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2nd Mission ディアレスト  作者: 時幸空
第七章
13/21

その2

 瞼を開けた。

 父と、人の形をした焔の顔が並んでいた。その向こうに、見慣れぬ天井が見える。

 ここは、どこだろうか。

「旭。気がついたか。よかった」

 太郎が掠れた声で笑った。桜の大樹も花びらも、春の香りもなかったけれど、暖かい空気に満ちていた。

 ああ、お父さんの家か。

 旭の身体からふっと余分な力が抜ける。

「お父さん、焔」

 やっと声が出た。

「旭、どっか痛いところは、えほっ、ごほっ」

「ほら、太郎さんは布団に戻ってください。まだ熱、引けてないんですから」

 焔が太郎に毛布を被せる。

「でも旭が」

「大丈夫ですよ。かすり傷です。心配しないで、早く寝てください。おれが付いてますから。明日には陽桜さん、来るっていってましたよ」

「え、ほんと?」

 太郎の顔に花が咲いたように明るく笑む。

「ほんとうです。だから早く、熱だけでも下げないと。それには寝るのが一番です」

「うん、わかった。旭、おまえもゆっくりお休み」

 太郎の手が旭の頭をそっと撫でた。自分の部屋へ向かう。古い家の廊下がきしきしと鳴った。店の時計も六つ、鳴った。

「なにがあった?」

 待っていたかのように、焔が問うた。その紫の瞳が静かに怒りを抱いている。

「わかんない」

「わかんないってなんだよ。ハンダク捕まえるだけで、そんなボロボロにならねえだろうが。おれを呼ぶほどのことがあったんだろ」

 地から湧いた闇の馬は、明らかに物の怪と呼ばれる類のものだ。それも、かなりの力を持っている。直感でわかった。

 あれは人を憎んでいる。

 最後に闇がぶつかってきたとき、旭の中に流れ込んできたのだ。人への強い憎しみ、ナルセサマへの希求、そして、桜の花びら。

 さっきまでみていた桜の花びらの散る夢と、関係ある気がする。

「旭。ちゃんと話せ」

「・・・ハンダクを捕まえた後、家に戻ろうとしたら、急に襲われたんだ。なにか黒いものに」

「黒いもの? ぬめっとしてたか?」

「ううん。黒くて、四つ足なんだけど、揺らいでて、よくわからない。たぶん馬かな。目が炎みたいだった」

「他に特徴は?」

「わかんないよ。追いかけられて、いきなりどつかれて、転んで、そしたら焔が来たんだ」

「本当にそれだけか?」

「嘘じゃないって」

 嘘はいっていない。けれど、本当のこともいっていない。焔が知れば、あの妖怪を容赦なく手にかけるだろう。イレブンが知れば、士によって消される。おそらくはそういう相手だ。

 だって、まだわかんないじゃないか。あいつが探してるナルセサマのことも、なぜあんなにぼくを憎んでいるのかも、桜の花びらの意味も、なにもわからない。

 だからいえない。自分で確かめるまでは、焔にだって話せない。なにが正しいか、決めるのは自分だ。焔が小さく息を吐き出した。

「わかったよ。でも、これから、ここら歩くときは注意しろ。このあたりは、妖怪が多い地方なんだ」

「確かに、東京とは違うよね」

「住みやすい土地なんだよ。豊かな地脈とか、汚されてない空気とかがまだたくさん残ってる。だから集まる。住処を追われたやつらが集まってくるんだ。昔から、ここはそういう場所だ。だからこの店がある。この店にやってくるのは、人間だけじゃない。安全な暮らしを求める妖怪たちを、案内してやる場所でもあるんだ」

「もしかして、ここ、イレブンのじゃなくて、お父さん家の?」

「そう。太郎さんの家が代々ずっと守ってきた店だ。おまえのかあちゃん家、乙葉が退治専門なら、太郎さんの家、神路は守人であり案内人を専門としてきた。神路屋は昔からここにあるんだよ」

「知らなかった」

「太郎さんも陽桜さんも、ほんとうは、おまえをイレブンに巻き込みたくねえみたいだからな」

「そうなの?」

「そうなの。だから、妖怪がらみで怪我なんてすんなよ。おれがあの二人プラスばあちゃんに殺されるぜ」

「大丈夫。気をつけるから。それよりお腹、空いたよ」

「もう夕飯の時間だな。これから支度すっから。起きられるか?」

「うん」

 起き上がろうとして、背中に痛みが走る。思わず顔を歪めるほどの痛みだ。

「どうした? どこか痛むのか? 膝とか手の擦り傷は手当したけど」

「転んだとき背中、打ったみたい」

 あの闇のものがぶつかった場所だ。痛みとともに、熱を放つ。焼けるようにひりひりと痛む。なにか変だ。

「見せてみろ」

 焔が手を伸ばし、旭のシャツを掴む。

「わっ! 大丈夫だって。それよりお風呂、入っていい? ハンダク追い掛けるのに、すごい走ったし、転んだし。あ! 忘れてた。ちゃんと捕まえたからね、ハンダク」

「わかってる。封じ本は片付けたから。風呂、沸いてるぞ。ゆっくり入ってこい。メシの準備しとくから。今日は鍋だ。うまい鳥が手に入ったんだ」

「焔が原型で狩りしてきたの?」

「違うって。猟師の熊鞍のおっちゃんが持ってきてくれたんだ。太郎さんが病気だから精を付けてくれって。野菜もくれたぞ」

「すごい、自給自足だね」

「それがここのいいところだな」

 焔がVサインを作り、台所へと向かう。旭は、背中の痛みを堪えるようにくちびるを噛みしめ、風呂場へと向かった。


(第七章その3へ続く)

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