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家を追放された魔法薬師は、薬獣や妖精に囲まれて秘密の薬草園で第二の人生を謳歌する(旧題:再婚したいと乞われましても困ります。どうか愛する人とお幸せに!)  作者: 江本マシメサ
二部・第二章 謝肉祭での大事件!?

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離婚をしよう!

 村に戻ると、食堂でお爺さんオススメの肉料理をいただくことにした。

 食堂はかなり広く、二階まであるようだ。店内は村人らしき人達で賑わっていた。

 もしかしたら家畜や肉に病気の原因があるのではないか、という可能性があるため、正直な話しいただくのが恐ろしいと思ってしまった。

 けれども食べた結果私が病気になれば、エルツ様に原因追及のための検体材料として使ってもらえるだろう。

 肉料理をいただくのは私だけでいいのでは? と意見したところ、エルツ様は自身を検体材料にしたいから、敢えて食べたいと言い出した。

 奇しくも、私達は同じことを考えていたわけである。

 結局、どちらも引かずに仲良く肉料理を食べることとなる。

 私は牛肉シチューをいただき、エルツ様は牛肉のあぶり焼きを注文した。

 しばらく待つと料理が運ばれてくる。

 牛肉シチューはグラタンを食べるような分厚いお皿に装われてきた。提供前にチーズをかけて焼いているようで、マグマのようにぐつぐつと煮立った状態で運ばれてきた。シチューの肉がほろほろになるまで煮込まれており、舌の上でとろけるような柔らかさだった。

