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家を追放された魔法薬師は、薬獣や妖精に囲まれて秘密の薬草園で第二の人生を謳歌する(旧題:再婚したいと乞われましても困ります。どうか愛する人とお幸せに!)  作者: 江本マシメサ
二部・第三章 奇跡の力を揮う者?

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与えられた役割

 早速明日からエルツ様は出勤となるらしい。

 スズラン教会で働くシスターやブラザーは共同生活をするようで、自宅へ帰れるのは月に一度だけと定められているようだ。

 その辺の説明は採用通知を渡したあとに開示されたという。

「なんというか、怪しいとしか思えない職場ですね」

「そうだな。おそらく日給以上のことをさせられるのだろう」

 エルツ様は共同生活などさらさらするつもりはないらしい。

「おそらく寝室などは共同で使うだろうから、幻術で適当に眠っている姿を作ったあと、家に戻る」

「それがいいかと」

 着用する法衣も支給されたようだが、詰め襟で丈が足首を隠すほど長い一着で、下にズボンとブーツを合わせるらしい。

 聖女に近しい者達は白いものを纏うようだが、エルツ様に支給されたのは一般的なブラザーが着用する黒い法衣だった。

 生地は見た感じ変な照りがある上に、ペラペラに見える。こんな服をエルツ様が着ないといけないなんて……。

 採用されたのが私だけだったらよかったのに、と心の奥底から申し訳ない気持ちになった。

 明日は日の出前に集合するように採用担当のシスターやブラザーから言われているらしい。そんなわけで、早めに解散することとなった。


 翌日――エルツ様と共にスズラン教会を目指す。

 私とモモは姿消しの魔法をかけてもらい、こっそりエルツ様の傍にいるのだ。

 幻術をかけたエルツ様を見失ったらどうしよう、と心配だったが、モモがいるので安心だ。

 ここから先は会話厳禁である。エルツ様は最後に私を安心させるように背中に触れると、スズラン教会の中へと入っていった。

 採用されたのは三十名くらいだろうか。ブラザーが二十名、シスターが十名くらいである。

 彼らをとりまとめる司教を名乗る中年男性が登場し、これから守るべきものを説明し始める。

 それらは面接で一度聞いていたものだが、念には念を押したいのだろうか。

 最後に、司教はとんでもない行動に出た。

「では、神より授かりし香を炊きますので、その間、しっかり祈りを捧げてください」

 一瞬だけ掲げた香木は、以前ヒーディが使っていた意識を朦朧とさせる物とは別に見えた。いったい何を使うのか。

 エルツ様のほうへ目配せすると、廊下で待っておくように、と指示が出される。

 部屋の扉が閉ざされるタイミングで、私とモモは退室した。

 十分後――部屋が開かれる。

 司教を先頭にシスターやブラザーが出てきたのだが、様子がおかしい。

 まるで自分の意思などないような感じで、ふらふらと歩いていたのだ。

 エルツ様も出てきたのだが、私に向かって大丈夫だ、とばかりの目で見てくれた。

 すれ違いざま、手渡されたのは壊れたウッド司祭のお守りである。

 先ほどの香は何かしらの状態異常を及ぼすものだったようだ。

 さっそく、お守りが役に立ったわけである。

 それから彼らに言い渡された作業は、想像を絶するものだった。

 スズラン教会の地下にたくさんの人達が横たわっていたのでギョッとする。死んでいるのでは、と思ったが眠っているだけだった。

 服装から見るに、彼らは一般市民だろう。

 中には身なりのよい富裕層も確認できた。

 そんな彼らは寝返りを打ったり、寝言を言ったりしている。起き上がっても、むにゃむにゃと言葉にならない言葉を呟いて、再度眠ってしまうのだ。

 このような症状に覚えがあった。ヒーディがかがせた香木を吸い込んだ人に起こる意識障害だろう。

 香木をかがせたあと家に帰すのではなく、スズラン教会の地下に連行していたようだ。

 これがヒーディの言っていた口封じなのだろう。

 しかしながら、彼らをどうするつもりなのか。

 疑問でしかなかったのだが、司教がブラザーの一人に指示を出す。

「三十代男性、中肉中背、健康的な者を一名」

 先ほど香木をかがされたブラザーはこくりと頷くと、のろのろ歩き始める。

 そして指示通りの男性を担いで戻ってきたのだ。

 どうやら先ほどかがせた香木は、自身の意思を奪い、言いなりになる作用があるものだったようだ。

 なんて恐ろしいことを考えるのか。思わずぶるりと震えてしまう。

 シスターにはここにいる者達の世話をさせていた。

「この列にいる者達に、パンを一つ食べさせるように」

 シスターは命令通りに動き、人々へパンを与えていた。

 先ほどブラザーに連れてこられた男性は、檻の中へと入れられ、分厚い布が被せられる。

 そして別のブラザーに上の階へ運んで裏口から搬出するように命令した。

「王都から港町までは三時間かかる。出航に遅れないよう、急いでくれ」

 港町に連れて行くとは? いったいなんの目的で?

 そんな疑問は次の瞬間に答えが明らかとなる。

「この人間は大事な商品だからな」

 その瞬間、ここに集められた人々の用途について気づいてしまった。

 人身売買――意識を朦朧とさせた人は、余所へ売り払っていたようだ。

 もうここまで知れば十分なのだろう。

 エルツ様も自身に姿消しの魔法をかけ、ブラザーとしての仕事を放棄するようにしたようだ。

 先ほど連れて行かれた人を追いかけるらしい。

 檻を搬出させるブラザーのあとを追跡したのだった。 

挿絵(By みてみん)

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挿絵(By みてみん)

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