第36話 いずれは四人で
——翌朝。
巧は電車に揺られていた。誠治と優、大介と遊ぶためだ。
誠治はすぐに昇格したとはいえ、一年生は最初は全員三軍所属だ。
そのときに特に一緒にいることが多かった四人で、今でも交流は続いている。巧がもっとも遊ぶメンバーだ。
集合地点に到着すると、すでに大介の姿があった。
「おはよ、大介。相変わらず早いね」
「俺は五分前行動の申し子だからな、ガハハハハ!」
「大介の笑い声はわかりやすくて助かるぜ」
間もなくして優も姿を見せた。
「優、おはよう」
「うっす〜」
そして集合時間の十時を回るころ、誠治が息を切らしてやってきた。
「ふぅ……セーフ」
「いや、ちょうど一分になったからアウトだな」
「今日の昼は誠治の奢りね」
「ガッハッハ、それは助かるな!」
「おい待て」
いつも通りギリギリの誠治をいつも通り揶揄いつつ、四人で歩き出す。
巧の昇格祝いという名目で、スパッチャという総合娯楽施設で遊ぶ計画だ。
「なんかこの四人で遊ぶのも久々じゃね?」
「まあ、あんま全員空くことねえかんな」
「巧の昇格で一軍、二軍、三軍全員揃ったからな。今後はもっと難しくなるだろう」
「……そうだね」
巧はワンテンポ遅れて同意した。
「おい、巧」
優が肩を組んでくる。
「何?」
「お前、まさか俺と大介に気ぃ遣ってねえよな?」
「……そんなことないよ」
「ガハハハハ、図星のようだな! 巧が目を逸らすのは嘘を吐くときだけだ」
「……」
大介の指摘に、巧は押し黙った。
気を遣ってしまっている意識も、視線を逸らした自覚もあった。
「んなの必要ねえって。つーかそんな余裕かましてたら、すぐに追い抜いてやっから覚悟しとけよ! な、大介」
「うむ、そうだな! 負けっぱなしというのも気分は良くないものだ」
「……そうだね」
(たしかに、僕には二人を気遣ってる余裕なんてないな)
巧は考えを改めた。
「うん、ごめん。幸い気遣いとは縁のない性格の親友がいるから、そいつを見習うことにするよ」
「おう、そうしとけ」
「ガハハハハ! たしかに巧は少しそいつを見習ってもいいかもしれんな」
「おい、お前ら。誰の話してんだ?」
「「「ば縢」」」
「ハモんじゃねえ!」
三人で同時に誠治の苗字をもじった不名誉なあだ名を口にすると、彼は憤慨した。
巧たちは一斉に吹き出した。
(やっぱり、この三人といると楽しいな)
他の人と遊ぶこともあるが、やはり気の置けない友人と言ったら彼らだ。
いずれは四人で一軍で出たいな——。
巧はふとそんなことを思った。
そのためにはもっと頑張らなければならないが、
(ま、今は部活のことは一旦忘れよう)
すぐ視線の先に見えてきた大きな建物を見上げ、巧は思いっきり遊ぼう、と意気込んだ。
◇ ◇ ◇
「今日はありがとね、お昼も奢ってもらっちゃって」
十七時を知らせる鐘をバックグラウンドに、巧は三人に頭を下げた。
「そりゃ、お前の昇格祝いだかんな。それくらいはするだろ」
「あぁ。その代わり、俺たちが昇格したらお前も奢れよー」
「ガハハハハ、それはいいな!」
「もちろん。毎日の夕食をモヤシにしてでもその分のお金は残しておくよ」
「おい、共食いしようとすんな……いててっ、悪かったって!」
巧が無言で誠治の脇腹をつねってやれば、彼はすぐに白旗を上げた。
少し涙目になっている。
つい力を入れすぎたか、と巧は心の中で反省した。
「本当、よく見るよなこの光景」
「うむ、誠治の学習能力はモルモット以下だからな、ガッハッハ!」
「おい、大介てめえ」
誠治が大介を睨む。もちろん、本気で怒っているわけではない。
「まあまあ、みんな僕が帰っちゃうからってそうカッカせずに——」
「「「帰れ」」」
「僕一応主役なんだけど⁉︎」
巧が怒ってみせると、三人が爆笑した。
基本的にいじられるのは誠治だが、そのときそのとき、というよりもはや毎秒の世界でターゲットが変わるのがこの四人の常だ。
昨日の敵は今日の友など、彼らにかかれば悠長すぎるのである。
しかし、いつまでもしゃべっているわけにはいかない。
巧は名残惜しさを覚えつつ、
「今日はありがと! せっかくの機会に途中で抜けちゃってごめんね。それじゃあ、またー」
「おう、またな!」
「じゃーなー」
「もう公園には来るなよ、ガハハハハ!」
「わかってるよ!」
(大介、公園には来るなっていう冗談を気に入ったみたいだな)
武士のような口調のわりには俗世的なところのある友人に笑いそうになりながら、巧は駅に向かった。
昨日、香奈から「明日の夜空いてますか?」というラインが来た。
空いてると返すと、「じゃあ十八時半に家に行きます! 夕食の準備はしないでください!」と返ってきた。詳細ははぐらかされた。
約束の時間まではまだ少し余裕がある。
日用品でも買い足しておくかと思い、最寄駅の三つ手前で電車を降りた。
大型のショッピングモールにつながっているのだ。
キッチン用品のコーナーをぶらぶら散策していると、海を連想させる深い青髪が見えた。
馴染みのある色だった。巧は思わず二度見してしまった。
視線に気づいたのか、相手も顔を上げた。
彼女はいつものクールな表情を崩して、驚きの表情を浮かべた。
「如月君っ?」
「こんばんは。奇遇ですね——愛沢先輩」
そう。
そこにいたのは、三軍唯一の三年生マネージャーの玲子だった。
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