「貴女を愛する事はない」そーですか、私も愛してないので逃亡します
3500文字です。
沢山の方に読んで頂いてありがとうございます。
誤字脱字報告下さった方、ありがとうございます。
修正しました。
少し修整しました。話の筋道に変更はありません。
「貴女を愛する事はない」
先程、結婚式を挙げ披露パーティーも終わり、さてこれから初夜というところで夫からの言葉がこれです。分かってましたけど。
「貴女の噂は色々と耳にしている。生活の最低限は保障しよう。だが、散財するほど財は無いぞ。それに男を連れ込むのも止めてもらおう」
「あーそうですか。なら三年後に離縁でお願いします」
「君は私を愛しているのではないのか?」
「は?私がいつそんな事言いました?」
「アンネッテ様は君が私を愛しているから無理に婚姻を結んだと…」
「そんな事あるわけないですよ。第一、私が貴方と会ったのは今日が初めてですよ」
「それでは君は…」
「王命ですからね。仕方ないですよ。でも、三年の我慢ですね。では私は自室に戻らせて頂きます」
「しかし、今夜は…」
「愛する事はないとか言っておいて、ちゃっかり初夜だけしようとか思ってません?厚かましい!」
「いっいや、そんな」
「では、三年後にお会いしましょう」
呆けた顔の旦那様を放置して寝室を出る。自室に戻り鍵をしっかり掛けた。
実は私は転生者なのだ。物心付く頃に前世の記憶が戻り、この世界が昔読んだ小説『花が咲き誇る丘で』の世界だとすぐに気がついた。
王女として生まれながら、幼少期を虐げられて育ち、結婚すれば幸せになれると思ったら、夫になった人は異母姉に思いを寄せている人だった。
夫は異母姉の流した噂に惑わされて『貴女を愛する事はない』と言いながら初夜で私をぞんざいに扱い、乙女であった事を知って気まずさからか、それ以降は私に関わろうとしなかった。
そんな事をされても屋敷の皆と心を通わせ、領民の為に尽くす私を見て、夫は心を入れ替え私を愛するようになる。
『あの時はすまなかった。噂に惑わされた私が馬鹿だったのだ。貴女はそんな人ではなかった。これからは貴女を愛し大切にする』
夫の差し出す花束を受け取り謝罪を受け入れて心を通わせる。やっと本当の幸せが訪れた…って。
小説を読んだ時に思った『無いわ〜長年、放置しておいて今更、愛してる?こんな男は無理!』と。
私は、その主人公サフィニア・スタインに転生してしまった。スタイン王国の第四王女ではあるけれど側妃の娘という事で正妃の子供達から虐められてきた。
前世、アラフォーで生涯を終わったと思われる私が子供のいじめ程度で、へこたれる訳が無い。だから、思いっ切り仕返ししてやったわ。
そうすると私をヤバいヤツ認識したのか、ちょっかいを掛けてくる兄姉はいなくなった。
私の母親はその美貌で王からの寵愛を受け側妃になった人だったが、病弱な人だったので私が十三歳の時に儚くなってしまった。父は、いくら母に似ていようとも娘の私には興味が無く放置である。
それを良い事に王妃は母譲りの美貌を持つ私を疎ましく思い、色々な嫌がらせをしてきた。食事を抜かれる、世話をされなくなる、使用人は付かない。
そんなもの中身アラフォーの私にはどうって事ないのだ。食事に関しては毒なんて入れられたら堪らないので無くて良かったわ。
髪を染め前髪で顔を隠し眼鏡を掛け、そばかすの化粧をして使用人に紛れた。そうすればご飯は食べられる。
「働かざる者食うべからず、だものね」
他の平民のメイドに交じり、サーシャと名乗って働いていたら、侍女長に気に入られ侍女に格上げされた。偶に城の外にお使いに出る事もあったので、平民の信頼出来る友人も出来た。
お使いから帰った際に、クレソン・ジェイルとすれ違った事があった。そう彼が後の私の夫だ。戦で武功を挙げて報奨の一つとして私が下賜されるのだ。
「お疲れ様です」
そう声を掛けて通り過ぎようとしたら呼び止められた。
「見ない顔だな」
「最近入ったばかりですので。何か?」
「いや、すまない。警備の一環だと思って欲しい」
「もう行っていいですか?」
「ああ、行っていい」
関わらない方が無難。さっさとその場から走り去る。城内でクレソンと度々遭遇する事があったが、私がサフィニア王女だと気づかれる事はなかった。
それから数年後、戦は起こったがクレソンの活躍もあり早々に終結する。
クレソンは伯爵家の次男だったが、今回の働きにより伯爵位を賜り王女の一人を娶ることになった。クレソンはアンネッテを望んだらしいが、何故か私がクレソンに好意を持っているから是非にサフィニアを娶ってやってくれとなったらしい。
そんな事、ひと言も言ったこと無いのになぜ?
