第九話 嘘吐きオッティア
グラウフラル家のグラウフラルとは、言うまでもなくこの大国グラウフラルの国王の名である。同義反復。逆さにしても横に倒しても結果は変わらない。
いかなヘレン教の「白の教師」ウォレスといえども、国王への謁見の機会を得ることはできない。正規のルートでは。
この場合、あきらかに裏ルートが必要であった。
グラウフラル城の城門の前で、大きな袋を持って、物乞いのように歩き回るウォレス。城門を見張る兵士としては、どうしてもツッコミを入れざるを得ない。
「おい、お前。物乞いのように歩くのをやめろ」
「ええ。はい。しかし私は『嘘吐きオッティア』ですから」
「なんだと?」
「ええ。はい。『嘘吐きオッティア』と申しました。なぜかいつも都合よく『銀の弾丸』を持ってるアレです。例のアレ」
「それは戯曲の中での話だろう! あんな男が実在してたまるものか!」
「ええ。はい。それが実在するんです。なんでも、この国は竜の件でお困りとか」
そこにちょうど通りすがりの盗賊ロビンが「ああ、嘘吐きオッティアさんだ。こんにちは」と声を掛ける。
またそこにちょうど通りすがりの魔法使いリュートが「ごきげんよう嘘吐きオッティアさん」と挨拶する。
剣士アートルムが「なにしてんすか嘘吐きオッティアさん」とダメ押しする。
「ええ。はい。なんでも、この国は竜の件でお困りだとか」
「その変な受け答えをやめろ。お前は本当に『嘘吐きオッティア』だというのか?」
「はい。そういうことになっております。この袋の中身は『証拠品』です」
「なんだか変な話になってきたな。本当にお前は『銀の弾丸』を持っているというのか?」
「それはもう。必要な場所に、必要な時に、必要になる場面が来るまでは持っております」
「その袋に入っているのか?」
「ああ、ダメです。『証拠品』は国王陛下の前でしかお見せできません」
「国王陛下だと? グラウフラル国王陛下の前で何を見せるつもりだ!」
「別に信じろとは言いません。私は『嘘吐きオッティア』。信じる信じないはあなた次第」
「もし変なものを見せれば、お前の首が飛ぶことになるぞ!!」
「ええ。はい。百も承知のうえでございます」
「そこまで言うのなら、奇人変人の類として会わせてやる。だが何度も言うが、変なものを見せれば首が飛ぶぞ!!」
「ええ。はい。私は『嘘吐きオッティア』。嘘をつくのが私の務め」
何度かの押し問答を経て、ウォレスは謁見の間に通される。
「国王陛下! この者、自らを『嘘吐きオッティア』と名乗り、『銀の弾丸』で『竜を退治する』と妄言を吐いておりましたゆえ、お連れ致しました。もし言うことが嘘であれば己の首を賭けると申しております」
「……本当に竜を退治するというのか?」
「その前に『証拠品』をお出ししたいと思います」
ごとごとと音を立てて、十二個の籠手が袋から絨毯の上に落ちた。