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驚きの薬

 郊外にある教会からグリちゃんに乗って王都へ飛んでいく。

 神父様に教えてもらった、薬局があるという下町に下ろしてもらった。

 魔法薬が販売される魔法薬局は中央街にあるものの、通常の薬局は下町のひっそりした路地裏にあった。

 薄暗い道を通った先に、〝リーフ薬店〟と書かれた薬局を発見する。

 建物には蔦が張っていて、軒先にぶら下がった看板はかなり古びている。窓は磨かれておらず曇っていて、店内の様子を見ることはできなかった。

 営業しているのかも怪しい中、ドアノブを捻ってみると扉が開く。

 チリンチリンと鐘が鳴るも、いらっしゃいませ、の声はなかった。

 誰もいないのかと思いきや、奥にある精算台の奥に白髪頭のお婆さんがいた。どうやら眠っているようで、私がやってきたことに気づいていないようだ。

 目的もないのに店内を眺めていたら怪しまれるので、好都合であった。

 それにしても、すごい品数だ。症状ごとに薬は作られているようで、風邪薬に解熱剤、鎮痛剤に整腸薬、消化剤などがずらりと並べられている。

 魔法薬は瓶に詰められているのだが、ここで売られている薬は紙に包まれた状態で販売されていた。

 魔法薬は主に怪我の治療に特化したものが多いが、一般的な薬は病気に特化しているのだろう。

 鑑定の魔法でどの程度の効能があるのか調べてみる。手に取ったのはお店の売れ筋であろう風邪薬。お値段は銅貨五枚とかなりお手頃である。果たして、どの程度の回復力があるのか気になるところだ。

 お店のお婆さんを起こさないように、可能な限りの小声で鑑定魔法の呪文を唱えてみる。

「――見定めよ、鑑定アナライズ

 魔法陣が浮かび上がり、目の前に風邪薬の効能が表示される。


 名称:疲労回復薬

 効果:少しだけ元気になる


「え!?」

 想定外の効能に思わず大きな声をあげてしまう。

「ん? 客かい?」

 私の声でお店のお婆さんを起こしてしまったらしい。

「あんた、貴族じゃないか?」

「あ、その、はい」

「ここは貴族様の来るような店じゃないよ」

 迷惑そうな声色だったのを察し、手元にあった薬を数本掴むとお代として銀貨一枚を差しだした。

「これ、ください。おつりはいりませんので!」

「え? まあ……いいか。まいど」

 お店のお婆さんはしぶしぶといった感じで薬を紙袋に詰めてくれた。

 すぐさま受け取って店を出る。

 やっぱり返してくれ、と言われたら大変なので、私は路地裏を走って開けた場所でグリちゃんを呼び、隠者の隠れ家エルミタージュに帰ったのだった。


 帰宅後、他の薬も調べてみた。

 先ほど調べた風邪薬と同じように、紙に書かれた名称とは異なる効能が表示された。

 そのほとんどが少しだけ元気になる、みたいな感じだったのだ。

 思わず頭を抱える。

 まだ疲労回復するものはいいが、中にはただの小麦粉とかただの苦い薬草を粉末状にしたものなども混ざっていた。

 先ほど神父様が薬はあまり効かないと言っていたのだが、まっとうな薬が販売されていなかったので、効果がないのも無理はないのだろう。

 いったいいつから薬局はこのような状況だったのか。考えただけで頭が痛くなった。

 ひとまず病気に特化した魔法薬を作る必要がある。

 即効性のある強い魔法薬は魔法医の処方箋がないと調合してはいけないことになっている。

 今回作るのは効果と原価をぐっと抑えた、下町の人達が入手しやすい魔法薬だ。

 材料は庭で栽培した低位のヒール薬草、抗菌力が強いタイム、セージ、抗炎症作用が期待できるネトル草を魔法で調合していく。

 材料を細かく刻んで大釜で煮込み、最後に魔法で調合させる。

「――調合せよフォーミュレイト!」

 液体は輝きを放ち、魔力を浸透させる。

 無事、成功したのでホッと胸をなで下ろした。

 一度で大量に作ったので、材料費含めて銅貨七枚以内に収まった。

 人件費は含まれていないものの、今回以上に大量に調合できたら利益もできるだろう。

 下町の風邪薬より高いが、効果を実感してもらえば安いものだろう。

 また、価格に差をつけて競合しないためでもある。

 そんなわけで低位の風邪ポーションの完成だ。

 あとは瓶に詰めて下町で販売してみよう。

 季節風邪は春先に流行るので、きっと必要としている人達はたくさんいるはず。

 全部で二十本くらい作ったが、足りるだろうか。

 路上で商品を売るのは初めてだ。おつりも作ったほうがいいだろう。

 粗熱が取れた風邪ポーションを瓶に詰めていると、アライグマ妖精の姉妹であるムクとモコ、モフが覗き込んできた。

『何しているの~?』

『お手伝いある~?』

『お仕事やらせて~?』

「ありがとうございます。助かります」

 風邪ポーションの瓶詰め作業は彼女達に任せ、私は街に出る支度を始める。

 本日二回目の王都への移動になるが、グリちゃんは快く引き受けてくれた。

 先ほどは貴族だとバレて気まずい雰囲気になったので、庭仕事用に購入した古着のワンピースにくたびれた外套を合わせてみる。頭巾を深く被ったら、下町にも馴染むだろう。

 綿埃妖精が一緒についてきてくれるようで、風邪ポーションの入ったかごの中に飛び込んできた。一人では不安だったので非常に助かる。

『一緒にいくよ~ん』

「ありがとうございます、心強いです」

 風邪ポーションの瓶詰めが終わったアライグマ妖精の姉妹に、王都に出かけてくると伝えておく。

『夕飯、作ってるね』

『早く帰ってきてね』

『待っているから』

 アライグマ妖精の姉妹に見送られ、私はグリちゃんに乗って隠者の隠れ家エルミタージュを発ったのだった。 

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