第211話 彼女から意外なプレゼントをもらった
巧としては二人きりでお祝いがしたいというその気持ちだけで十分すぎたが、香奈はその後も精力的に動き回った。
食事も腕によりをふるってくれた。栄養バランスを考えつつも、巧の好物が並んでいた。
嬉しくて久しぶりに食べすぎてしまい、香奈が食器を洗ってくれている間はソファーで体を休めていた。
「終わりましたー!」
「ありがとう」
洗い物と歯磨きを終えると、彼女は真っ直ぐ巧の元まで駆け寄ってきた。
膝の上に座って振り返る。無邪気に笑いながら、
「巧先輩、この体勢好きですよね?」
「よくわかってるじゃん」
巧は香奈を背後から抱きしめながら口付けを落とした。
彼女の唇のみずみずしさとぷっくりとした柔らかさを存分に堪能する。
長い接吻を終えると、今度は短いキスを何度も行う。
わざとリップ音を立ててやれば、香奈はくすぐったそうに肩を揺らした。
「情熱的ですねぇ」
「彼女がここまでしてくれたんだから当然だよ。本当にありがとね、香奈。二人きりで祝いたいって思ってくれるだけでも嬉しいのに、ここまで色々考えて準備してくれて」
「喜んでくれたなら何よりです。でも、まだ終わりじゃありませんよ。じゃじゃーん!」
香奈は自分で効果音を言いつつ、一枚の紙を取り出した。
「お納めくだされ」
恭しく差し出してくる。「なんでも言うことを聞く券」と書かれていた。
「これは?」
「前祝いみたいなものですね。普通に物を渡そうかとも思ったんですけど、そしたら巧先輩が本命のプレゼントで遠慮しそうだったので悩みに悩み抜いた結果、こちらに辿り着きました」
「よく僕のことわかってるじゃん」
「そりゃあもう」
香奈がニコニコと楽しそうに笑った。
「でも、これ使わなくても香奈って大抵僕の言うことは聞いてくれない?」
「そうですけど、普通だとちょっと頼みづらいなーみたいなこととかもあるじゃないですか。度を超えたものはあれですけど、そういうものを聞いて差し上げちゃおっかなー、なんて」
香奈がはにかむように笑った。どこか照れくさそうだ。
「ティックトックで流行ってる踊りを踊らせたりとか?」
「本当に見たいのならそれでもいいですよ?」
「冗談だよ。えー、でもなんだろうね」
巧は首を捻った。
「た、例えばその……コスプレとか、変なプレイとか」
香奈がゴニョゴニョと言った。
巧はハッと彼女を見つめた。羞恥で顔が真っ赤に染まっていた。おかしくて吹き出してしまった。
「自分からそっちに持って行くんだっ……!」
「べ、別にしてほしいとかそういうんじゃありませんからね⁉︎ 巧先輩がエッチだからそういう発想しそうだなって思っただけです!」
香奈が叫ぶように弁明した。言い訳めいた口調だった。
「そっかそっか」
巧が笑いながら頭を撫でれば、香奈はかぁ、と頬を染めつつ二の腕に頭突きをしてきた。
頭をぐりぐりと押し付け、無言で抗議してくる。
「あはは、ごめんごめん。でも、色々考えてくれてありがとう。これはいつか使わせてもらうよ」
「うわっ、プレイをさせるための券で焦らしプレイをするとは……!」
香奈がくぅ〜、と噛みしめるように言った。
先程までの恥ずかしそうなものから一転、目の前で行われる演劇を楽しみにしている子供のようなワクワクした表情だ。券がそういうことに使われるリスクは織り込み済みなのだろう。
(いや、もはやそういうことを望んでるのかな。香奈って結構マゾだしエッチだし)
もしかするとこれは、さすがに自分からはマニアックなプレイをしようとは言えない彼女からのお誘いなのかもしれない——。
巧は本気でそんなことを考えた。
「明日も朝練あるし、十分に楽しめない日に使っちゃもったいないからね」
「やっぱり巧先輩もそっちにいってるじゃないですか!」
香奈が吹き出した。
別に券を使わなくても頼み込めばやってくれそうだな、と巧は思った。
アブノーマルな性癖は持ち合わせていないが、いくつか候補は浮かんでくる。
そんなことを考えていれば、欲が高まるのも当然のことだった。
バックハグの体勢のままだったため、ソレの形態の変化に気づいたのだろう。
香奈が振り返ってクスッと笑った。ドキッとするほど妖艶な笑みだった。
