可愛らしい悪魔を召喚しました。
新作です。
よかったら、楽しく読んでいってください。
ゆっくりしてってね。
一月前、父が他界した。
その所為で金の大半は無くなり、家族崩壊しそうだ。
母は仕事で神戸に転勤中。姉も仕事で夜遅い。
桂木家の状態は最悪だ。もう何もかもが嫌になりそうだ。
雄馬は現在高校生で、金の概念何てあまりない。
金が無くなったらどうとか、まったくわかっていない。
「今日も、この部屋を掃除しなきゃならないのか・・・」
雄馬は父が亡くなってから、父の部屋を掃除している。
どこかに金があるかもしれないと姉である水菜に言われたからだ。
水菜が雄馬に与えた仕事はこれであった。
雄馬は心底どうでもよかったが、家族の為なら動く男だ。
お人好しだし馬鹿だし。
そんな雄馬は父の机をこれでもかと言うぐらい探っていた。
「はぁ。どっかにお宝無いかなあ~。・・・ん?」
机に潜り、上を見上げたところに、それを見つけた。
頑丈にテープで固定されている鍵を。
開かなかった机の引き出しがあったからそれだろう。
雄馬はそれを外し、引き出しの鍵穴に差し込む。
カチッ
鍵が開いた。
「うっし。ビンゴ♪」
雄馬はそそくさと引き出しを開ける。
人一倍好奇心ある雄馬は、珍しい物にはすぐ手を出す。
ワクワクさせた雄馬が見たものは一冊の本。
表紙には魔法陣と思われる紋章が書かれている。
だが、雄馬が興味を持ったのは、引き出しの壁。
隙間無く御札が貼ってある。
そんなに危ない物なのかと思うと、手を出したくなった。
雄馬は誰もいないのを確認し、御札を剥がす。
良くわからない言葉が書かれた御札を剥がし終え、本を手に取る。
「ん?何々?『絶対に読み上げるな』?・・・・・宗教中毒乙」
分厚い本をパラパラめくるが、何も書かれていない。
父の悪戯か、と思いながらめくるのを早める。
すると、何かが書いてあるページを見つけた。
疑問に思い、そのページを見つめる。
『絶対に読み上げるな』という言葉を思い出したが、雄馬の好奇心には適わない。
雄馬は生唾を飲み込むと、小声で呟き始めた。
「来たれよ。我は汝を望む愚かな契約者なり。今ここに陣を解き放つ。偉大なる神族よ。我が元に召喚されたまえ」
読み終えた後に馬鹿らしいと感じた雄馬は、思わず溜息。
厨二病を思わせるその文章に呆れたのだ。
本を閉じ、さっさとゴミ箱に運ぶ。
刹那――
風もなく、本が急に開き始めた。
その事実に心臓が飛び出るほど驚き、思わず腰を抜かす。
「な、何だ・・・・・!?」
本は先ほどのページで止まり、宙に浮き始める。
それと同時に表紙に描いてあった魔法陣が部屋に現れる。
その色は真っ赤で、火花がパチパチとしている。
太陽の如く急に光り出したので、反射的に目を瞑る。
光が収まった後、目を開けるとそこには人の姿。
黒いドレスに漆黒の髪。殺気立った後ろ姿。
「ここはどこじゃ?」
少女のような声をしたそれは辺りを見渡す。
雄馬の存在に気付いたのか、彼の元に近寄る。
「ひっ・・・・!」
「ふむ。貴様が余を召喚したのか?」
雄馬は混乱しながら何回も頷く。
見た目が少女だったから何とかなったみたいで、雄馬は訳わからず変な質問をした。
「ま、まさかサーヴァント?」
「は?何を言っておるのじゃ?」
まさか聖杯を駆け巡る戦争に巻き込まれたのか?
