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家を追放された魔法薬師は、薬獣や妖精に囲まれて秘密の薬草園で第二の人生を謳歌する(旧題:再婚したいと乞われましても困ります。どうか愛する人とお幸せに!)  作者: 江本マシメサ
二部・第二章 謝肉祭での大事件!?

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蜂蜜薬局、オープン!

 始まった瞬間に大勢の人々がやってくるのではないのか、と思っていたものの、この辺りはまったりとした雰囲気だった。

 ただ、しばらく経つとちらほらと客がやってくる。

 ここも賑やかになるのだろう、と思っていたが、出店側は誰も声かけしていない。

 客が声をかけてきたら応じる、みたいなやりとりを繰り返していた。

 始まって三十分ほど経ったが、誰も私の薬局に見向きもしない。

 このままでは興味すら持ってもらえないだろう。そう思って、目の前を通りかかった三十代くらいの貴族のご夫婦に声をかけてみた。

「いらっしゃいませ。風邪に効果がある魔法薬入りのお菓子はいかがでしょうか?」

 私の声に男性は反応したものの、女性は眉を顰めて不快だと言わんばかりの表情を浮かべる。

「このお嬢さんは魔法薬を含んだお菓子を売っているそうだ」

「魔法薬入りのお菓子ですって? 魔法薬なんて魔法医の許可がないと購入できないのに、どうしてこんなところで販売しているのかしら? 偽物でなくって? お菓子に入れるというのも、なんだか怪しいわ」

「あの、ここで売っているのは魔法医の許可が必要ない、強い成分を含まない魔法薬でして。食べやすいように、お菓子に入れております」

「効果が弱い魔法薬なんて、効き目があるわけないじゃないの」

「それは、そうかもしれませんが」

「それに私、減量中だからお菓子を食べたくないの!」

 女性はつん! と顔を背け、スタスタと歩いていってしまった。

 男性は申し訳なさそうに会釈したのちに去っていく。

「あ――……」

 がっくりと肩を落としてしまう。

 はじめての接客は失敗だった。けれども最初から上手くいくものなんてない。

 めげずに頑張ろう。

 続いて、家族連れが通りかかった。お子さんは六歳か七歳くらいだろうか。

 薬草クッキーを入れたジャーを発見し、嬉しそうに駆けてきた。

「わあ、お菓子がたくさんある!」

「ほらほら、走るんじゃないよ」

「危ないわ」

 キラキラした瞳を向けていたので、試食をするか聞いてみる。

「ししょくって、なあに?」

「おいしいか試しに食べることですよ」

「へえ、そうなんだ!」

 ご両親に問題ないか尋ねてみると、頷いてくれた。

 ジャーから薬草クッキーを取りだして差しだす。

「はい、どうぞ」

「わあ、いいの?」

「ええ」

「ありがとう」

 食べる前に、なんのクッキーか聞かれてしまった。

「チョコチップ? それともナッツが入っているの?」

「こちらは薬草クッキーと言いまして、薬草入りの体にいいお菓子なんですよ」

「ええ、お薬のクッキーなの? やだ、きらい!」

 そう言って薬草クッキーは返されてしまった。

「僕、向こうで売っていた雲みたいな飴を食べたい!」

 そんな言葉を残し、走り去ってしまう。

 女性が金貨を差しだしてきたが、試食を食べなかっただけだったのでお断りした。

 誰もいなくなった場所で、深いため息を吐く。

 試食作戦も大失敗だった。

 学んできたことがこんなにも役に立たないなんて。どうやって商品を売ればいいものか。まったく思いつかない。途方に暮れていたところ、隣でお守りを販売していた聖職者のウッド氏が話しかけてくれた。

「あの、イーゼンブルク公爵閣下、少しよろしいでしょうか?」

「なんでしょう?」

「大変言いにくいことなのですが、貴族のお客さんには声かけをしないほうがいいかもしれません」

「どうしてですか?」

「貴族というのは、商人を呼び寄せて品物を買います。そのため、商人側から声をかけられることに慣れていないと言いますか、なんと言いますか……その、彼らのほうから興味を抱いた品物しか購入しないと思うのです」

