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『Awakening of the War Dead』眠りから目覚めた若者たち…

太陽も登らない未明…

戦慄の発見から時を遡る事30分前…

04:00

九州南西海域:

『…い…おい…おい! 起きろッ!佐々木!』

周囲のざわめく騒音…そして何より…彼を呼ぶ懐かしい声で意識を取り戻した…

彼が最後に覚えていたのは、灼熱のニューギニア・サラモアの泥濘の感触と、追いかけてくるオーストラリア軍の銃声、そしてマラリアと飢餓に蝕まれ、歩けずに斃れ…一人寂しく熱帯雨林の片隅に眠りについた事…だが、いま彼の指先に触れるのは湿った甲板の木の感触。香るのは自身の体臭や熱帯雨林の木々の匂いではなく、懐かしい重油の匂い、そして強烈な潮の香りだった。挿絵(By みてみん)


自分を呼ぶ声に慌てて目を開けた瞬間、

『お前は、う…うっ….や…やまうち…山内…!』

今となっては懐かしい友の顔に動揺しつつ涙が溢れます…

「ごめん…うっ…ごめん…! アンタら傷病兵を置いて行くような形で死なせてしまって…ごめんなさい…!堪忍してくれ…! そして……ありがとう…アンタらが、その身体で敵を食い止めたから俺たちは撤退でき、生きながらえたんだ…!」


「まぁ…気にすんな…!『残って食い止める…』と言ったのは俺たちなんだ…アンタらが撤退できたんなら…それで満足だ…!皆んなが居るであろう九段に行こう…!』


佐々木が涙で滲む目で辺りを見渡すと、視界に飛び込んできたのは、ひしめき合うカーキ色や白色の背中だった。

「……う、うわっ!?」

佐々木は驚いて立ち上がろうとするが、身動きが取れない。船倉の隅から隅まで、一分の隙間もなく兵士たちが詰め込まれている。まさに**「押しくらまんじゅう」**状態だ。艦内だけでなく、通風孔から見える甲板の上まで、人、人、人で埋め尽くされている。

「おい、押すな! 誰だお前は!」


「……え、嘘だろ。お前、田中か!? サラワケット越えで谷に落ちたはずの……」


「生きてる……俺、生きてるぞ! 腕がある! 足も動く!」


「ダンピールの海に投げ出されたのに…何でこんなトコに…w 」

あちこちで上がる悲鳴のような歓喜。そこには、ニューギニアの地で飢え死にしたはずの戦友や、辿り着く事もできず、ダンピールの海峡で船もろとも沈んだはずの将兵が、当時のままの軍装、当時のままの若さで、戦地に向かっていた最中のように傷一つない姿で座り込んでいた。


混乱は、瞬く間に「自分たちが置かれた状況」への疑念へと変わっていく。

「此処は何処だ……。三途の川かなw それともまだダンピールか?」


18歳頃の学徒兵が、震える手で隣の兵士の肩を掴んだ。

「自分は確かに、ニューギニアのバサプアの山中で飢えと病に倒れました。あそこは地獄でした。……もしや、これがやっぱり三途の川というやつでしょうか……。」

「さっき…船舶兵が舵も減速も出来ず…制御不能なんじゃと叫んでおった…ついて来る他の船も駆逐艦も同じようじゃのう…ワシら全員天に召されたんじゃろうか…」と若年兵が言うと…

「やっぱりウチらは、死んじまったのか……。」

他の若年兵の一人が、顔を覆ってむせび泣く。


すると…「……靖國に向かっているんかねw 皆で約束したもんな、九段の桜の下で会おうって。」と伍長が笑みを浮かべる…

その言葉に、周囲の空気が一瞬だけ和らぐ。だが、船窓から見える太陽も登っていない海のあまりの暗さに、誰かが怯えた声を漏らした。

「……余りにも、暗すぎるよ。星も月も見えねえ。制御も出来ないって俺たち、靖國じゃなくて地獄に堕ちちまったんかな……。」

彼らは、歓喜や感動、不安、謝罪などの声を上げながら、生の実感を得ていた。

「魂だけでも、内地に帰れるなら満足だよ…!」


それは…隣や後を航行する艦でも同じだった…サイパンやレイテ、ルソン…… 乗る艦によって散った場所は違えど… それぞれ全く制御出来ず、行先も分からない艦の上で懐かしい友との再会を噛み締めて涙を流して歓喜していた…


誰かがポツリと呟いた。「自分たちは……野垂れ死んで…皇国を…日本を護れたんだろうか… お袋たちは、末永く幸せに生きられただろうか。……それだけが気がかりだ。 自分たちの死は、果たして無駄じゃなかったんだろうか…」と…


夥しい人数が言葉を聞いていたが…その言葉に答える者は居なかった…


すると・・・


『て…てっ…敵機来襲ッ〜! 敵機来襲ッ〜!』

双眼鏡を持つ陸軍船舶兵の叫びが響き渡る…


甲板上の将兵は慌てて屈んだり、動こうとし…沢山の若者が怒号や悲鳴からひしめき合った…

蒸し暑い艦内に至っては夥しい人数の阿鼻叫喚となった…


陸軍船舶兵は『敵機ッ! 上空約三五〇ッ! B17爆撃機ッ! いやっ…味方…日の丸だ…味方だぞっ! 友軍機だッ!』と叫び…


『何だアレはッ!四発…大艇じゃないぞ…初めて見た…新型機かッ?』と言い甲板上の将兵たちは指を指した…


こうして…世界の終焉を前に、過去と現代が接触しようとしていた…





・ニューギニア…

南洋に位置し、オーストラリア本島の目と鼻の先の島である。ココダ、ブナ、バサプアなどの地域を主に激戦が繰り広げられた…当時『死んでも帰れぬニューギニア』と日本兵の間で恐れられた…


・ダンピール海峡…

ニューギニア島に向かう道中のビスマルク海の海峡…その海域で起こった日本軍とアメリカ&オーストラリア軍による海戦。航空部隊の攻撃をうけてニューギニア増援の日本軍輸送船団が壊滅…『ダンピールの悲劇』と呼ばれる…


・陸軍船舶兵…

輸送船や上陸用舟艇を扱う日本陸軍の兵科に属する陸軍兵…


・九段…

千代田区九段の事

日本軍戦没者が祀られる靖國神社が位置する為、『靖國神社…靖國の桜の下』という意味と同じ…


・大艇

日本海軍の四発飛行艇…二式大艇の事…


・P-3c

気象観測や用途は様々で、日本では海上自衛隊が運用する哨戒機…

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