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第77話 美少女後輩マネージャーに絡んでいたナンパを撃退した

 香奈(かな)がナンパされていると見るや、(たくみ)はその元に駆け戻った。

 彼女を背に隠し、


「彼女に何か用ですか?」

「ん? 何こいつ。君の彼氏?」


(どうしようか——)


「そ、そうです!」


 巧が彼氏のフリをするべきか否かと考えているうちに、香奈が肯定を返した。


「へぇ……」


 男たちは巧を不躾(ぶしつけ)にジロジロと眺め、鼻で笑った。


「本当にこれが君の彼氏? 髪の毛も軽くセットしただけで、全然イけてないじゃん」

「つーかそもそも浴衣も着てないとかやばすぎるっしょ」

「それな。明らかに君と釣り合ってなくない? あっ、もしかしてこう見えて結構な金持ちだったり?」

「うわ、それあるわ〜」

「つーかそうでもなきゃおかしいだろっ」

「それな!」

「「「ギャハハハハ!」」」


 男たちが一斉に下品な笑い声を上げた。


「なっ……! あんたらなんか——むぐっ」


 巧は香奈の口を塞いだ。


(多分、結構粘着質なやつらだな……仕方ない)


「香奈、ちょっと失礼」

「っ……⁉︎」


 巧は香奈の耳元でそう(ささや)いてから、その肩を抱いた。

 彼女の動揺が密着している体を通して伝わってくるが、ナンパを撃退するためには致し方ない。


「もう一度聞きますけど、僕の彼女に何の用ですか?」

「はぅ……!」


 香奈は小さなうめき声をあげた。

 巧としてはあくまでカップルっぽい所作をすれば諦めるんじゃないかという思惑だったし、彼女もそれは理解していたが、


(ぼ、僕の彼女って、僕の彼女って……!)


 たとえその場しのぎの演技だったとしても、肩を抱かれてそんなことを言われてしまえば、恋する乙女心が暴れ出さないはずがなかった。


(た、巧先輩の温もりと匂いっ……あっ、これやばい……!)


 香奈の胸の内は幸福感で溢れた。下腹部のあたりがうずく。


(あぁもう、私死んでもいいわ……)


 彼女が動揺しつつも幸福の絶頂にいることは、表情にはっきりと表れていた。

 ナンパ男たちに隙のない視線を向けている巧は気づいていなかったが、二人と対峙している男たちからは当然見えていた。


 ——その証拠に、彼らの表情は一様に歪んでいた。


(なんであんな男に……!)


 自分たちのほうがイけていると思っている男たちは、香奈が巧に惚れているという事実に動揺し、ほぞを噛み、腹を立てていた。

 しかし、それを素直に表現することはプライドが許さなかった。

 彼らは笑みを浮かべ、心に余裕があることをアピールした。


「おいおい。肩とか抱いちゃって、取られまいと必死じゃん!」

「手を離したらこっち来ちゃうかもしんないもんなぁ。怖いよなぁ?」

「月いくら渡してんの? それとも時給?」

「いや、分単位じゃねえの?」

「「「ギャハハハハ!」」」


 彼らは再び巧をバカにして、優位を取ろうとした。


「……はあ」


 会話の通じなさに、巧は思わずため息を漏らしてしまった。


 ——自分より下だと信じている相手に呆れたように嘆息をされて虚勢の笑顔を浮かべ続けられるほど、男たちの器は大きくなかった。


「……あっ、何?」

「舐めてんのお前?」


 男たちが巧に詰め寄る。


武岡(たけおか)先輩のほうがよっぽど怖かったなぁ)


 相手は複数人であり、身長も巧より下はいないが、百八十センチ越えのマッチョを前にするよりプレッシャーは少ない。


(というか、なんで絡んできているほうが勝手に怒ってるんだ)


 巧は再びため息が漏れそうになるのを堪えながら、努めて冷静な口調で、


「ナンパ自体は別に否定しませんけど、彼氏がいるってわかったならさっさと引いたらどうですか?」

「……はーん、君そういう感じ?」

「そうだと思ったわ〜!」

「たまにいるよねぇ、こういう頭の中お花畑のやつっ!」


 男たちが再び嘲笑(ちょうしょう)を浮かべた。


「あのさぁ、恋愛って早い者勝ちじゃねえのよ。今の彼氏よりも魅力的な男が現れたら、女はすぐそっちに乗り換えるんだぜ?」

「へぇ」


 巧は口元を緩めた。彼は香奈を抱く手に力を込めた。


「なら、君たちは僕より魅力的なじゃないみたいだね——少なくとも彼女からすれば」

「なっ……!」


 思わぬ反撃に遭い、男たちは言葉を詰まらせた。

 巧は頭の片隅では「もっと冷静にならなきゃ」と思ったが、言葉を止められなかった。


「たしかに君たちは僕よりずっとオシャレだし、色々努力もしてるんだろうけど、この状況見たら可能性がないのはわかるでしょ。さっさと他当たったほうが賢明じゃない? 君たちに魅力を感じる子もきっとどこかにいるだろうし、結構な注目集めてるよ?」

「っ……!」


 巧に言われて初めて、男たちは周囲に野次馬が集まり出していることに気づいた。

 余裕があるように見せても、本当は周りに気を配る心のゆとりすらなかったことの証明だった。


「ねぇ、見てあの顔」

(みにく)いよな、さっさと諦めればいいのに」

「邪魔してやるなよ」


 野次馬のほとんどが、男たちに厳しい視線を向けていた。


「「「っ……!」」」


 香奈のような絶世の美女が自分たちよりも巧みを選んでいるという現実に、男たちはプライドを傷つけられて怒り心頭だったが、かといって大勢の人間から敵視されているという状況に耐えられるほどの精神力も持ち合わせていなかった。


「……くそがっ!」

「物好きもいたもんだなっ」


 男たちは捨て台詞を残して走り去った。


「ふぅ……ごめん、とっさに——香奈?」


 巧が肩に回していた手を離そうとすると、香奈がその手を腕で抱きかかえた。まるで、子供が宝物を取られまいとするように。


「こ、こうしていればもう絡まれることもないかなって……ダメ、ですか?」

「……全然ダメじゃないよ」


 香奈のような美少女にすがるように見上げられて、断れる男はいないだろう。

 それに、彼女は怖い思いも嫌な思いもしたはずだ。

 

(そりゃ、あんなのに絡まれたら不安にもなるよね)


 自分が多少居心地の悪い思いをする程度で彼女の心と体の平穏が保たれるなら、我慢するべきだろう。


(学校の人に見られて噂になったりしたら、名前で呼び合ってることがバレるよりもはるかに面倒になるだろうけど……まあ、そのときはそのときか)


 巧は不確定な未来よりも今を優先した。

 自他ともに認める計画性のある性格の彼にとって、その選択は少し不自然とも言えるものだった。

 ——巧自身は、そのことに気づいてはいなかったが。


「ありがとうございますっ!」


 香奈が笑みを浮かべ、手に力を込めた。

 その分、巧が腕に感じる弾力の感触も強くなる。


(こ、これはやばいなっ……)


 巧は内心で焦った。

 しかし、今さらやっぱりこの格好はやめようなどと言い出せるはずもないし、指摘するのもなんだか躊躇われた。

 ——香奈が安心と幸福が同居したような邪気のない笑みを浮かべていたなら、なおさら。


「い、行こっか」


 彼女の顔を見ていると変な気持ちになりそうだったので、巧は視線を前に向けて歩き出した。

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