第312話 彼女をぐずぐずに甘やかした②
一瞬、香奈の頭は真っ白になった。
視界が色を取り戻すと同時に、状況を把握する。
(うそっ……! 久しぶりだったし、耳を舐められてるときも危なかったけど、それにしてもこんな一瞬で……⁉︎)
「うぅ……っ」
香奈は荒い息を吐きながら、腕で顔を覆った。
すぐに達してしまったことが恥ずかしくて、とても巧の顔なんて見られなかった。
「香奈、可愛いよ」
——巧は瞳を細め、そっとすくように香奈の髪の毛を撫でた。
自分の手で気持ちよくなってくれる恋人が、愛おしくてたまらない。
「水、飲む?」
ペットボトルを差し出すと、香奈は素直に口をつけた。
潤んだ瞳で巧を見上げ、唇を尖らせた。
「……待ってって、何回も言ったのに」
「ごめん。待てなかった——うっ」
いきなり敏感なところを握られ、巧はうめき声をあげた。
「ま、待って香奈。そこは——」
「ごめんなさい。待てません!」
香奈はイタズラっぽく微笑み、巧の言葉をそのまま返すと、最初から激しく責め立ててきた。
「くっ……」
(これ、ヤバい……!)
巧はされるがままになっている羞恥心もあったが、それを振り払うほどに気持ちよかった。
香奈の頭を撫でて、
「香奈、すごくいいよ……」
「本当ですか? じゃあ、もっと良くしてあげますね」
——香奈はふふ、と妖艶に笑い、しゃがみ込んで口を開いた。
もはや、意趣返しなど頭になかった。ただ、巧が自分の手や舌で感じてくれているのが嬉しかった。
(私って、つくづくマネージャー向きな性格だなぁ……)
奉仕をしながらそんなことを考えていると、ポンっと頭に手が置かれた。
「香奈、もういいよ」
それは、いよいよ本番が行われるという合図だった。
巧がサイドボードに手を伸ばし、ケースをそっと掴んだ。香奈はごくりと唾を飲み込んだ。
「久しぶりだから、ちょっと緊張するね」
「で、ですね」
巧と香奈は照れくさそうに笑みを交わした。
「香奈、横になって」
「は、はいっ……」
香奈は仰向けになった。これから何をするかなど当然わかっていたが、なんとなく足を閉じてしまった。
巧が優しく香奈の膝に手を置く。
「香奈、足開いて」
「な、なんかめっちゃ恥ずかしいんですけど……!」
「大丈夫。綺麗だよ」
巧にゆっくりと足を押し広げられ、香奈は「はぅ……!」と両手で顔を覆った。
久しぶりだからだろうか。何度も見られて、可愛がられているはずなのに、とても恥ずかしかった。
——自慢の髪の毛に負けず劣らず真っ赤に染まっている香奈の耳を見て、巧は防具を装着したものの、挿入はせずに香奈を抱きしめた。
「た、巧先輩? ん……」
不思議そうに瞬きをする香奈に、そっと口付けを落とす。
頭を撫でて、安心させるように微笑みかける。
「大丈夫だよ。焦らないでいいから」
「先輩っ……」
かすれた声を出す香奈の口を、再びふさぐ。
優しいキスを繰り返していると、だんだんと香奈の全身から強張りが抜けていき、瞳もとろんと垂れ下がった。
「可愛い」
「あっ……」
巧は香奈の頬に唇を押し当てると、体を起こした。
「もう、大丈夫そうかな?」
「はい、来てください……」
香奈は潤んだ瞳を揺らしながら、巧を見上げた。
「優しくするから、安心してね」
そう言って、巧はゆっくりと香奈を貫いた。
一回戦の途中までは、香奈はまだ羞恥心を感じていた。
しかし、巧に手を握られたり頭を撫でられながら、何度も「可愛いよ」「好きだよ」と囁かれているうちに、肉体的な快楽と精神的な幸福感が彼女を満たした。
少し休憩を挟んだ二回戦では、さまざまな体位で愛し合った。
香奈が自ら動くと巧が幸せそうな表情を見せるので、ますます嬉しくなって、もっと積極的になった。
巧が二回目に達するころには、もはや羞恥心などなくなっていた。
二回戦を終えて、余韻に浸るようにキスやハグなどをした後、一緒にお風呂に入った。