「エルツ様、このシチュー、とってもおいしいです」

「そうか。この炙り肉は歯ごたえがあって、噛むと旨味がじゅわっと溢れるおいしさだ」

 焼いたほうの肉は弾力があって、肉汁を味わうタイプの料理のようだ。

 いつの間にか調査のことを忘れ、肉料理を堪能していた。

 そして持ち帰り用の肉塊も販売してもらう。肉塊はエルツ様が用意していた氷の魔石で冷やしつつ持ち帰るようだ。

 これでここの国ですべきことはすべて完了となった。

 最後にお爺さんや宿のご夫婦に挨拶したあと、村を出る。

 すぐに帰ると言うと、宿の旦那さんが心配そうに話しかけてきた。

「国境までの馬車は朝からしかでていないのですが、よろしければ一日に数本馬車が出ている隣の村まで馬車でお連れしましょうか?」

「大丈夫だ。使役する竜で帰るゆえ」

 エルツ様が水晶竜クリスタル・ドラゴンのクワルツを召喚すると、皆、驚きの表情を浮かべていた。

「いや~、こんな立派なトカゲを見たのは初めてだあ」

「お父さん、これはトカゲではなく、ドラゴンですよ」

「ドラゴンかあ」

 お世話になった方々に会釈をし、クワルツの背中に乗り込む。

 手を振って別れつつ、国境を目指したのだった。


 夕方には国境を越え、そこからはエルツ様の転移魔法で王都に戻ってくることができた。

 エルツ様は直接、役所に転移してくれた。そこで離婚承諾書を提出しに行く。

 まさか二度目の離婚承諾書を提出することになるとは夢にも思っていなかった。

 エルツ様は遠い目をしながら、とんでもないことを言ってくれる。

「いやはや、数日で捨てられるとはな」

「捨てておりませんよ。最初からこうする約束です」

「そうだったか」

 エルツ様は悲壮感漂う表情を浮かべながら、離婚承諾書を記入していた。

 婚姻届はきちんと書いていたのに、離婚承諾書のほうはまっさらな状態だったわけである。

 エルツ様が必要以上にゆっくりゆっくり書くので、ただ提出するだけなのに一時間もかかってしまった。

「ビー、私は別れたくない」

 エルツ様ほどの美貌の持ち主が、絶望したような表情で言ってくるので、周囲の注目をこれでもかと集めていた。

 それがエルツ様だけならば別に問題ないのだが、あの男性を捨てた女はどこの誰だ、と私までちらちらと見られているのだ。

「エルツ様、早く提出しましょう」

「そうだな」

 窓口に書かれた魔法陣に離婚承諾書を置くと白く光り輝く。

 即座に情報が読み取られ、受理されるのだ。

 この様子を見るのも二度目。青く光って終了だと思っていたのに、魔法陣は真っ赤に染まった。

「え!?」

「なんだ、これは?」

 窓口係も何かの間違いだと思ったのか、一度離婚承諾書を手に取り、再度魔法陣の上に置いた。

 しかしながら結果は同じ、真っ赤に光る。

 窓口係は申し訳なさそうに、離婚承諾書を私達へ返した。

「申し訳ありません。この離婚承諾書は受理できかねます」

「ど、どうしてですか?」

「えーっと、詳しく調べますね」

 もしかしたら婚姻届自体が受理されていなかったのだろうか。だとしたら、突き返されてしまうのも無理はない。

 窓口係が個人情報を調べた結果、あることが明らかとなった。

「ああ、なるほど。受理できない理由がわかりました」

 私は前屈みで話を聞く。

「国の法律で、結婚から一年以内はよほどの理由がない限り、離婚できないようになっているんです。あなた方はつい先日、結婚したばかりですので、離婚承諾書が受理されるのは一年後ですね」

 なんでも結婚詐欺が多く出た五年前に、そのような決まりができたようだ。

 そんな話を聞いて、サーーーーーーと血の気が引く。

 エルツ様のほうを見ると、驚いた表情を浮かべていた。

 ただ、エルツ様ほど賢いお方がこの法律を知らないわけがない。

「あのエルツ様、ご存じでしたよね?」

「さあ、どうだったか」

 否定も肯定もしない、なんともふわっとした言葉を返してくれる。

 役所での行動も演技だったのだろう。がっくりと項垂れる。

 ただ、諦めたわけではない。

 私は一縷の望みにかけ、離婚が受理される〝よほどの理由〟について聞いてみた。

「あの、一年以内に離婚が許可される主な理由を教えていただけますか?」

「もっともわかりやすいのは、伴侶への傷害などの犯罪行為ですね。あとは勝手に結婚届を提出された場合なども、離婚承諾書の受理は許可されております」

「あ――はい」

 私達はすでに隣国への新婚旅行を済ませてしまっている。この時点で結婚は間違いでした、なんて言い分が通じるわけがなかった。

「ビーがどうしても別れたいというのならば、私を暴力夫に仕立てても構わない。おそらく、禁固数年を言い渡されるだろうが」

「そこまでして離婚したいとは思っておりません」

「そうか!」

 エルツ様は今日一番の笑みを見せてくれる。

 やはり、わかっていてやったとしか思えない。そこまでして私と結婚したかったのだろうか。しかも婿入りで。

 なんて事態になったのか、と心の中で頭を抱えてしまった。

「エルツ様、私との婚姻関係については、どう扱うおつもりですか?」

「別に、公表するつもりはないが」

「よろしいのですか?」

「ああ。結婚の有無など、調べようと思わないとわからないものだからな」

「言われてみればそうですね」

「黙っていれば、誰も私とビーが夫婦であることなど気づかないだろう」

 このまま一年過ぎれば、誰にも気づかれずに離婚できるというわけだ。

「わかりました。では、婚姻関係については、私とエルツ様の秘密ということで、お願いします」

 そんなわけで私とエルツ様の夫婦関係は一年間継続されるようだが、おそらく何も変わらないだろう。

 このときの私はそう信じて疑わなかったのだった。

「ビー、このあとはどうするか?」

「私はイーゼンブルク公爵家の屋敷に行こうと思っています」

「では、送っていこうか」

「いいえ、少し風に吹かれたい気分ですので、歩いていきます」

「そうか。道中、気をつけるのだぞ」

 そんな言葉をかけるだけでなく、モモを召喚してくれた。

 モモは水が入った瓶を持っており、エルツ様へと差しだす。

『せんせ、こちらは謝肉祭当日に降った雨水でちゅ』

「ああ、ありがとう」

 どうやら雨水を採取できたようで、ホッと胸をなで下ろす。

「少し量が少ないが、まあ、時間をかければ解析できるだろう。感謝する、モモ」

 モモはぺこりと頭を下げた。

「このあとはビーをイーゼンブルク公爵家の屋敷まで送ってくれないか?」

『了解でちゅう』

 ここでエルツ様とはお別れである。転移魔法で研究室へと移動したようだ。

「ではモモ、イーゼンブルク公爵家の屋敷までお願いしますね」

『はい、ご一緒いたしまちゅ』 

 モモと一緒に外に出ると、思いがけない騒動にギョッとする。

 皆、何かから逃げるように走っているのだ。

「あっちに感染者がいるぞ!」

「移るぞ、逃げろ!」

 感染者というのは謝肉祭の病気を患っている人のことで、人々は感染を恐れているような言動を口にしていた。

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