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パーティーのお誘い

「祖父の部屋には何かありましたか?」

「いや、謎の解明に繋がりそうな物は何もなかったが、不可解に思う物ならば発見できた」


 それは、伯父と伯母、幼少期のオイゲンが描かれた肖像画だったらしい。


「他の肖像画はそのまま置かれていたのに、その一枚だけ、布がかけられていたんだ」

「ああ、そういえば、そのような品が祖父の書斎にありましたね」


 以前までは普通に飾られていたのに、十年前くらいだったか、伯父が亡くなったあとのある日を境に布が被されるようになっていたのだ。

 きっとお祖父様は何か思うところがあってやったのだろうと思い、触れずにいたのだが……。


「一応、額縁の中に何か隠されていないか確認したものの、何も見つからなかった」

「亡くなった伯父の顔を見るのが、辛くなっていたのでしょうか?」

「どうだろうか?」


 その理由はお祖父様のみが知りうることなのだろう。


「せっかく体を張ってくれたのに、成果がなくて申し訳ない」

「いいえ、そんなことはありません。協力していただいただけでもありがたかったです」


 お祖父様が大事にしていた懐中時計も、オイゲンから譲ってもらった。

 感謝してもし尽くせない。

 と、うっかり長話をしてしまった。そろそろおいとましたほうがいいだろう。

 グリちゃんと一緒にエルミタージュへ帰ろうとしたところ、エルツ様から引き留められる。


「ベアトリス、少しだけいいだろうか?」

「なんでしょう?」


 言葉を返す代わりに、封筒が差しだされた。


「こちらは?」

「一ヶ月後に開催される、クリスタル・エルフの始祖の、生誕千五百年記念パーティーの招待状だ」


 国王陛下主催のパーティーらしい。


「クリスタル・エルフの始祖は千五百年も生きてらしたのですね」

「みたいだな。通常、エルフ族は千年ちょっとしか生きないようだが」


 新しい子孫が生まれるたびに、寿命が延びたと話しているようだ。


「国王がクリスタル・エルフの始祖に話を持ちかけた当初、参加したくないと言いだしたらしく」


 エルツ様も国王陛下と一緒に説得したらしい。


「最終的に、クリスタル・エルフの始祖は、私が参加するのであれば、顔を出さなくもない、と言ったらしい」


 エルツ様はもともと人の多い場所が嫌いで、夜会などに顔を出したことはなかったようだ。


「そもそも私は研究畑の人間だからな。光が当たらない、静かな場所を好んでいるのだ」「わかります」


 私も日当たりがほどよい部屋で書類を整理するよりも、地下の製薬室で魔法薬を調合しているほうが落ち着く。

 意外なところでエルツ様と趣味が合ってしまった。


「話が逸れたな。それで、クリスタル・エルフの始祖の生誕パーティーに参加しなければならないのだが、正直に言うと気が乗らない。それで――」


 エルツ様の視線は私に手渡した招待状に注がれる。


「ベアトリスが一緒に参加してくれるのであれば、嫌な気持ちも吹き飛ぶような気がする」

「私がご一緒しただけで、お力になれるかどうか……」

「絶対になれる!」


 力強く主張するので、思わず笑ってしまった。


「その、無理であれば、強制はしないが」


 少しションボリとした様子を見せるのは反則だろう。

 しかし、気分転換にこういった場所に参加するのもいいのかもしれない。


「祖父が亡くなってから一年経ちましたし、喪は明けました。そろそろ皆の前に姿を現しても問題ないのかな、と思っています」

「ということは、参加してくれるのか?」

「私でよければ」

「何を言っている。そなたしかいないのに」


 招待状を封筒から取り出すと、ふたつ折りのカードが入っていた。

 開くと、魔法陣と共にゆるいタッチで描かれたカラスが浮かび上がる。


『カアカア! 参加しますカア? しませんカア?』


 選択できる文字が浮かび上がる。どうやら魔法で参加の可否を尋ねてくるらしい。


「喜んで、参加します」

『カアカア! 了解しましタア!』


 続いて、ドレスコードが発表される。


『カアカア! パーティーには、面白い恰好で、参加するんだナア!』

「お、面白い恰好ですか?」

「クリスタル・エルフの始祖はまた、ふざけたことを言ってからに……」


 エルツ様も招待状がこのような魔法仕掛けであることを把握していなかったらしい。


「その、承知いたしました」


 返事をすると、カラスは消えてなくなった。

 これだと招待状に対する手紙を書かなくていいので、楽かもしれない。

 ただ問題は、これまで聞いたことのないドレスコードだろう。


「エルツ様、面白い恰好というのは、具体的にどのようなものだと思いますか?」

「そうだな……。たとえば、カメの甲羅を自作して、背負って参加するとか」

「それはちょっと面白いかもしれませんね」


 つまり、奇想天外な姿で登場すればいいというわけだ。


「せっかく一緒に参加するのだから、何か揃いの衣装を用意したいのだが」

「いいですね! ぜひ!」


 ヴィンダールスト大公家御用達の店があるようで、そこにオーダーしてくれるようだ。


「寸法の合ったドレスを一着用意してくれたら、それから採寸を取って作ってくれるだろう」


 明日にでも出勤するときに持ってきたら、服飾店に持っていってくれると言う。


「何かやりたいテーマがあれば、デザイナーに伝えておくが」


 先ほどのカメの仮装に興味が湧いたが、エルツ様に甲羅を背負わせるわけにはいかない。


「そうですね……」

「無理にひねり出す必要はないが」


 何かあるだろうか、と窓の外を眺めた瞬間、蜜蜂が飛んでいった。

 ここでピンと閃く。


「蜜蜂と養蜂家をイメージした服はいかがでしょう?」

「なるほど、いいな」

「エルツ様が蜜蜂で、私が養蜂家を」

「逆だ。蜜蜂になるベアトリスを見てみたい」


 養蜂家だと顔が隠れるので、目立たなくてもいい、とエルツ様はお気に召したようだ。

 そんなわけで、蜜蜂のおかげでテーマがあっさり決まった。


「パーティー当日を楽しみにしておこう」

「はい!」


 人生に楽しみができるなんて、とても久しぶりである。

 オイゲンと離婚したばかりの私が登場したら皆が驚くだろうが、招待客のほとんどは身内なので心配はいらないとエルツ様は言ってくれた。


 エルツ様と別れ、グリちゃんと共に家路に就く。

 帰宅早々、私は懐中時計の手入れを開始することにした。

 オイゲンが付けた汚れなど、一刻も早くきれいにしたかったからだ。


 銀が黒く変色するのは〝硫化〟と呼ばれ、多くは人が触れたさいの汗が原因となる。

 そのため、お祖父様は絶対に素手で懐中時計に触れなかった。

 お祖父様が懐中時計の手入れをしているところを目にしていたので、きれいにする方法は把握している。

 軽銀鍋に重曹と水を入れ、湯を沸かす。

 懐中時計の蓋と底は外れるので、本体から離して鍋に入れるのだ。

 洗い流すように左右に揺らすと、細工の隙間に溜まった汚れも落ちるような気がする。 数分放置したのちに重曹湯から上げ、やわらかな布で拭き取ると、汚れも一緒に取れるのだ。

 あっという間に、懐中時計の汚れは落ちた。

 外した蓋と底を戻そうとした瞬間、本体に魔法に使う古代文字が刻まれているのに気付いた。


「――あら?」

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