そのころには、巧は再び元気を取り戻していた。
「ふふ、巧先輩。どうします?」
香奈は手を伸ばしつつ、上目遣いで問いかけた。
「香奈は大丈夫? 疲れてない?」
疲れていない、と言えば嘘になる。
それでも、巧が自分の欲望よりも自分の体調を心配してくれていることが嬉しくて、香奈は迷わずうなずいていた。
「大丈夫ですよ、んっ……」
——香奈の言葉も終わらないうちに、巧はその唇をふさいでいた。
自分でも驚くほど、彼は欲情していた。
少しでも香奈と繋がっていたかったし、自分の手で乱れる彼女をもっと見ていたかった。
巧が内から湧き上がる欲望を余すところなくぶつけた結果、三回戦を終えるころには香奈はヘトヘトになっていた。
「じ、焦らしすぎです……!」
香奈がぷうっと頬を膨らませた。
彼女は巧の足の間に座っていた。さすがに無理をさせすぎたことを反省した巧が、ドライヤーの役目を申し出たのだ。
「ごめん。さすがに四回はキツいから、なるべく楽しみたくて……香奈もすごい可愛かったし」
「っ……ばか」
「いてっ」
香奈が巧の太ももをつねった。
相応の痛みを伴ったが、巧は甘んじて受け入れた。この程度の痛みで済むのであれば、お釣りだけで家が買えるだろう。
就寝準備を終えた二人は、まっすぐ寝室へと向かった。
常夜灯が優しい橙色の光を落とし、心地よい静けさが満ちている。
巧は先にベッドに入ると、香奈に手を差し出した。
「おいで」
「はいっ!」
香奈は嬉しそうに笑って巧の手を取り、横に潜り込んできた。
巧はその肩まで布団をかけてやりながら、尋ねた。
「寒くない?」
「ちょっと寒いかもです。なので——」
香奈がモゾモゾと動き、後ろ向きで巧の腕の中にすっぽりと収まる。
「あっためてください」
「甘えん坊だね、香奈は」
「ダメですか?」
「ううん、嬉しいよ」
「なら良かった」
香奈がへにゃりと笑い、巧の手をぎゅっと握りしめた。
「ん……あったかい」
微かな声が、布団の中で囁くように響く。
「香奈の手も」
巧も小さく指を動かして、その感触を確かめる。柔らかく、それでいて小さくて、香奈らしい手だ。
彼女がふふ、と笑って身じろぎをした。
その頭は巧のあごのすぐ下にあった。シャンプーの甘い香りが鼻先をくすぐった。
さらには彼女の柔らかい背中やお尻が体の前面に密着しているが、三回も出した後だからか、さすがにそういう気分にはならなかった。
とはいえ、香奈の体を触るのは好きだ。
空いているほうの手で、パジャマの上からお腹をまさぐる。
「ん……」
——香奈は小さく声を漏らした。
感じているわけではない。単純にくすぐったかったのだ。
「先輩、触り方がいやらしいですよ?」
「そうかな。ただ好きだから撫でてるだけだよ」
「もう……」
香奈は呆れたように息をつきながらも、頬が自然と緩むのを止められなかった。
巧は賢者タイムなど存在しないかのように、いつだって甘やかしてくれるし、どんなときも可愛がってくれる。
それが嬉しくて仕方ない自分に、少しだけ照れくさくなった。
あまり多くの言葉を交わすことなく、体を密着させていくと、やがて温もりに誘われて眠気がやってきた。
さすがにくっつきながらでは寝づらいので、香奈は名残惜しさを感じつつも一度手を離して、ゴロゴロと転がって自分の布団に戻った。
寝る体勢を決めると、香奈は再び手を差し出した。
すぐに巧が指を絡めてくれる。胸がじんわりと温かくなった。
「大好きだよ、香奈。おやすみ」
「私も大好きです。おやすみなさい」
愛を囁き合い、はにかむような笑みを交わした。
絡めた指の温もりを確かめながら、二人はゆっくりとまぶたを閉じ、静かに夢の世界へと沈んでいった。
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