闇人族たちの娘
長い話が続いてすみませんでした…!
――翌朝。
闇人族の野営地の中央広場には、朝からざわめきと活気が満ちていた。
隅に立つエルザの頭には、まだ飛べない白綿鳥のナーがとまり、「ピルル」と愛らしい声で鳴きながら、周囲をきょろきょろと珍しそうに見渡していた。その様子は、昨夜の重く冷たい地下の空気をすっかり忘れさせてくれるようだった。
やがて、集落の皆の前に立ったゼラが、よく通る声で告げた。
「皆、聞いてくれ。今日から森人族の里へ出入りをすることを許可された。例年通り、人間達と諍い等を起こすことなく過ごすように」
その言葉に、集まった闇人族たちは「おおっ!」「待ってました!」と歓声を上げる。
深い大森林の奥で、自然の恵みのみで暮らしを営む彼らにとって、森人族の里に集まる『人間たちの交易品』を手に取れる機会は、何にも代えがたい刺激だった。
外の世界から持ち込まれる未知の香辛料の香り、森では見ることのない瓶詰の加工食品、精巧に作られた金属製の道具、そして何より、森の果実酒とは一味違う珍しい酒の数々――。それらを見聞きし、手に入れることは、彼らの穏やかな日々に彩りを与えてくれる、祭りのような一大娯楽なのである。
ゼラは片手を上げて皆の興奮を少し静めると、傍らに立つエルザへと優しく視線を向けた。
「そしてもう一つ。……エルザ、お前の口から皆に伝えてやれ」
「……はい」
背中を押され、エルザは一歩前へ出る。闇人族達の温かい視線が、一斉に彼女へと注がれた。
エルザは小さく息を吸い込み、頭のナーが励ますように「ピピ」と鳴くのを聞きながら、闇人族の一団を見渡す。
「……私、森の外にでます。自分が何者なのか、自分の目で見て、知るために」
静かな、けれど芯のある決意の言葉。
一瞬、広場が水を打ったように静まり返った。
「……外に、って。人間の国へ行くのか?」
「本気か、エルザ。いくらなんでも危なすぎる……!」
返ってきたのは、戸惑いと心配の入り混じったざわめきだった。無理もない。彼らにとってエルザは、十五年間、皆で育て守ってきた愛すべき娘であり、妹なのだから。危険な外の世界へ送り出すことへの不安が、広場の空気を重くする。
しかし、そのざわめきを遮るように、恰幅のいい一人の闇人族、ガランがぽりぽりと頭を掻いた。
「……ったく。エルザ! 族長が止めてねぇってことは、了承は得てるんだよな?」
「え……? ……はい」
「なら、俺たちがごちゃごちゃ言ったって始まらねぇな! あの泣き虫だったエルザが、自分の目で外を見たいって言うんだからよ!」
その言葉を皮切りに、重かった空気が少しずつ解けていく。
「そうか、そうだな! 寂しくなるじゃねぇか、バカヤロウ」
「外で人間に騙されるんじゃないぞ、エルザ!」
「帰ってきたら、土産話たっぷり聞かせてちょうだいね」
次々と駆け寄ってきた大人たちに、わしゃわしゃと手荒く頭を撫でられ、背中をバンバンと叩かれる。痛いくらいだが、たまらなく温かい祝福だった。
「みんな……っ、ありがとう……!」
エルザの瞳から、ポロポロと嬉し涙がこぼれ落ちた。頭の上のナーも同調するようにパタパタと 羽ばたき、「ピッ!」と甲高く鳴いた。
「よし、しんみりするのはここまでだ! 今日からエルフの里に行けるんだ、今夜は盛大に送り出しの宴の準備だな!」
「おうっ!」
誰かのその威勢の良い声で、大人たちは涙ぐむエルザに何度も振り返りながらも、賑やかに里への出入りの準備へと散っていく。
その嵐のような波が引いていく中、その場に残されたエルザの元へ、見知った二つの影が勢いよく駆け寄ってきた。
「「エルザ!(さん)」」
息を切らしたグエンと、キラキラと目を輝かせたウ=トトだった。
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