「そう、でしたね」

 基本的に、貴族は気まぐれにお店を訪れたのちに衝動買いというものをしない。

 何か必要な品があれば屋敷に商人を呼んで、買い物をするのだ。

 そのため、押し売りのような声かけは貴族相手には不遜に映ってしまうのだろう。

「最初のお客様を怒らせてしまった理由に、今になって気づきました」

「悲しいですが、商人としてあるときの地位は、お客様よりも格段に下なんですよね」

 ここが貴族向けに作られた商業スペースだったために起きた間違いだろう。

 きっとここ以外の一般市民向けの場所であれば、声かけや試食は効果があるのかもしれない。

「いやはや、今日のために徹夜で作った商品ですが、なかなか見向きもされないですねえ」

 ウッド氏の顔色は真っ青と言っても過言ではない。睡眠不足と疲労が溜まっているのだろう。

「よろしかったら、疲労回復効果のある魔法スープはいかがですか?」

「いいのですか?」

「ええ。売れそうにないので、ぜひ召し上がってください」

 試食用のカップにスープをたっぷり注ぐ。

 このカップは熱が通らない魔法が施されているため、握っても熱くないのだ。

「先ほどからいい匂いがするな、って思っていたんですよ」

 なんでも朝から食欲がなかったため、何も食べていないようだ。

 けれどもスープの匂いをかいでいるうちに、お腹が空いてきたそう。

「では、いただきます」

 ウッド氏は魔法スープをふーふー冷ましたのちに、ごくんと飲む。

 エルツ様以外に試食してもらっていなかったので、ドキドキしながら見守った。

 ウッド氏は目をカッと見開き叫んだ。

「おいしい!! あっさりしているのに味わい深くて、滋味が体の疲れに染み入ります!!」

 もう一杯飲みたいと言って、今度は購入してくれた。

「驚きました。一口飲んだだけで元気になっただけでなく、肩の凝りや腰の痛みも引いていったんですよ!」

「よかったです」

 二杯目もあっという間に飲み干し、とてもおいしいと大きな声で大絶賛してくれた。

 そんなウッド氏の反応を見ていた貴族男性が声をかけてくる。

「その魔法スープ、私にも売ってくれないか?」

「私にも」

 あっという間にお店の前には行列ができ、飛ぶように魔法スープが売れた。

 これは試食作戦の成功と言っていいのか。

 その後も店の近くで魔法スープは絶賛され、それを見た人達が行列に並んでくれる。

 一時間ほどで魔法スープは完売となった。

「ウッドさんのおかげで、魔法スープが完売しました。ありがとうございます」

「私のおかげではありませんよ。イーゼンブルク公爵閣下の作る魔法スープがすばらしかっただけです」

 もしかしたらウッド氏は私のために大きな声で魔法スープの感想を言ってくれたのかもしれない。心遣いに感謝することとなった。

 魔法スープの完売を喜んでいたのもつかの間のこと。

 完売後は再び閑古鳥が鳴いてしまう。

 子ども相手に商売することを考えていた魔法プリンは一つも売れていない。

 どうしたものか、と頭を抱えてしまう結果となった。


 あっという間にお昼を迎える。ウッド氏は昼食を食べるために一度教会に戻るらしい。

 盗まれたら大変なので、商品は丁寧に鞄に詰めていた。

 そういえば、商品はここに置いておけない。鞄や箱に詰める作業だけで、一時間はかかってしまいそうだ。それに、移動のためにグリちゃんを召喚するのも申し訳ない。

 昼食は薬草クッキーで済ませよう。エルツ様へは魔法で手紙を飛ばして、行けない旨を説明すればいいのだ。

 周囲で商店を開いていた店主達が次々といなくなる中、私は一人で薬草クッキーをかじる。

 こんなにおいしいのに、受け入れてもらえないなんて。

 なんとも切ない気持ちになってしまった。

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