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2nd Mission ディアレスト  作者: 時幸空
第八章
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その6

 白い花びらが舞う。

 はなん、ふるる・・・

「旭」

 ぼんやりとしていた視界が、その声で呼び戻される。茶色の伸びすぎた髪に、次々と白い花びらが絡まっていく。紫の瞳が揺れて、瞬く。

「焔?」

 旭を抱きかかえていた焔が腕に力を込めた。ちりんと銀が鳴る。

「よかった」

 耳元で焔の掠れた声がした。額に花びらが落ちる。落ちて溶け、小さく流れた。

「冷たい。雪?」

 花ではなく、雪だった。

 小さな神社を囲む木々の間から、雪がこぼれ落ちてくる。さらさらと葉を叩く音がする。手を伸ばし、雪の結晶を受け止めた。手のひらの体温は、花びらを容赦なく溶かし、消していく。

 鳴瀬と一恵の好きな、あの桜木は、どこにもない。触れるのは、懐かしい温度。

「大丈夫か?」

 焔が腕を解く。焔を見上げる。その首に赤い筋ができていた。血が滲んでいる。

「これ」

 鎖の痕だ。引きちぎったのだろうか。指で触れてみた。まだ凝固していない血が、ぬるりと絡みついた。

「あんなもんでおれを繋げると思うなよ。半人前のくせに」

 焔が笑う。

 痛かった。自分の言葉が焔に傷を付けた。自分の行動が、一恵と鳴瀬を消した。なにもできなかった。助けることができなかった。

 大切なものを守ることさえできないほど、この身は未熟なのだ。思い知った。自分のしたことの結果を受け止めることも手に余る。胸が潰れそうだ。

「ごめんなさい」

 焔の血のついた手で、自らの顔を覆う。

「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」

 傷つけてごめんなさい。

 助けられなくてごめんなさい。

 なにもできなくて、ごめんなさい。

 焔の大きな手が背中を叩く。

「帰るぞ。太郎さんが心配してる」

 喉の奥が痛くて、声は出なかった。


(第九章その1へ続く)

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