とか思う雄馬であった。
しかし違うらしい。雄馬は思わず首を傾げる。
漆黒の目で睨まれる雄馬は少し怯むが、和解しようと立ち上がる。
「えーっと、名前聞いていいかな?」
雄馬より背の低い少女は、それを聞いて目を細める。
「余には名前なんてない」
「・・・へ?」
「余は自由気ままに生きる悪魔じゃ。名前には縛られたくないの」
目を点にさせる雄馬だったが、冗談ではないらしい。
だが、雄馬が最も気にしたのは違うことだ。
『悪魔』という単語に興味が沸いていた。
「君、悪魔なの?」
「・・お主、わからんで召喚したのか?」
二、三度頷く雄馬。
少女は心底呆れたように溜息を吐いた。
「まさか、こんなマヌケに召喚されたとは・・・。ま、それはそれで面白い」
「で?どうなの?悪魔なの?」
しつこく聞いてくる雄馬に悪戯心がわく少女。
からかってやろうと思い、腕に力をこめる。
雄馬はそれに気付かずにしつこく寄ってくる。
「そうじゃ。余は偉大なる悪魔じゃ。人外の中では最も強いとされる生物じゃよ?」
そう言い放つと、拳を作り壁を殴りつける。
凄まじい轟音を起こしたと思い壁を見ると、原型無く砕け散った。
その破壊力に目を見開く雄馬を見て、さぞ楽しそうに笑う。
「どうじゃ?恐ろしいじゃろう?怖いじゃろう?どうした人間」
「・・・・・・」
雄馬は少女に近付く。
手をワナワナ震わせる雄馬を見て楽しむ少女であった。
「どうした?」
「・・わ・・・いい」
「怖い・・・か・・?」
雄馬の様子がおかしいのに気付いた少女は顔を歪ませる。
雄馬から嫌なオーラがにじみ出ていたのだ。
口をひくひくさせ、今にも飛びついてきそうな態度に。
そしてついに雄馬は我慢ならなかったみたいで思い切り抱き付く。
「可愛いな!お前!」
「え、え?え?ええぇぇ~?」
少女は離さんかと言いながら逃れようとする。
「お、お主!頭大丈夫か!?」
「ゴスロリで強くて古典的な喋り方!しかも人外だって!?こりゃ抜ける!」
「お、おおお落ち着け!いや落ち着いてください!はひっ!?どこ触って・・・!ひぅ!あぅ!ご、ごめんなさ・・!」
「揉ませろ抱きつかせろもっと舐めさせろー!」
「ぎゃあああああああああああ!」
暴走した雄馬を止めるのに一時間かかったそうだ。
‡
自重した雄馬は、自室に少女を呼んで落ち着いて話すことにした。
少女はまだ顔を赤く染めていたが、とりあえずは冷静を取り戻していた。
「さて―――」
やっと本題に入るか、と思った少女は安心するように胸をなで下ろした。
乱れた服などを整えながら正座をする。
雄馬も自重したからか、正座だったので真似たのだ。
雄馬は一つ咳払いすると、口を開いた。
「君の胸はおそらくCカップだ」
「待てぃ!何で胸の話なのじゃ!何、真剣な目で話してんのじゃ!!」
ガスッと雄馬の足を蹴る少女。
「ぎゃおす!」と変な悲鳴をあげる雄馬を横目で見る。
ピクピクと痙攣した雄馬を見て、しまった、と思った。
「ゆ、許せ。そこまでするつもりはなかったんじゃ」
「・・・・・・」
返事がない。ただの屍のようだ。
「生きてるから・・・。少しは力加減をしっかりしてくれ」
「す、すまぬ」
調子に乗ったのは雄馬だが、何故か謝る少女だった。
「で?気になったんだけどさ。何で抱きしめられてるときに、力使わなかったの?Mなの?」
「そ、それは・・!主様だからじゃよ!」
しばしの間、沈黙。
雄馬はその言葉を理解するのに少し時間が掛かった。
少女は先ほどより顔を真っ赤に染めている。
この状況でこんなことを言うのは、少し危ないと感じたのだ。まあ雄馬がキョトンとしていたのが救いになっただろう。
しばらく考え込む雄馬は、一呼吸置いた後、口を開く。
「召喚の時の言葉は契約みたいなものか。だからお前は出てきた、と」
「ほぅ?頭は良いのじゃな」
「馬鹿にしないでもらいたい。結構成績良いんだぜ?」
雄馬は軽く胸を張り、鼻から一気に息を吐き出す。
その様子を見た少女は何だかおかしくなった。
さっきまで変態だったのが、こうも一変するとは。
つい鼻で笑ってしまった。
すると何かに気付いたらしい雄馬が声をあげた。
「これって矛盾してないか?」
「何がじゃ?」
「さっき、自由気ままに生きるから名前には縛られたくない、と言ったよな?」
「だから?」
嫌そうに見つめる少女。
視線が痛いのを我慢しながら言葉を続ける雄馬。
「お前が俺の主になるなら自由じゃなくなるんじゃない?現に俺のこと殺せないし」
「ぐはぁ!」
痛いとこを突かれた少女は血を吐く。
雄馬は呑気に、悪魔も血を吐くのか、と思っている。
倒れる少女を気にせずに、更に続ける。
「名前付けていいよね?何て呼べばいいかわからないし」
「お、お主・・・。変なところで頭が回るな」
「それにさ、君みたいな可愛い悪魔を放っておけないだろ?」
少女はその言葉に心臓が震えた。
今までにない温もりを感じて、思わず胸に手を置く。
まっすぐ雄馬を見つめ、目をとろんとさせる。
しかし、その瞬間には我に返り首をぶんぶんと横に振る。
「し、仕方ない主じゃな!良いわい!好きに呼ぶがよい!」
「・・・・・ツンデレ」
雄馬はぼそっと呟く。
「じゃあ、『アリス』ね」
「ありす?」
「可愛らしいだろ?君にぴったりだ」
セクハラ染みたことを言う雄馬に心奪われる少女であった。
「す、好きにするがよい」
「わかった。俺は桂木雄馬。これからよろしくな」
「・・・んむ」
こうして和解した。
雄馬とアリスの日常はここから始まる。