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家を追放された魔法薬師は、薬獣や妖精に囲まれて秘密の薬草園で第二の人生を謳歌する(旧題:再婚したいと乞われましても困ります。どうか愛する人とお幸せに!)  作者: 江本マシメサ
二部・第一章 イーゼンブルク公爵として

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ベアトリスの選択

 王宮にあるお祖父様の薬局について、何度か話を聞いたことがあった。

 建物の近くに大きな樹があって、幹を通じてさまざまな薬獣が出入りし、仕事を振り分けていたようだ。

「ここにいるリス妖精の一部は、グレイの薬局で働いていた薬獣だった」

「そうだったのですね」

 お祖父様が王室典薬貴族の座を返上するさい、リス妖精達は隠者の隠れ家エルミタージュに送ったのだろう。

「王宮薬局については、エルツ様が提案してくださったのですか?」

「そうだが、もともとは陛下が新しいイーゼンブルク公爵であるビーに何かしたい、と言ったのがきっかけだ」

 王宮に薬局をいただけるなんてとても光栄なことだ。さらにそこがお祖父様がもともと使っていた薬局となれば、喜びも倍増である。

「ただ、ザルムホーファー魔法薬師長はよく思わないのではないでしょうか?」

 王宮に薬局を持てるのは王室典医貴族の中でも魔法薬師長の特権である。

 なんの実績もない私が同じように薬局を構えたら、面目を潰してしまわないか心配だ。

「陛下の決定に意見などできるわけがないだろうが。それにザルムホーファー魔法薬師長は仕事を抱えすぎて間に合っていなかったではないか」

 それはオルコット卿の治療のことを指摘しているのだろう。

 ただそれは、オルコット卿の命を狙う者達の妨害も入っていたのだ。

「オルコット卿のことだけではない。彼以外にも、魔法薬を待っている者が複数いるようだ」

 調合が難しい魔法薬については弟子に任せず、ザルムホーファー魔法薬師長が作らなければならない。そのため、どうしても魔法薬を待つ時間が発生してしまう。

「さらに、王族が病気になれば、そっちが優先となる。それを陛下は申し訳なく思っているようで、薬局をもうひとつ構えてもいい、とお考えのようだ」

「そういうわけだったのですね」

 魔法薬師にとって大切なことは、魔法薬を患者さんに一秒でも早く渡すことだ。

 周囲の人の目を気にしている場合ではないのだろう。

 それにせっかくの好意なのだ。ありがたく受け入れよう。

「わかりました。薬局の件につきまして、場所をいただけたらなと思います」

 その返答にエルツ様は満足げな様子で頷いていた。

「これで、私とビーの立場は対等となったな」

「いえいえ! そんなわけありません! エルツ様は雲の上にいらっしゃるようなお方です!」

 そんな言葉を返すと、エルツ様は捨てられた子犬のような表情を浮かべる。

「王宮に医局を持つヴィンダールスト大公である私と、薬局を持つイーゼンブルク公爵であるビー、同じではないのか?」

「同じではありません。エルツ様は王室典医貴族の魔法医長ではありませんか」

 それに王宮で働いていた実績も天と地ほどの開きがあるだろう。

「ならば、ビーが王室典薬貴族の魔法薬師長に納まればいいのでは?」

「なっ――! それは現在、ザルムホーファー侯爵家とザルムホーファー魔法薬師長が所有するものですので、私が手にできるものではありません!」

 エルツ様はなんてことを言うのか。信じがたい気持ちでいたのに、当のエルツ様は小首を傾げ、意味がわからないとばかりの表情を浮かべている。

「もともと王室典薬貴族の座はイーゼンブルク公爵家のものだろうが。グレイが自分の孫が血縁でなかったので手放しただけに過ぎない。再び血縁者がイーゼンブルク公爵となれば、取り返してもなんら不思議ではないのでは?」

 お祖父様は王室典薬貴族の座を明け渡したさいに、契約などは交わしていない。そのため返してくれと訴えても、わかりましたと言って返還してもらえるものではないだろう。「ビーが王室典薬貴族の座を望むのならば、私が取り返してやるが?」

「いえいえ、とんでもない。私には過ぎたものです!」

 それに王室典薬貴族を取り返したら、それこそザルムホーファー魔法薬師長の不興を買ってしまうだろう。

 イーゼンブルク公爵と王宮薬局を手にできただけでも欲張りな話なのに、あれもこれもと手にしてはいけない。

「ひとまず王宮薬局についての手続きをしておくから、もうしばらくゆっくり休んでおくとよい」

「いいのですか?」

「ああ。その代わり、薬局が認められたあとは、忙しくなるぞ」

「わかりました」

 その後、エルツ様と食事をし別れた。

 一人になると夢心地というか、フワフワした気分になる。

 お祖父様の薬局はどんな場所なのか。メモの一つでもいい。何か残されていたら嬉しい。

 その日は珍しくなかなか寝付けなかったので、昼間に作ったデーツの黒糖ミルクを飲んで眠ったのだった。


 ◇◇◇


 翌日、私はグリちゃんに乗ってお祖父様のお墓参りに行った。

 王宮薬局を引き継ぐことになったのを報告したのだ。

 今日もお祖父様の墓前にはスノードロップの花があった。お祖父様の友人がお墓参りにやってきたのだろう。

 スノードロップは冬に咲く花なのだが、この花はわざわざ温室で育てているらしい。

 神父様に話を聞いていたのだが、お祖父様と友人の思い出の花なのだとか。こうしてお墓参りにきてくれることはありがたい。

 友人について、少し話を聞いてみようか。知人だったら感謝の手紙を送りたい。

 神父様に話を聞きに行ったのだが、意外な情報が明らかとなる。

 なんとその友人は足を悪くしているようで、途中から代理の人がスノードロップを持ってきているようだ。

 名前も把握していないため、スノードロップを毎回持ってきてお供えしている、という情報しかわからないという。

「申し訳ありま――げっほ、げっほ!!」

 神父様は鼻先や目を真っ赤にし、辛そうな様子だった。

 なんでも今のシーズンはくしゃみや鼻水、発熱などの症状が現れるらしい。

「いやはや、王都にやってきてからこういった症状はなかったのですが、ここ三年くらい特に酷くて……。私も年なんですかねえ。いやはや、目は痒いし鼻水は止まらないし、大変なんです」

 もともと神父様は南のほうにある農村地帯出身で、毎年のように春先は体調の不調に悩まされていたらしい。

「王都にやってきてから、健康になったと思っていたのですが」

 医者にかかっても季節風邪だと言って、そのまま家に帰らされるようだ。

「お薬は処方されないのですか?」

「病院ではしないですね。自分で王都の下町にある薬局に行って購入します。ただ――」

 神父様は遠い目をしながら薬について語る。

「なんだか薬を飲んでも、効果がある気がしないんですよねえ。飲みやすい液体状の魔法薬と違って、通常の薬はほとんど散薬こなぐすりで、死ぬほどまずいんですよ」

 そのため、お医者さんにかかった人のほとんどが薬を飲まずに、ひたすら療養をして自力で治すらしい。

「一度、魔法医の先生にかかってみてはいかがですか? 症状によっては、魔法薬で治せますから」

「そうですね……。少々高価ですが、具合が悪くなって長期にわたって仕事を休むよりはいいかもしれません」

 魔法医にかかると診察と魔法薬代が多くかかるので、最初から選択肢にない人が多い。

 その辺の問題とも、向き合わないといけないだろう。

 このまま帰宅する予定だったが、王都の薬局にお邪魔してみよう。

 いったいどのような値段帯で薬が販売されてるのか、気になるところだ。 

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