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第六話 ソウルスミス リリオット売ります

 次にウォレスが向かったのは、フラーテル自治区の商業ギルド、ソウルスミス本部であった。

 エフェクティヴに比べれば、これは比較的簡単であった。「リリオットに関するうまい儲け話がある」と言うだけで、あっさり本部長への面会セールスの時間を取れた。

 とはいえ無論、護衛のリソースガードは大陸中を探しても見つからないほどの屈強な戦士揃いではあったが。


 ある部屋の黒い事務机の前に、ウォレスは通された。 

 インテリアのつもりだろうか。あるいは己の権力を誇示するためだろうか。机には悪趣味なことに、黄金のコインが――おそらく模造品イミテーションだろうが――惜しげもなく積み上げられていくつもの塔になっている。


 そこに黒ぶちの眼鏡をかけた、白髪の男が現れた。

 真っ黒なスーツとネクタイを着用している。白髪頭を除けば、靴の先まで真っ黒だ。

 その顔には完璧な作り笑いが張り付いている。

 

「私が本部長ウェトゥムです。面会セールスの時間はあまりありません。30秒以内に要点を述べてください」


「儂が言いたいのは五つだけじゃ」

「一、リリオットは半壊したが『f予算』という巨額の資金を得た」

「二、現在のリリオットは大国グラウフラルに対抗するために武器を欲している」

「三、グラウフラルに武器を売らずに裏でリリオットの独立を支援する」

「四、そして土地その他を担保抵当に取るという立場を取れば大もうけできる」

「五、もっとも本当の戦争になれば儲けは焼け野原になって消し飛ぶが」


「いいですね。あなたは本当に30秒以内に要点をまとめた。あなたはいいセールスマンになれますよ。請合いましょう。それであなたのお望みの回答は?」


「回答は、要らん。儂は要点を伝えた。そろばんを弾くのはそちらの仕事だ。戦争好きのリソースガードを飼いならすのは難しかろうが、まあたっぷり儲けてくれ」


「では私から一つだけ。あなたの出身はリリオットだ。僅かだが古い訛りがある。そうですね?」


「面会してくれたことに礼を言う」


「こちらこそ。あなたはセールスマンに転職なさるべきですよ」


 そして、ウォレスが去った後。


「俺は気にいらねえな!!」


 鋼鉄の鎧兜を着て、背中に精霊剣を背負い、隣の部屋に控えていた赤髪の傭兵長ベルルが、その鉄底の靴で机を蹴って吼える。

 積み上げられていた黄金のコインの塔が、がらがらと音を立てて崩れ落ちた。


「どう見てもあいつは魔法使いだ。魔法使いの言うことは信頼できねえと、大昔から相場が決まっている!!」

「しかしリソースガードの傭兵たちから得た情報でも、『f予算』はリリオットの手に渡ったということになっていますからね。武器を売るなら金のあるほうに。それがソウルスミスの行動原理です」


「そういう意味で言ったんじゃねえよ」ベルルが地に落ちた黄金のコインを見下ろして吐き捨てる。

「ならどんな意味です?」


「あいつはもし交渉が決裂すれば、俺を含めてこの部屋の人間全員を殺す気だった!!」

「はは、まさか。いくらなんでもそんなことは、魔王でもない限り……」


「いやあいつは魔王だ。ずっと殺気を隠しちゃいたが、俺の勘が確かなら……」

「……それ以上は言わないでください。あの方はリリオットを売りに来た敏腕セールスマン。それ以上でもそれ以下でもない。そういうことにしておきましょう」


 本部長ウェトゥムの完璧な作り笑いに、冷や汗がたらりと流れた。

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