それには一つ上の異母姉アンネッテが絡んでいる。私の悪評を流し続けてくれた姉である。
やれ身分を笠に着て男を取っ替え引っ替えしているとか、婚姻前に未通娘で無いとか、散財が酷くて国庫を圧迫してるとか。全部姉のやってる事でしょうが。
後宮に引きこもってる事になってて、デビュタントも忘れられ夜会にも出た事無いのに、どうやって男性と知り合えと?
姉はクレソンの見た目が気に入らず爵位も伯爵なので、それが不満で彼を鬱陶しく思っていたらしい。
目の上のたんこぶの私をクレソンに押し付ける事で姉は二人同時に厄介払いをしようと企んだみたいだ。
そして、私はクレソンと結婚式を挙げ、初夜の場で『貴女を愛する事はない』なのである。
私だって噂を信じて私自身を見ず、見下してくるような男は御免だ。
さっさと自室に戻った私は髪を染め、眼鏡とそばかすメイクをして屋敷を抜け出した。侍女をやっていた時に出来た平民の友人を訪ねる為だ。
「やあサーシャ、久しぶり」
「久しぶりオーレン」
「どうしたのさ、こんな時間に」
「あー実は結婚したんだけどさ、夫から『愛する事はない』を言われちゃったから例のアレ、実行したいんだ」
「話を聞いた時はそんな事ある筈はないと思ってたんだけどなあ」
「それがあったのよ」
「馬鹿な旦那だよな。サーシャと結婚出来たのにそれを棒に振るなんてさ」
「そんな事はどうでも良いのよ」
「はいはい、じゃあこれ仮死状態になる薬。信頼できる魔女の秘薬だから安心して」
「ありがとう。後はちゃんと埋められた私を助け出してね」
「任せとけ。その後は国外逃亡だな。行きたい国はあるか?」
「それはオーレンに任せるわ」
「じゃあ俺の故郷に一緒に行かないか?」
「いいわね!そうしましょう」
オーレンに別れを告げて屋敷に戻る。
「三年も待つつもりは無いのよね。さっさとこんな国を出て自由になりたいわ」
仮死状態になって墓に埋められた私をオーレンが助けてくれる事になっている。そして二人で国を出るのだ。
屋敷に戻った私は遺書を書き残してから魔女の秘薬を飲んだ。
姉に身に覚えの無い悪評を流され続け、結婚した夫に愛する事はないと告げられ、生きている事が辛くなったから死を選ぶと。
翌朝、私の様子を見に来たメイドに冷たくなった私が発見された。遺書を読んだクレソンは涙してたらしいけど、好きなだけ後悔して下さいな。
医師からも死亡が確認され、しめやかに葬儀が執り行われた。
クレソンは私の噂の真偽をアンネッテに問い詰め全て嘘だった事が分かり、それを国王に報告し自分も罰を受けるがアンネッテにも罰をと望んだって。
結果、アンネッテはクレソンの元に嫁ぐ事になった。これは罰になるんだろうか?まあ、嫌ってた男に嫁がされるんだから罰かなあ?
クレソンは嫌がったらしいけど、元々はアンネッテを望んでたんだし二人で私の冥福を祈れって事らしい。
まあ、クレソンも根は悪人じゃ無いんだろうけど今更だよね。
目を覚ました時、目の前にあったのはオーレンの顔だった。
「信じてたけどサーシャが生き返るのを見るまでは心配だった」
「ありがとう。助けてくれて」
「これで、サフィニアは死んで平民のサーシャになったんだな。後悔はないのか?」
「無い無い。さっさとこの国を出ちゃいましょうよ」
髪を染め、いつものメイクをしてサーシャになってオーレンと夫婦のフリをして国境を無事通り抜ける事が出来た。
「オーレンの故郷ってどこなの?」
「もう少し先、馬車で三日位かな」
「そう、オーレンは何年ぶりに帰るの?」
「五年…かな?」
「お父さんやお母さんに早く会いたいでしょ?」
「まあ、それはそれほどでも。ただ、サーシャを連れて帰ったら大騒ぎになるよ」
「何故?」
「五年前、家を飛び出した息子が嫁を連れて帰って来たって…」
「私達、そんな関係じゃ…」
「俺はサーシャの事、好きだよ」
「本気?」
「でなけりゃ、サーシャの逃亡に手を貸さないよ。上手く行けばサーシャが手に入るかもって下心があったからさ」
「知らなかった。ごめん、オーレン」
「それは何のごめん?」
「貴方の気持ちに気付いてなかったから」
「じゃあ、サーシャは俺の事をどう思ってる?」
「…多分、好きなんだとは思う」
「嫌いじゃなきゃいいよ。これから好きになって貰うから」
「そうね。全てはこれから」
自由になったんだから、これから何をしよう。何か商売でもしてみようか?
オーレンとの未来を考えるのもいい。
全てはここからだ。
fin
最後まで読んで頂きありがとうございます。
思った以上に仕事がキツくて、毎週投稿するのは厳しいかもしれません。
出来る限り頑張りますので、偶に覗きに来てやって下さい。




