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【ローファンタジー】 『ありふれた怪異、街の名物』

口うるさい老婆

作者: 小雨川蛙

 

 私は昔、おばあちゃんから口を酸っぱくして言われたものだ。

『いいかい? 物を大切にすることは良いことだ。しかしだ。ダメになったら必ず捨てるんだ。わかったね?』

 そんな風に言われて育ったから、私は物が壊れたらすぐに捨てるようにしている。

 他の人から見ると驚かれる。

「ええ!? 捨てちゃうの!?」

「あんなに大切に使っていたのに!」

 私は誰よりも大切に取り扱っている自信がある。

 そんな私だが、捨てる時は本当にあっさりと捨ててしまう。

 誰かに貰った品であろうとも、毎日のように手入れしていようとも、十数年以上も愛用していようとも……。

 私はもう使えないと判断したら必ず捨てる。

 出会って来た人の中にはもう使えなくなった物でも捨てずに記念に取っておく人とかもいるらしいけれど、私はそんな未練がましいことはせずに捨てる。

 それが最良だと誰よりも理解しているからだ。


「ただいま」

「あぁ、おかえり」

 家に帰るとおばあちゃんが返事をしてくれる。

 声のした方を見ると一本の竹箒がふわふわと浮きながらやってくる。

「あんた、その靴。そろそろ捨てちゃった方が良くない?」

 竹箒……もといおばあちゃんがそう尋ねてきたので私は答える。

「おばあちゃんもそう思う? もう少し使える気もするんだけど……」

「捨てちゃいなさい! 捨てる理由を考え始めているのは良くないことだよ!」

 おばあちゃんの言葉はいつだって強い説得力がある。

「もし、そのまま大切にし続けて化け物になっちまったらどうするんだ」

「おばあちゃんみたいな?」

 私がおどけて笑うとおばあちゃんが私の頭を柄でぽかりと殴った。

「分かったらとっとと捨てる!」

「はいはい……」


 私がおばあちゃんと呼ぶこの竹箒は私のお婆さんのお婆さんのそのまたお婆さんの……とにかく、すごい昔から使われていたものだ。

 私の家は昔から物を大切にしていたせいで何年も、何年も、何年もこの竹箒を使いづづけていた結果、いつの間にか妖になってしまっていたらしい。

 命が宿るほどに使い続けられていた。

 そのことはきっと素晴らしくて、それにもしかしたら誇らしいことなのかもしれない。

 けれど、他ならぬおばあちゃん自身が言った。

「この貧乏性どもが! いつまでもこんなもの大切に使っているから、あんたらはいつまでも貧乏なんだよ!」

 以来、私の家系は物をしっかり捨てるようになったのだ。

 おばあちゃんは古い物を捨てれば運気が上がるだのなんだのと言っているけれど……どれくらい効果があったのかは分からない。


 今まで使っていた靴をしげしげと見つめる。

「そんだけ使ってもらえればこの子も本望だろうさ」

 おばあちゃんの言葉に私は頷く。

「今度、靴供養に行って来るよ」

「あぁ、それがいい。下手に命が宿っちまったら供養なんて出来ないからね」

 その言葉に対して私はいつも言葉に詰まる。

 いや、私だけじゃない。

 私のお婆さんのお婆さんのそのまたお婆さん達もきっと……。

「おばあちゃん。あとでお掃除手伝ってよ」

「はいはい。だけど、その前にこの子を綺麗にしてあげな。お礼を言いながらね」

「うん」

 私が微笑むとおばあちゃんもからからと笑った。


 おばあちゃんのおかげで私は今日も物を大切に使い、大切に送りだすことが出来ている。


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― 新着の感想 ―
長きに渡り、品を大事にしていますと、その品は『つくも神様』に変わると昔から云われています。 きっと作者様の使われた品は『つくも神様』の姿となって、天国へと行くんでしょうね。
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