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第11話 美少女後輩マネージャーを抱きしめてしまった

 冷蔵庫を開け、水のペットボトルを取り出す。スーパーで買っておいた二リットルの天然水だ。


白雪(しらゆき)さんも何か飲む?」

「大丈夫です。今朝買ったやつがまだ残っているので」

「了解ー」


 自分の分だけコップに注ぎ、(たくみ)は口をつけながらリビングに戻った。


「先輩って、何気に先輩力高いですよね」

「そう? さっき愛沢(あいざわ)先輩には後輩力高いって言われたんだけど」

「スーパーで会ったんですか?」

「うん」

「そして一緒に買い物をしたと」

「うん」

「……そうですか……」


 香奈(かな)がずずっと鼻を鳴らした。


「白雪さん?」

「ひどいです、先輩っ。私というものがありながら、玲子(れいこ)先輩と買い物デートするなんて……!」


 芝居がかった言い方に、巧は苦笑しながらストレッチを始めた。


「……先輩、本気でひどくないですか?」

「そんなことないよ」

「ありますぅ」


 口を尖らせながら、香奈は巧の背後に回ると、ストレッチ中の背中にそっと手を添えた。


「お手伝いしますよ」

「本当? じゃあお願いしようかな」

「任せてくだされ……こんな感じですか?」


 香奈が体重をかけてくる。


「いい感じ。もうちょい強くしてくれる?」

「了解です……相変わらず柔らかいですねぇ」

「まあ、風呂後のストレッチは欠かしてないからね」

「さすがです。きっと、そういう地道な努力が今日の成功にもつながったんですね」

「……ありがと」


 巧はぽつりと言葉をこぼした。 

 胸の奥がじんわりと温かいのは、きっとお風呂上がりだから、というだけではないだろう。


「ねぇ、先輩。練習について、詳しく聞いてもいいですか?」

「うん。僕もちょうど、白雪さんに聞いてほしいって思ってた」


 そう言って、巧はプレーの流れや感じたことを順に語っていく。

 香奈はうんうんとうなずきながら、真剣に耳を傾けてくれていた。


「……で、最後は味方を囮にして、点も取れたんだ」

「おお、完璧じゃないですか! ——先輩!」


 香奈が巧の前に回り込み、手のひらを向けてくる。

 ハイタッチを求めているのだとわかった。


 巧が手を差し出すと——


「わっ!」


 香奈のスイングが勢い余って、体が前につんのめった。


「白雪さんっ」


(わっ……)


 抱きかかえる形になったため、香奈の体温と柔らかさが直に伝わってきた。

 それだけではなく、爽やかな中にも甘さのある香りが、ほのかに鼻腔(びこう)をくすぐる。


(これ、やばいっ……!)


 彼女を抱き起こした後、巧は慌てて体を離した。


「ご、ごめんなさいっ、私、ちょっと勢いが……」

「いや、僕こそ反応遅れた。怪我なかった?」

「は、はい。ありがとうございます……っ」


 香奈は頬を真っ赤にしながら、消え入りそうな声でうなずく。


(……事故とはいえ、気まずいな)


 居心地の悪さを払うように、巧は手を差し出す。


「……とりあえず、普通にハイタッチする?」

「そ、そうしましょう!」


 香奈が大袈裟に同意した。

 今度はお互い、至って普通の速度で手のひらを合わせる。


「無事で良かったけど……さっきは何で、あんなに勢いつけたの?」

「その、お恥ずかしながらテンションが上がってしまって……」

「ふふっ」

「わ、笑わないでくださいっ!」


 そう言いながらも、香奈はすぐに目をそらして唇を尖らせた。


「もう……調子狂っちゃいました」

「あはは、ごめん。またびしょハラしちゃったね」

「えっ……? そ、そうですよっ、びしょハラですっ!」

「忘れてたでしょ」

「っ……まさかまさか」


 返答までに間があった。

 どうやら図星だったようだ。


 びしょハラとは、香奈が今朝生み出した造語で、美少女ハラスメントの略だ。

 美少女を(はずかし)めて快感を得ようとする行為であると得意げに解説していたが、頭からすっぽ抜けていたらしい。


「今、すごい思い出してる顔してたけどね」

「気のせいですよ。マタハラを追いやるほどのハラスメントですよ? 忘れるわけないじゃないですか。やだなぁ、もう〜」


 バシバシ背中を叩いてくる香奈に、巧は苦笑いを浮かべた。


「ま、そういうことにしておいてあげるよ」

「むぅ、相変わらずSですね……というか先輩、今さらなんですけど、マタハラってなんですか? 相手の股間を触ることですか?」

「それはもうセクハラじゃん。違うよ、マタニティハラスメント。妊娠・出産・育児に関して、職場で受ける不当な扱いや嫌がらせのことだよ」

「なるほど。じゃあもし、私が妊娠しているときに先輩に重い荷物を無理やり持たされたら、マタハラですか?」

「まあ、理屈で言えばそうなるけど……って、その例え、学生としてダメでしょ。ちゃんと避妊しなよ」

「先輩、それセクハラになりません?」

「……たしかに。ごめん。今のは不適切だった」


 巧は慌てて頭を下げた。

 いくら香奈が言い出したことで、気を抜いていたとはいえ、今の発言はよろしくなかった。


 香奈が肩をすくめて笑う。


「もう、先輩は仕方のない人ですねぇ。特別に香奈様の寛大なお心でお許ししてあげますよ……罰として、一緒にゲームしてくれたら」


 おどけた口調に、香奈は様子を(うかが)うようにおずおずと上目遣いを向けてくる。


(……まあ、いっか)


 本当は宿題でもやろうと思っていたのだが、身から出たサビだ。


(この子に比べたら、僕の後輩力なんてまだまだだろうな)


 巧は内心で苦笑しつつ、うなずいた。


「わかった。甘んじて受け入れるよ」

「よっしゃ!」


 香奈が飛び跳ねんばかりに喜ぶ。


(……ほんとにゲームやりたかったんだな)


 巧は全力で鬼ごっこをしている幼稚園児を見たときのような、微笑ましい気持ちになった。


「スマホでやる?」

「いえ、せっかくなのでアレでやりましょう!」


 香奈がプレーステーション——通称プレステを指差した。


「先輩、早く準備してくださいっ!」

「わかったわかった」


 幼子のように早く早く、と急かしてくる香奈に苦笑しつつ、巧はプレステを起動させた。

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