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2nd Mission ディアレスト  作者: 時幸空
第八章
16/21

その1

「おはようございます。十二月二十九日水曜日、朝七時のニュースです」

 朝の神路屋では、誰もテレビなんて見ていなかった。

「だめですよ、太郎さん。店に出るのはまだ無理です」

「なんか身体がすごく軽いんだよ。咳も止まったしね」

「単に熱が下がっただけで、まだ風邪は治ってないんです」

「きっと昨日の鳥鍋が効いたんだね。おいしかったよね。さすが熊鞍さんの鳥だね。風邪を治す鳥!」

「あんた、おれの話、ぜんぜん聞いてませんよね」

 焔が味噌汁のお椀を配りながら、ため息をついた。旭の顔に笑みが浮かぶ。この約五百歳の妖怪、焔は、父、太郎のことを敬っているらしい。乙葉の家の中で、太郎にだけは敬語を使う。のほんとした父の面倒を、妖怪が一生懸命みている。少なくとも父の職業は妖怪にとっては、あまり嬉しくないはずだ。その構図がおかしい。

 おかしいけれど、乙葉の家ではあたりまえだった。

 ぼくにとって、たった一つの大切な家族の形だ。放したくない。絶対に。

 旭は、ちゃぶ台に隠れた手を、握り込んだ。

 背中は、痛みを通り越し、熱源となった。痣はこぶしくらいに成長していた。今もまだ黒い花を咲かせ続けている。誰にも知られたくない、知られてはならない。

「旭、今日、朝のうちに太郎さんを病院に連れて行くから、店開ける準備、頼んだぞ。中と外、掃除しといてくれ」

「うん、わかった。手のかかる父でごめんね」

「まったくだ」

「二人とも、それはひどいんじゃないかな」

「太郎さん、ここ二、三ヶ月、本の整理をずっとさぼってましたよね。あの溜まり具合は風邪で寝込んだ分にしては多すぎです。なにしてたんですか?」

「あれをたった一日で片付けちゃうなんて、さすが焔だ。すごいよね、旭」

「お父さん、ぼくにふらないで。焔が怖いから」

「焔はなんでそんなに怒ってるの?」

「太郎さん!」

「お父さん!」

 焔と旭の声がきれいに重なった。

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