第319話 みんなの時間① —初の顔合わせ—
決勝戦から一週間以上が経過すると、メディア対応の忙しさもようやく落ち着いた。
しかし、それと入れ替わるように、今度はスカウトからの接触が始まった。
誠治はJリーグのクラブから話が来ているようだし、巧にも京極を通じていくつかの大学から誘いが届いている。
優や大介には具体的なオファーこそないものの、京極曰く「注目はされている」らしく、これからの活躍次第では声がかかることも十分にあり得るとのことだ。
また、選手権から二週間ほど経った一月の下旬には、三年生の引退式兼懇親会が行われた。
ほとんどの選手は大学進学を決めていたが、真は選手権MVPの活躍を受け、J2のチームから声がかかり、そのままプロ入りを決断したらしい。
同時に新体制の発足が発表され、巧が次期キャプテンに就任することが決まった。
もちろん、嬉しかったし光栄なことだと思った。だが、それと同じくらい、いや、それ以上に重圧ものしかかっていた。
選手権を制したチームには、当然大きな期待が寄せられる。
もしも結果が出なければ、真っ先に批判の矢面に立たされるのは巧だろう。
特に、数ヶ月前まで三軍だったという経歴は、アンチにとっては絶好の攻撃材料になりかねない。
マスコミもこぞって取り上げるだろう。
だが——
学年末テストが二週間後に迫ったこの日だけは、そういったプレッシャーから解放されていた。
「花梨さんって、どんな人なんでしょうねー」
香奈がワクワクを隠せない笑みを浮かべる。
そう。今日は、めでたく大介と結ばれた花梨との、初の顔合わせなのだ。
集合場所であるカラオケには、すでに巧と香奈だけでなく、誠治と冬美、優とあかりも集まっていた。
花梨の負担が大きいかとも思ったが、彼女自身が「みんなと会ってみたい」と言ってくれたため、全員で予定を空けたのだ。
巧は常々、ダブルデートをしてみたいと思っていたが、まさか四組のカップルによるフォースデートが先に実現するとは思わなかった。
六人はすでに部屋の中に待機している。
大介とも示し合わせて、花梨にちょっとしたサプライズを仕掛けることにしたのだ。
「おっ、大介たち、下に到着したみたいだぞ」
優の言葉に、部屋の空気がピリッと引き締まる。
「「「っ……」」」
六人はそわそわとした面持ちで、扉が開くのを今か今かと待ち構えた。
そして——
——パァン!
扉が開いた瞬間、全員が一斉にクラッカーの紐を引き、破裂音が部屋中に響き渡った。
「わっ⁉︎」
香奈でも冬美でもあかりでもない、驚いた女の子の声が響く。
紙吹雪の向こうには、オレンジ髪をボブカットにした少女が目を丸くして立っていた。
その後ろで、大介が満足そうに頷いている。
巧たちは息を揃えて、
「「「花梨さん、いらっしゃい!」」」
「えっ、えっ?」
花梨は状況が飲み込めていない様子で、大介に助けを求めるように視線を向けた。
「みんなが花梨にサプライズをしたいと言い出してな。だから、先に部屋に入って待機していたのだ」
「あっ、そ、そういうことか……えっと、みなさんありがとうございます。すみません、ろくに反応できなくて」
「ううん、すごくいいリアクションだったよ。こちらこそ、いきなり驚かせちゃってごめんね。さ、入って入って!」
巧がちょいちょいと手招きをする。
コの字になっている席に、四人ずつ向かい合うように座る。
片側には誠治、冬美、香奈、巧が並び、反対側には優、あかり、花梨、大介だ。
花梨が少しでも居心地よく過ごせるよう、なるべく大介や女子勢で周りを固めるべきだろうと相談した結果の席順だった。
自己紹介を終えた後、香奈が興味津々に目を輝かせながら、花梨との距離をぐっと縮めた。
