とある学校の日常風景です。
雄馬にとって一番不安な日が訪れた。
それは学校である。
現在高校2年の雄馬は学校をサボるわけにはいかないので、朝早くに目が覚めた。
上半身を起き上がらせたときに、ベランダに通じる窓のところから視線を感じる。
ふと見ると、そこには雄馬をじっと見つめるアリスが立っていた。
まるでずっとそこに居たかのように。
「おはよう。我が主」
「お、おはよう。寝てないのか?」
「まぁの。別に睡眠は必要ではないからの。お主の寝顔、実に可愛らしかったぞ?」
クックック、と笑いながらアリスは雄馬を見つめる。
漆黒の眼は獲物を捕らえるがごとく、雄馬だけを見る。
少し背中に寒気を感じた雄馬は、何事もないように立ち上がる。
いつものように水菜が朝食を作るわけではない。
今や時の人となった水菜に変わり、雄馬が作る番である。
二階の自室から一階のリビングに移動し、朝食を作る。
テーブルに座ったアリスがその様子を見る。
「なるほど。お主は学生か」
「ああ。・・・あと、その『お主』って止めてくれないかな?」
昨日から気になっていたことを言う。
「ふむ。何でじゃ?」
「いや。昨日、名前教えただろ?俺も名前で呼んでるんだし、アリスも名前で呼んでくれよ」
朝食を作っているので後ろは向けないが、おそらくアリスは考えているだろう。
雄馬は台所で手を動かしながら思う。
この会話が何だか新婚夫婦みたいでおかしかったが、雄馬にとっては幸せだった。
ずっと水菜と一緒でつまらなかった。
こんな毎日がずっと続けばいい、そう思っていた。
「ん。わがままな主だのぅ」
「そうか?正論だろ?」
「まぁよいわ。雄馬よ」
何だかそれがむず痒くて、少しくすぐったかった。
キリッとした顔をしながら言うので、何だかおかしくなった。
ふっ、と鼻で笑う雄馬だが、鍋を煮る音でアリスには聞こえない。
「ところで、どこの高校に行っておるのじゃ?」
「ん?この近くの市立高校だよ。北犬鳴高校」
「・・・・・・ほぅ」
何か企んでそうなアリスだ。
突然上を向きながら考え事をし始めたので、おそらく悪いことだ。
雄馬は朝食をテーブルに運んでいる最中、何度もアリスの顔をみたが、
結局何を考えているのかは謎だった。
‡
通学中も付いて来ると思っていたが、別にそんなことはなかった。
アリスはおとなしくしていると言い、何か嫌な笑みを浮かべながら二階に向かっていった。
妙な機嫌だったからあやしいのだが、まあ大丈夫だろう。
根拠はない。男の勘だ。
そう思いながら、いつもの通学路を歩いていた。
右の曲がり角と左の曲がり角に気持ち悪い視線と威圧感が存在する。
雄馬は別にどうってことなしに歩き続ける。
「雄馬おはよぅげ!」
右から来た奴に裏拳をかます。
「よっ!ゆぅ・・はまべぃ!」
左から来た奴に膝蹴りをかます。
「早朝からウザイんだよ。椎名。それに勇人」
右から襲ってきた稲森椎名と左から笑いながら襲ってきた隼町勇人。
二人は打たれた箇所をさすりながら雄馬を見た。
椎名ははにかみながら、勇人は満面の笑みを浮かべながら。
雄馬はいつもの日常に溜息を吐き、再び歩き始める。
その雄馬の後ろを二人が追いかけるように歩き出す。
「いつも酷いわね。これだから童貞は」
「それは関係ないだろ。椎名」
稲森椎名。同じ2-Eで頭のネジが五本くらい抜けている女だ。
中学から同じである椎名は、俺にとって癒やしキャラだ。
喋らなければ凛々しい。
顔立ちは美人一重で茶色い髪。
胸なんかバインバインだ。
「あ、今いやらしい目で見たでしょ」
「み、見てない」
雄馬は学校では紳士キャラを保たせている。
自分の立ち位置をしっかりさせている雄馬だ。
「雄馬よ。さっきヤバいほどの美女がいたぜ。妄想うえっへっへっえーい!」
「キモイ。触るな」
隼町勇人。同じ2-Eで妄想癖野郎&変態だ。
顔はいいのに、性格がある意味死んでる。
女子には若干嫌われ、人間としても惨めである。
駄目な人間であるのだ。
「あれぇ?俺の紹介酷くなぃ?」
「それ以上考えるな。殴りたくなるから」
「ちょ、おま、扱い酷っ!」
「うるさいよ~。勇人は黙って空気になりなさい」
「・・・・・・」
「さて、椎名、行こうか」
「そうね」
勇人は空気となった。
椎名と雄馬は通学路を歩きながら、勇人の存在を忘れてった。
‡
学校に着いてからは特にすることがなく、暇をしていた。
教室に入っても特別なことはない。
HRが始まるのもまだなので、しばらく廊下に出ていた。
一人で窓の外を眺めていると、勇人が小声で囁き始めた。
「おい。特大ビッグニュースだ」
「・・んだよ。ビッグじゃなかったら八つ裂きにするからな」
「物騒だな。今日、転校生が来るんだってよ」
「転校生?」
雄馬は眉が少し上がった。
雄馬のクラスには席は一つも空いていない。
他のクラスなんじゃないか、と思い勇人に聞く。
「ん?なにいってんだ?お前の隣に空いてる席あるだろ?」
雄馬は背筋が凍った。
今朝来たときはそんな席なかったからだ。
早めに学校に来る雄馬なので、確信している。
だが確かに、雄馬の隣は空白だ。
一番後ろの廊下側から二番目。
そこが雄馬の席だ。
おそるおそる、雄馬はクラスに入り確認する。
「・・どういうこと?」
席が存在している。
確かに、今朝はなかった。
「な、なにこのホラー映画。恐怖!」
思わず叫んだ雄馬であった。
勇人が若干ビビってる。
雄馬は願った。今日は何事も起きませんように、と。
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