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家を追放された魔法薬師は、薬獣や妖精に囲まれて秘密の薬草園で第二の人生を謳歌する(旧題:再婚したいと乞われましても困ります。どうか愛する人とお幸せに!)  作者: 江本マシメサ
二部・第一章 イーゼンブルク公爵として

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思いがけないアイデア

 どうすれば子どもに魔法薬を受け入れてもらえるのか。エルツ様と一緒に考える。

「錠剤にしてみるとかどうでしょう?」

「いや、丸呑みを前提とする錠剤を苦手にする患者も多い」

 基本、魔法薬は水薬だが中には錠剤もある。

「なんでも喉に引っかかる感じが不快らしい」

「それは大人の患者さんの話ですか?」

「そうだ」

 細かく砕いて処方するよう指示を出したところ、薬の角が喉に突き刺さるようで飲みにくい、と言われたようだ。

「そ、そんなに錠剤は問題があるのですね」

「まあ、個人によるだろうがな」

 ただそういったことを訴えてくるのも、一人や二人ではないという。エルツ様が受け持つ患者さんの中には我慢をして飲んでいる者もいるかもしれない。

 大人でさえ飲み込むことを難しいと感じるのであれば、子どもはそれ以上の拒絶反応を出すだろう。

「子どもに受け入れてもらえる魔法薬を考えているのに、大人の意見が参考になるなんて、なんだか不思議ですね」

「あの者達の発言は幼子と変わらぬからな。反映させても問題なかろう」

 錠剤が難しいとなれば、もうひとつの案がある。たった今、思い出したのだ。

「私が幼いころに両親がやっていたのですが、魔法薬にシロップを入れて飲むんです」

「ああ、なるほど。その手があったか」

 甘くて飲みやすくなる一方、シロップと相性の悪い苦い魔法薬はおいしいとは言えない。

「変な後味が残るんですよね。好んで飲みたいと思うものではなかったかと」

「そうだったのだな」

 ただ、問題はそれだけではないだろう。

「一度目は騙されても、二回目から嫌がる子がいるかもしれませんね」

「その可能性はおおいにある」

 子どもは賢いもので、一度拒絶したものは大人になっても覚えているものだ。

 私もシロップ入りの魔法薬の味わいが微妙だったので、今でも記憶にあるのだろう。

「それにしても、幼少期のビーは魔法薬が飲めなかったとはな。意外だ」

「小さい頃からごくごく飲んでいたイメージでしたか?」

「ああ」

 そんなわけない。私にも魔法薬の味わいが受け入れられず、しぶしぶ飲んでいた時代があったのだ。

「子どもが進んで飲みたがるような魔法薬か。考えれば考えるほど難しいな」

「ええ。お菓子のようなおいしいものであれば、パクパク食べてくれるでしょうけれど」

 ここでエルツ様がハッとなる。

「ビー、それではないのか!?」

「それ、ですか?」

「ああ!」

 ピンときていない私にエルツ様が答えへ導いてくれる。

「魔法薬を使って菓子を作るのだ! さすれば子ども達も受け入れることができよう!」

「ああ、なるほど!」

 魔法薬でお菓子を作るなんて、これまで思いつきもしなかった。

「ただ、お菓子にしたら使用期限が短くなってしまう問題もありそうですが」

「入院患者にはいいのかもしれないな」

「ええ」

 風邪を引いている人達は謝肉祭になんか行かずに、家で休んでいるだろう。

「ただ、家にいる家族へのお見舞いとしてならいいかもしれないですね」

「それもそうだな」

 謝肉祭のシーズンは風邪を引く人が多いというので、患者への持ち帰り用としてだったら売れるかもしれない。

「風邪薬以外にも販売したらどうだろうか? たとえば、滋養強壮効果のあるものとか」

「いいかもしれません」