「それにしても花梨ちゃん、めっちゃ可愛いですね!」
「えー、香奈ちゃんのほうが可愛いよ。大介君から写真見せてもらったとき、アイドルかと思ったもん」
「えへへ、花梨ちゃんいい人〜!」
「判断基準ゆるすぎでしょ」
巧はたまらずツッコミを入れつつ、サラリとフォローを入れた。
「まあでも、大介の選んだ人なんだから、いい人なのは間違いないけどね。優とかだとちょろっと引っかかりそうだけど——あっ、別に七瀬さんがそうだって言ってるわけじゃないよ?」
巧は軽口のつもりが失言になっていたことに気づいて、慌てて訂正したが、時すでに遅しだった。
「香奈、後で如月先輩にお仕置きしといて」
「ぶ、ラジャー!」
あかりの無言のチョップが、香奈の頭に炸裂する。
「いたっ! お仕置きされた⁉︎ えーん、ふゆみん先輩ー!」
香奈が冬美に抱きつくのを放置して、冬美は苦笑しながら花梨に目を向けた。
「花梨さん。香奈って、こういう子なのよ。意外でしょう?」
「う、うん。もっとキャピキャピした子かと思ってたけど……でも、親しみやすくてそっちのほうがいいかも! 香奈ちゃんくらいのルックスできっちりした性格だったら、ちょっと萎縮しちゃいそうだしね」
「……金剛先輩、マジで一生手放しちゃいけないっすよ」
香奈がキメ顔で大介を指差す。
「うむ! 花梨ほどの女の子とは、そうそう出会えないだろうからな。手放す気はないぞ」
「っ……!」
大介のナチュラルな惚気に、花梨の頬がポッと赤く染まる。
「だ、大介君っ! み、みんなの前であんまりそういうこと言わないで……!」
「うむ、それはそうだな。すまなかった」
花梨に赤い顔で抗議され、大介が素直に謝った。
巧は周囲を見回し、わざとらしく咳払いをした。
「朝比奈さんたちは存分にイチャついてもらって構わないけど、みんなはイチャつきすぎちゃダメだよ」
「「お前が言うな」」
誠治と優が即座にツッコむ。
その様子に、花梨が興味深そうに巧と香奈を見つめた。
「如月君たちって、みんなの前でも結構イチャイチャするんだ?」
「みんなが大袈裟なんだよ。ただちょっと頭を撫でたりしただけで、すぐイチャイチャ扱いされるんだ」
「「十分だよ」」
「十分でしょ」
「十分ですね」
「うむ、十分だな!」
やれやれと肩をすくめた巧に、誠治と優だけでなく、あかり、冬美、さらには大介までもが異を唱えた。
花梨が口元に手を当て、クスクスと笑う。
「如月君って、結構おちゃらけた人なんだね。試合のときはもっと真面目なタイプかと思ってた」
「そうなんですよ。この顔で下ネタも大好きで」
香奈が巧の頬をツンツンと突いた。
「さっき思いっきり下ネタ言ってたのはどの口かな?」
「いひゃいいひゃい!」
巧が容赦なく香奈の頬を引っ張った。
涙目になっている香奈を見て、花梨がクスッと笑った。
「本当にイチャイチャしてるんだね」
「「っ……!」」
完全に無意識だった巧と香奈は、息を揃えて真っ赤になった。
「マジでよく言ってくれた」
「花梨ちゃんは咲麗高校サッカー部の救世主になるかもしれませんね」
優とあかりがうんうんとうなずき合う。
あなた方も一つになって以降は特に、結構無意識に甘い空気かもし出してますけどね——。
あかりからすでに初夜を迎えたことを聞いていた香奈は、喉元まで出かかったツッコミをなんとか飲み込んだ。
みんなの前で親友の営み事情を暴露するわけにはいかないし、暴露合戦になれば、毎週のように巧と体を重ねている香奈に勝ち目はないのだから。
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