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第12話 美少女後輩マネージャーがパンツを見せようとしてきた

「イーサカでいいよね?」

「もちです」

「きな粉と相性抜群だよね」

「私は海苔を巻いて砂糖醤油派です」

「そっちも捨てがたいなぁ」


 イーサカとは、世界的に有名なサッカーゲームだ。

 スマホのアプリもあり、そちらでは何度も対戦しているが、プレステでの対戦は初めてである。


白雪(しらゆき)さんはプレステもよくやるの?」

「たまにオンライン戦をやるくらいですね。対面でやったほうが面白いですから」

「わかる。白雪さんも一人っ子だよね?」

「はい。親はどっちも帰ってくるの遅いですし……あっ、でもさっきアップはしてましたよ」

「元から僕とやる気だったんじゃん」

「当たり前です」


 香奈(かな)が白い歯を見せてサムズアップをした。

 サッカー好きな女の子というのはそこまで珍しくないが、ゲームまで好きという人は希少種だろう。


「僕、もともとは宿題する気だったんだけど」

「そしたらパンツでも見せてあげようかと思ってました」

「うん。それもセクハラだよ?」

「えっ、先輩。私のパンツ見たくないんですか?」


 (たくみ)とて、健全な男子高校生だ。

 香奈のようなスタイルも顔も良い少女のパンツを見たくないといえば、それは嘘になる。

 しかし、


「見ようとは思わないよ」

「……それは、私に魅力がないってことですか?」


 香奈の声のトーンが下がった。

 巧は慌てて首を振った。


「そういうわけじゃないよ。でも……白雪さんは大事な後輩だから。後輩のパンツを見たいとはならないでしょ」

「むぅ……」


 巧が言葉を選んで答えると、香奈が不満そうに唇を尖らせた。

 しかし、特に何かを言ってくるわけではなかったので、巧はテレビに向き直った。


「先輩——」


 不意に香奈が巧の名を呼んだ。

 彼は何気なく振り向き——、


「——おっと」


 慌てて視線を逸らした。

 香奈がミニスカートをたくしあげていたからだ。

 おそらくギリギリ見えないラインまでしか上げていないが、巧が直視し続ける理由にはならない。


「あれれ、先輩。やっぱり興味あるんじゃないですか〜?」


 香奈が頬を突いてくる。


 巧はため息を吐いた。

 揶揄(からか)われたこと自体は、別にいい。だが——


(これは、一回ちゃんと注意しておかないとだな)


「——白雪さん」


 あえて香奈の指を払うこともせず、巧はいつもよりも鋭く彼女の名前を呼んだ。


「あっ……はい」


 香奈がすぐに指を引っ込め、不安げに紅玉を揺らした。


「信頼してくれてるのは嬉しいけど、それはさすがにダメだよ。誘われてるって勘違いする男子も絶対に出てくるから。白雪さんが危ない」

「……はい」


 香奈は一つ間を空けてうなずいた。


(スキンシップの一環のつもりだったのかな。甘えてくれるのは嬉しいけど、距離感がバグっているというか……)


 思ったよりも不満そうな反応に、巧が戸惑っていると、香奈がおずおずと見上げてきた。


「その……先輩は、勘違いしないんですか?」

「してたら、こんな忠告はしないよ」

「——じゃあ、いいじゃないですか」


 香奈の口調は、少し拗ねたようだった。


「何が?」

「私だって、自分の行動がどう見えるかはわかってます。でも、先輩は勘違いしないんでしょ?」

「まあ、そうだけどさ」

「そもそも、先輩以外の男の人に、さっきみたいことする気なんてありませんもん」

「っ……」


(……そういうところだよ、白雪さん)


