結奈瑞穂宅へ
三十分ほどの乗車の後、同じバス停で降りた。
瑞穂を彼女の自宅まで送ることにした。
「そんなに心配しなくてもいいよ」
「昼は家に誰もいねえんだ。昼飯食うぞ」
ぶっきらぼうな彼の返答に、彼女は困ったような表情を浮かべる。家に来ることが嫌なわけでも、昼食の準備をすることが苦手だとか億劫だとかといったわけではなかった。高校に入ってから、彼女には千宙がすっかり変わっていくように見えていた。それは言葉遣いにも現れていた。人は変化する。思春期ともあれば外部環境から多大な影響を受ける。気づいていないだけで自分もそうかもしれないと、瑞穂には自覚があった。けれども、彼女は今の千宙が良い意味での変化を遂げていないことが、自分の体調よりも気がかりであった。小中学校の時のような前向きで、アクティブで、周りを元気にするような、そんな彼が鳴りを潜めてしまったことが残念で仕方なかった。けれども、何とかしてそれを取り戻そうというのは、彼女のある意味での我儘であり、他者が強引に元に戻そうとするのも、どこかに歪を生んでしまいそうでためらわれた。だから、願うしかなかったのだ。塚本千宙が元気になりますようにと。