吸血鬼のような赤い瞳に吸い込まれそうな感覚を覚えながら口付けをした。
近づくことで強くなった女の子特有の甘い匂いが、ダイレクトに脳を刺激した。
「んっ……」
舌を入れれば、待ってましたとばかりに香奈もすぐに絡ませてきた。
先程のものとは違う、お互いに欲望を全面に押し出したそのキスは、思春期の男女のスイッチを完全に入れてしまうには十分なものだった。
巧はシャツを盛り上げている二つの丘を手のひらで覆った。
ふふ、と香奈が笑う。首筋にキスを落としながら可愛がっていると、だんだん息が荒くなっていく。
「た、巧先輩っ……」
潤んだ瞳でねだるように名前を呼ぶ彼女に笑いかけ、望み通りにシャツの中に手を忍ばせた。
上も下も愛撫をしてやれば、今度は香奈が奉仕をしてくれる。
ある程度のところでやめさせ、ソファーを指差した。
「香奈、そこに手を突いて」
「はい……」
彼女は素直に従った。何も指示をしなくてもお尻を突き出すような体勢をとった。
「た、巧先輩っ。これ、恥ずかしいです……!」
香奈が瞳を潤ませて振り返った。
巧は優しげな笑みを浮かべて一つうなずき、一気に彼女を貫いた。
行為をしたままの流れで一緒にお風呂に入り、そのまま布団で向かい合って横になった。
香奈は巧の腕を枕にしていた。空いているほうの手で、巧は優しく彼女の頭を撫でた。
「今日はありがとう。すごく楽しかったし、嬉しかったよ」
「そう言っていただけるのなら何よりです」
頑張った甲斐がありました、と香奈が嬉しそうに笑った。
「これだけ愛してくれてる彼女がいるっていうのが一番の贈り物だね」
「っ……もう〜!」
香奈は言葉を詰まらせた後、抑えきれない感情を吐き出すように呻きながらゴロゴロと転がった。背中側から巧の懐にすっぽりと収まった。
すかさず抱きしめた。パジャマの中に手を入れてお腹の感触を楽しむ。
肌触りはスベスベしていて柔らかいが、指先に力を込めると引きしまった筋肉が押し返してきた。
「もう、触り方がいやらしいですよ?」
香奈がくすぐったそうに笑う。その度にヒクヒクと上下する筋肉の感触が悩ましかった。
彼女は振り返ってイタズラっぽい笑みを浮かべた。
「もしかして発情しちゃってます? ダメですよ。お風呂入りましたし、明日も早いんですから」
「わかってるよ」
「説得力がありませんねぇ」
香奈がクスっと笑い、お尻をモゾモゾと動かした。
「香奈のほうこそムズムズしてるんじゃないの? そんな誘ってきて」
「そ、そんなわけないじゃないですか」
やだなぁもうっ、とわざとらしい口調で言った。
わかっているのだ。お互いにまだ満足していないことは。
「ま、ちょっと足りないくらいで終わらせておくほうがいいし、これで部活に支障が出たら嫌だもんね」
「そうですね」
巧が自分に言い聞かせるように言えば、香奈も間髪入れずに同意した。
再びゴロゴロと転がり、一定の距離を取って向かい合う。
今度は腕枕はせず、お互いに布団から片手だけを出してギュッと握り合った。
「巧先輩の手、あったかいですね」
「香奈もだよ」
指を絡ませ、クスクス笑い合う。
「それじゃあ寝ようか」
「そうですね」
「今日は本当にありがとう。おやすみ、香奈。大好きだよ」
「私も大好きです。おやすみなさい」
最後に愛の言葉を囁き合い、巧がリモコンで常夜灯を消した。暗闇が部屋を包んだ。
間もなくして彼の口から寝息が漏れ出した。
可愛いなぁ、と香奈は声をひそめて笑った。
見えないが、あどけない寝顔が容易に想像できる穏やかな息遣いだった。
もう眠っているのに、彼の手は決して離さないとばかりに香奈のそれを握ったままだ。
(巧先輩、意外と手大きいよね……)
男らしいとまではいかないけれど、自分のとは違う角ばったそれから伝わってくる温もりが、香奈の胸をいっぱいに満たす。
そこから生じた愛おしさと安心感は、お尻に巧のモノを感じたことで再びもたげ始めていた欲望を鎮め、精神的な安らぎをもたらしてくれた。
「ふふ」
自然と穏やかな笑みを浮かべながら、彼女もまた眠りの世界へと旅立った。
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