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第七話 レッド・ドラゴンの話

 レッド・ドラゴン討伐のために、公騎士団とリソースガード、ヘレン教から、志願兵が募られた。

 参加者には銀貨四枚の支度金に加え、生きて帰れば金貨一枚。破格の相場である。だが、その命が儚く消え去る定めであろうことも、全く予想の内であった。公騎士団長の「我に続く者はいるか!」という掛け声も、虚しく空を切った。

 

 様々な種類のドラゴンの中でも、レッド・ドラゴンはとりわけ強い。その強さは他のドラゴン、ドレイクなどとは比べ物にならないとされる。

 その動きは雷光のように素早く、並みの弓では飛んでいるところを射ることもままならない。その身体は強靭で、並みの剣や槍ではその鱗を突き破れない。

 しかもレッド・ドラゴンは弱点とされる腹部でさえ甲羅に覆われ、剣を全く通さないと言われている。ドラゴンを打ち倒すにはその目を射るしかないなどという話でさえも、まことしやかに囁かれていた。

 そして、レッド・ドラゴンは実際に電撃を操り、炎と死の息を吐くとされる。

 

 記録が確かならば――確かだと信ずるより他に無いが――グラウフラルが最後にドラゴンと戦ったのは百年前にさかのぼる。当時の強欲な領地拡大の野望が、ドラゴンの縄張りを侵す結果となり、戦端は開かれた。

 

 レッド・ドラゴンは強かった。無敵であった。たくさんの兵士が挑み、いっぱい人間が死んだ。そこに一人の魔法使い――エルフとも妖精ともいわれる――が現れ、弓矢を祝福した。それは射れば必ず当たる矢であった。名も無き勇者がこの矢をつがえ、射った。それがドラゴンの眼に当たり、ドラゴンはたまらず逃げ出した、とされている。

 魔法地味た記録伝承の上でも、ドラゴンを完全に殺せてはいないのだ。

 

 その記録が公開されると、当然ではあるが、あのドラゴンが復讐のために戻ってきたのではないかという噂が立った。ドラゴンに寿命というものはない。従ってその可能性はゼロではなかった。噂は信憑性を持って語られており、いかな公騎士団とはいえ、噂の全てを打ち消すことはできなかった。

 

 ロビンはたまらず、ウォレス・ザ・ウィルレスの部屋に話を聞きに行った。魔法使いリュート、剣士アートルムも一緒についてくる。

 

「確かにあの時もレッド・ドラゴンじゃったとも。だが状況は全く同じでは無いな」

 その言葉に、ドラゴンの復讐という可能性が消えたと思い込み、喜びの笑顔を作るロビン。

 だが。

「今回はあのときのように、弓矢を祝福してくれる良き魔法使いは出てこんじゃろう」

 ロビンはその言葉に衝撃を受ける。

「なぜです? 良き魔法使いはどこに行ってしまったんです?」

「魔法など、元々無かったんじゃよ。全てはペテンじゃった。まず祝福された弓矢があったのではない。たくさんの名も無き勇者がいて、たくさんの祝福された弓矢があった。眼に当たったのはたまたまじゃった。全ては偶然だったのじゃ」

「そんな……」

 ロビンは途方にくれる。

 

「いかな大国といえども、グラウフラルがレッド・ドラゴンを撃退できる可能性は限りなく低いじゃろう」

 ウォレスは冷静に分析し、ロビンは完全に意気消沈した。

 しかし、ふと気付く。

 

「でもあなたなら倒せるのではありませんか? 白の魔王ウォレスならば?」

 

「無駄じゃ。たとえ儂がこの力を貸したところで……いやそれ以上の仮定は無意味じゃ。どうすれば勝てる、どうすれば負けるとまでは儂にも言えぬ。儂は予言者ではない。予言はしてはならぬのじゃ」

 

 グラウフラルは己の限界を知るべきじゃ、とウォレスは呟いた。

 それがグラウフラル自身の、ひいてはリリオットのためでもある、と。

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