 謝肉祭に参加し疲れた人に売れそうである。元気になることが目的であれば、販売ターゲットは大人にしたほうがよさそうだ。

「甘いものが苦手な人のために、滋養強壮効果のある魔法薬入りスープ、とかいいかもしれません」

「よく売れそうだ」

 エルツ様と話したおかげで、いいアイデアがいくつも浮かんだ。

 深く感謝しなければならないだろう。

「エルツ様、ありがとうございました。おかげさまで、いろいろと方向性が固まってきました」

「そう言ってくれると嬉しい」

 謝肉祭は半月後。さっそく試作品作りをしたい。

「ビー、試食係が必要であれば、私が務める。いつでも呼ぶといい」

「いいのですか?」

「ああ。私はビーが作るありとあらゆる物の愛好家だからな」

 愛好家であれば何を食べてもお気に召すのではないか、と思ったものの厚意はありがたく受け入れよう。

「試食係の対価はどのようなものをご所望ですか?」

「必要ないのだが――いいや、では、謝肉祭のひとときでいい、一緒に過ごしてくれないか?」

「そんなものでいいのですか?」

「そんなものではない。大層な対価だ」

 謝肉祭は人でごった返すと言うが、エルツ様と一緒ならば安心して回れるだろう。

「わかりました。では、ご一緒させてください」

「感謝する」

 そんなわけでエルツ様と謝肉祭に参加することとなる。

 その後、帰宅を果たした私は隠者の隠れ家エルミタージュで試作作りを始めることにしたのだった。


 ◇◇◇


 まず考えたのは魔法薬入りのチョコレート。

 甘みの強いチョコレートに混ぜてしまったら、魔法薬の苦さも気にならなくなるのではないか、と思ったのだ。

 さっそく作って食べてみたのだが――。

「うっ、苦い!!」

 しっかり丁寧に混ぜ合わせたのがよくなかったのか、噛むたびに魔法薬の苦さが伝わるような味わいになっていたのだ。

 ならば甘みではなく酸味で苦みを打ち消すよう、果物などと合わせたものをジュースにしてみた。これに関しては味以前に問題が発生し、果物の酸味が薬の効果を分解し消滅させていたようだ。

 食べ合わせの歴史について書かれた書物などで詳しく調べたところ、果物の中には魔法薬の効果を強めてしまう作用があり、めまいや頭痛、体のほてりなどの悪影響を及ぼす物もあった。

 鑑定結果を前に私は愕然とする。

 まさか果物と魔法薬の相性が悪かったなんて、夢にも思っていなかった。

 苦い魔法薬を甘いお菓子にすること自体が問題だったのか。

 凝り固まった思考を解すため、滋養強壮効果のあるスープ作りを始めてみた。

 丸鶏と野菜を煮込んでコンソメを作り、そこに元気になる薬草と魔法薬を混ぜ合わせる。

 こちらは薬とスープの相性がいいのか、おいしいものが仕上がったように思える。

 実際に飲んでみると、疲れがしっかり回復したような気がした。

 これは売れるだろう。そんな自信があった。

 スープのおかげで気持ちがリセットされたからか、いい案がパッと閃いた。

 甘いお菓子がだめならば、苦みのあるお菓子と合わせてみればいいのだ。

 閃いたのは、魔法薬を混ぜたカラメルを混ぜたプリン。

 鑑定魔法で調べても、もともとの魔法薬の効果は損なわれていない。

 味もおいしかった。

 これならば、魔法薬が苦手な子どもにも受け入れてもらえるだろう。

 エルツ様にも試食してもらったがおいしい、と絶賛してくれた。

 そんなわけで、謝肉祭で売る魔法薬のメニューが決定する。

 滋養強壮効果のある魔法スープと、風邪を回復させる魔法プリンの二点をメインの商品にしよう。

 他にも薬草クッキーや薬草ドリンクなど、ちょっとした食べ物や飲み物を販売する予定だ。

 売れるかドキドキしてしまう。謝肉祭当日が楽しみだ。

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