 香奈は普段、誰にでも明るく接しながらも、必要以上には踏み込ませない。

 ただ、なぜか巧相手にはその壁を取っ払ってしまっているようだ。


「先輩?」

「いや、何でもないよ。じゃあ僕はともかく、他の人に何かするときは気をつけるようにね」

「はーい」

「あと、いくら僕相手でもさっきのはやりすぎだから」

「はい、ごめんなさい……先輩ってなんでも受け止めてくれるので、ちょっと調子乗っちゃいました」


 香奈が、今度は素直に謝罪した。どうやら納得してくれたようだ。

 だが、逆に巧が納得していなかった。


(調子乗っちゃいました、で済ませていいのかな……白雪さんは、ちょっと話の合う無害な先輩くらいの認識なんだろうけど……)


 対応に困る、というのが巧の正直なところだ。

 大事な後輩といえど、無防備な姿を見せられては平常心ではいられない。


 だが、同時に両親も遅くまで帰ってこないと告げた香奈の寂しげな表情を思い出すと、突き返すのも躊躇われた。

 親や他の人には甘えられない分、気を許している巧の前では抑圧していたものがあふれ出してしまうのかもしれない。


(なら、僕が勘違いしないように気をつければいいだけか……)


 巧はそれ以上の考えを振り払うように首を振り、コントローラーを手に取った。


「じゃ、試合しよっか。白雪選手、対戦よろしく!」

「おねしゃす!」


 少し重くなってしまった空気を払うように、巧はおどけて手を差し出した。

 香奈も笑顔で握り返してきた。




◇ ◇ ◇




「先輩、強すぎますー!」


 二連敗した後、香奈がジタバタと床で暴れて悔しさを表現した。

 ともすればミニスカートからパンツが見えそうになるため、巧はそっと彼女から視線を外した。


「マジでさっきのパスとかなんなんですか? あんなとこ見えなくないですか? 現実だけじゃなくてゲームでも視野広いってなんなんですか? ズルしてるんですか?」

「下のマップ見てればわかるよ」


 画面の下側に全選手の動きがレーダーで表示されているため、実際のピッチ映像には映っていない選手の動きもそこで見ることができるのだ。


「そんなとこ見る余裕ないですよ! もう〜、女の子相手には手加減して負けてあげないとモテないですよ?」

「でも白雪さん、手加減されたら怒るでしょ?」

「はいっ!」

「難しいなぁ」


 巧が苦笑してみせると、香奈もあはは、と楽しそうに笑った。

 実はこれでも手加減しているほうなんだ、とは、巧は間違っても言わなかった。




 もう一試合だけ、と香奈が懇願(こんがん)したので、巧はしぶしぶ三試合目にも付き合った。

 危なげなく勝利した。


「ぐやじ〜!」


 また香奈がバタバタしている。


「どうして勝てないんですかっ? 私、サッカーの情熱は先輩にも劣らない自負があるのに……!」

「それは僕も同意するよ。白雪さんほどサッカーが好きな子はいないと思う」

「ならなんで勝てないんですか〜」

「……多分、単純にゲームのうまさじゃない?」

「……先輩。もう少しオブラートに包もうとは思わなかったんですか?」

「迷いはしたんだけどね」

「なぜそこで直球を選択したのですか」


 香奈が苦笑いを浮かべた。


「まったくもう……先輩にはお説教が必要ですね」

「聞こうか」


 巧は腕を組んだ。


「なんでお説教される側が偉そうなんですか。第一印象は怖いけど実は気さくで、生徒の話にもよく耳を傾ける体育の先生みたいになってますよ」

「ボケが寿限無(じゅげむ)い」


 長い、ということだ。


「寿限無を形容詞として使わないでください……」


 香奈が呆れたようにため息をついたところで、ふと、部屋に静けさが戻った。

 お互いに口をつぐみ、無言の時間が流れる。だが、それは気まずい沈黙ではなかった。


(まさか、白雪さんとこうして過ごすことになるとは思わなかったな……)


 巧はしばらくの間、ほんの少しの疲労と、ささやかな心地よさが混ざり合った余韻に浸っていた。

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