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第71話 美少女後輩マネージャーがクラスメートに絡まれていた

 (たくみ)は、以前玲子(れいこ)と偶然出会ったショッピングモールに来ていた。


(そういえば、ここで偶然出会ってからデートしたりしたんだよね……)


 あのころは、まさか彼女が自分のことを好きだなんて考えてもいなかった。

 あくまで話の合う後輩として誘ってくれているだけだろうと思っていた。


 告白を受けて以降、巧は少し恋愛についてネットで調べてみた。

 鵜呑(うの)みにするわけにはいかないが、女性は普通、ある程度は恋愛対象として見ている男性でなければ二人きりのお出かけには誘わない、という意見が大半だった。


(っていうことは、しょっちゅう家にきてる香奈(かな)は、やっぱりそういうことなのかな……)


 などと考えていたから、というわけではないだろうが、視界にふと見覚えのある光沢を放つ赤髪が映った。

 想像通り、香奈だった。


「し——」


 声をかけようとして、巧は思いとどまった。

 彼女が少年三人と話していることに気づいたからだ。その胸元には咲麗(しょうれい)高校野球部、という刺繍(ししゅう)があった。


 おそらくはクラスメートだろうと判断し、巧は(きびす)を返そうとした。

 実際に足を踏み出すより早く、香奈が彼に気づいた。


「あっ、先輩〜!」


 香奈は今の今まで話していた少年たちを放り出し、まるでご主人を見つけた犬のように駆け寄ってきた。

 その表情は嬉しそうでもあり、どこか安堵しているようにも見えた。

 もしかしたら言い寄られて困っていたのかな、と巧は推測した。


「お疲れ様です!」

「お疲れ、白雪(しらゆき)さん。買い物中?」

「ご明察でござりまする」

「いつもありがとね」

「いえいえ、これが仕事ですからっ」


 香奈が笑顔でグッと握り拳を作った。

 その無邪気な所作に、放置されて呆然としていた少年たちのみならず、ただの通行人までもが頬を赤くした。


 相変わらず破壊力抜群の無自覚範囲攻撃だ。

 ゲームだったらチート扱いだろう。


「ところで先輩。このあと時間余ってたりします?」

「余ってるよ。消耗品を買い足しに来ただけだし」

「やったぁ! じゃあじゃあ、ドリンク買うの手伝ってもらえませんか? 選手の意見も聞きたくて」

「いいけど……彼らはいいの?」


 巧はチラッと少年たちに視線を向けた。


 彼らはきっと、香奈と一緒にいたくて声をかけたのだろう。

 事実、巧に嫉妬の視線を向けてきていた。


 気づいているのかいないのか、香奈は笑顔のままうなずいた。


「はい、偶然会っただけですから。じゃあ、また学校でね」

「あ、あぁ」


 少年たちはなんとかして口を挟もうとしていたが、香奈に一方的に別れを告げられてしまえば、なす術はない。

 彼らにできることは、「行きましょう先輩!」と巧の手を引いて歩き出す香奈の背中を、唇を噛みながら見送ることだけだった。


 角を曲がるときにちらりと視線だけで後方を確認してから、巧は香奈の荷物に手を伸ばした。


「さすがに重たいでしょ。持つよ」

「いえ、大丈夫ですよ。私、こう見えて結構力持ちですから」

「力こぶはほとんどないのに?」

「後でヘッドロック脇こちょこちょをお見舞いしてあげましょう」

「冗談だよ。試合前とかは、いつもたくさん持ってもらってるからさ。こういうときくらいは頼ってよ」

「……その言い方はずるいです」


 香奈が唇を尖らせた。


「じゃあ、私が荷物を持つので、先輩は私を持ってもらっていいですか?」

「何その役割分担。僕の負担でかくない?」


 くすくす笑って、香奈が「お願いします」と荷物の半分を差し出した。


「うん。ところで彼らはクラスメート?」


 彼らとはもちろん、香奈に話しかけていた少年たちだ。


「クラスの野球部です」


 ぶっきらぼうな返答だった。


「よかったの? あしらっちゃって」

「いいんです。偶然会っただけなのに、一緒に買い物しようぜとか言われてムカついていたので。一回断っても『荷物なら持つよ』とか『私服選ぶときに女子の意見も聞きたい』とか、狙いが見え見えだっつーの。こっちは一ミリもあんたらの私服なんか興味ねえわって話ですよ……あぁ、すみません。愚痴っちゃって」


 香奈が頭を掻いてチロっと舌を出した。


「全然いいけど、なかなかご立腹だね」

「だって、別に普段から仲良くもしてないんですよ? 声をかけてくるだけならいいですけど、一回断られたら素直に諦めろって話じゃないですか?」

「まあ、それだけ白雪さんと一緒に過ごしたかったってことじゃない?」

「はあ……美人は辛いです」


 香奈が大袈裟に肩をすくめた。

 わざとらしい所作すらも様になっている。紛れもなく美人だからこそだ。


「ワン長ワン短だね」

「ワンタン……? あっ、一長一短か。先輩、私の技をコピーするとはやるじゃないですか。ワンタン食べたいですね」

「たしかに」

「たまにはお互いの家じゃなくて、外食とかにします?」

「いいかもね。たまにならそこまでお財布も傷まないし、手間もかからないから」

「学校始まったら今より忙しいでしょうし、あそことかいいかもしれませんよ? マンションの近所の——」


 などと話しながら、二人は目的のお店に入って行った。




◇ ◇ ◇




 香奈と巧は、香奈がわざと隠れて巧を脅かしたりと終始和やかな雰囲気だった。

 しかし、香奈にアプローチをあっさりとかわされ、さらに巧との仲の良さを見せつけられた形となった彼女のクラスメートである野球部員たちは、当然気分を害していた。


「誰だ、あいつ?」

「知らねえ。白雪が先輩って呼んでたし、咲麗(うち)の二年か三年じゃねーの?」

「全然イケてなかったよな」

「それな。なんであんなザ・草食系みたいなナヨナヨしたの選ぶんだ? マジで意味わかんねえ」

「あれじゃね? 白雪なら色んなやつから言い寄られてるから、王道に飽きてああいうマイナーなとこ行ったんじゃね?」

「あー、B専的な?」

「うわっ、それありそう!」


 彼らは口々に巧の悪口を言った。

 そうすることで、傷つけられた自分たちの自尊心を必死に保とうとしたのだ。


 しかし、どれだけ巧を下に見ようと、香奈が自分たちではなく彼を選んだという事実は消えないし、巧の前で浮かべた自分たちには見せたことのない無邪気な笑みも、脳裏に焼きついて離れない。

 ゆえに、彼らの機嫌が治ることはなかった。


 虫のいどころの悪さは、表情や雰囲気に現れる。

 通行人は自然と彼らを避けた。


 しかし、それはあくまで彼らのことを知らないからであり、友人であったなら心配になって声をかけ、何があったのかを尋ねるだろう。

 ——ちょうど、偶然居合わせたその少年のように。


「お前ら、全員怖い顔してどうした?」


 そう声をかけたのは、サッカー部二軍所属で彼らのクラスメートである新島(にいじま)晴弘(はるひろ)だった。

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