き込まれた。
「どうせ来るんだったら、もっと静かに来て欲しかったよ。ついでに今日の叫び声、うるさかった」
少年、陽助は走りながら文句を言う。
「そんなこと言ったって……途中見つかっちゃったんだもん! 後、それはごめんなさい!」
まだ名も知らぬ少女が答える。
こんな会話をしている間にも、不細工な男五人組は徐々に距離を縮めてくる。
流石に、少女の走りに負ける大人達ではない。
「ていうか逃げてないであいつらやっつけてよ!」
「できるわけないじゃん」
少女の淡い希望を、陽助は一刀両断する。
あからさまに少女はガッカリする。
もう既に町の中にまで来ていて、曲がり角がけっこうある。
これを利用しない陽助ではない。
五人は全く一緒のスピードで走っているわけではなく、少しばらつきがある。
「僕は少し遅れていく。ただ、何が起ころうと、僕のほうを向かないでね」
漫画でよくある格好いい台詞を口にするが、このくらいなら、五秒で倒せる。
ただ、少女に自分の強さを見せたくないだけだ。
「う、うん、分かった」
少女も少し緊張した声音で言う。
それを聞くと、僕は少しスピードを緩めた。少女は先に走っていくが、こちらを見ようとしない。
陽助は曲がり角で止まり、男を待ち伏せする。
まず、一人目の男が曲がってきたところを、鳩尾に肘打ちを食らわす。
男は、走っていた勢いも手伝って、声を上げることなく倒れた。
すぐにやってきた二人目の男には、足を引っ掛け、転ばせる。
その隙に、陽助は逃げる。
少女がいないからって、無闇に暴れることはできない。
陽助の後に人が追って来なければ、バカでも倒したってことが分かる。
だから、少しずつ数を減らしていく。まあ、それもあまり変わらないかもしれないが。
しばらく走っていると、少女が路地で座り込んでいた。
「早く、来るよ」
陽助が小声で言うと、彼女は首を横に振った。
「来ないよ、多分。この路地はよく迷うから」
息を途切れ途切れにしながら、言う。
迷うと言っても、ここまでは一本道。何も迷うものがない。
だが、彼女の言う通り、あの男達が現れることはなかった。
仲間を庇って諦めたのか、この少女が何かしたのか、どちらかは分からない。
「もうこんなことは止めてね。疲れるから」
因みに陽助は、息切れ一つしていない。
精神的に、という意味が強かった。
「う、うん……ごめんなさい……」
少女は素直に謝る。
「じゃ、僕はこれで」
と言って立ち上がる。
少女が「あ……」と言葉を漏らしたので、「何?」と振り返らないまま、素っ気なく聞く。
「あの、まだお互い名前も知らないなーって思って……」
「伊津陽助、それが僕の名前だよ」
陽助はそのまま立ち去る。
「あ、私は星空咲だよ、覚えててねー」
そんな声を背にして。




