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家を追放された魔法薬師は、薬獣や妖精に囲まれて秘密の薬草園で第二の人生を謳歌する(旧題:再婚したいと乞われましても困ります。どうか愛する人とお幸せに!)  作者: 江本マシメサ
第一章 離縁状を突きつけられました!

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引越祝いのパーティー

 翌日――アライグマ妖精の姉妹が薬瓶に詰めたヒール・ポーションを持ってきてくれた。


「ムク、モコ、モフ、ありがとうございます」

『いえいえ』

『お安い御用だよ』

『お手伝い、楽しかったー!』


 薬瓶をひとつ手に取り、太陽に透かして見る。すると、ヒール・ポーションがキラキラと輝いた。

 ハイクラスのヒール・ポーションは見た目からも、他のクラスの物とは異なるようだ。

 

「さて、これからどうしたものか……」


 高品質のヒール・ポーションとなれば価格も高価になるので、下町や中央街にある薬局は買い取ってくれないだろう。

 となれば、残るは貴族が出入りする薬局しかない。

 懇意こんいにしている店は複数あるものの、どの店もオイゲンと親しい貴族が経営していたはず。

 

「うーん」


 イーゼンブルク公爵家の屋敷を出て、早くも二日経ったのだが、私とオイゲンの離婚は新聞で報道され、広く知れ渡っているに違いない。 

 薬の販売には魔法薬師の身分証を示さなければならないので、私がやってきたとバレてしまうだろう。

 なんとなく、オイゲンに近況を知られたくなかった。これといった理由はないが、それとなく嫌な予感がするのだ。


 しばらく時間を置いたほうがいいかもしれない。

 そう思って、ヒール・ポーションの在庫は地下にある棚に保管することとなった。


 庭で薬草摘みでもしようか。なんて思って扉を開いた瞬間、目の前に山鳩が落ちてきた。


「きゃあ!」


 それに続くように、セイブルが下りてくる。


『ベアトリス、引越祝いだ!』

「お気持ちは大変嬉しいのですが、突然目の前に山鳩とあなたが降ってきたら驚いてしまいます」

『それは悪かったな』


 セイブルが仕留めたのは、まるまると肥えている雌の山鳩である。

 なんでもセイブルが森で仕留めてきたらしい。


「あなた、すばらしい猟の才能があったのですね」


 褒めると、セイブルは胸を張って誇らしげな様子でいた。


『お前、山鳩が好物だっただろう?』

「それはそうですが」

『もう一羽必要だったら、獲ってくるが』

「いいえ、一羽で十分です」

  

 セイブルの気持ちはとても嬉しいのだが、問題はどうやって食べるか、である。

 そのままの状態で贈られたのは生まれて初めて。当然ながら、山鳩の解体方法なんて知るわけがない。

 困っていたらリス妖精がやってきて、ありがたい申し出をしてくれる。


『その山鳩、捌いてやろうか?』

「解体ができるのですか?」

『ああ』


 何代か前の当主の趣味が狩猟だったようで、解体の手伝いをするうちに覚えたらしい。

 セイブルもその当主から猟を習ったようだ。


『懐かしいな。あいつ、獣から採った血で作る魔法薬ばかり調合していたな』

『血の一滴さえも無駄にしない、魔法薬師だったな』


 血を使って作る魔法薬と言えば、毒ばかりだ。

 山鳩の血からも、強い毒薬が作れる。

 その昔は、王族の命令で毒を含んだ魔法薬を作るよう、命令があった、なんて話を耳にした覚えがある。

 ここ最近は、そのような命令はなかったようだが。

 何はともあれ、過去にとんでもないイーゼンブルク公爵がいたようだ。


 セイブルとリス妖精は昔話に花を咲かせながら、山鳩の解体作業を進めていく。

 まずは羽根をむしり取る作業から始める。リス妖精は慣れた手つきで、羽根を抜いていった。

 私もここで暮らす以上、猟肉を口にする機会が増えるだろう。解体方法を習得するために、リス妖精の動きを集中して眺める。それに気付いてくれたからか、リス妖精は解体のコツを教えてくれた。


 始めに、魔法で血抜きを行うらしい。

 リス妖精は木の枝を使い、地面に魔法陣を描く。

 呪文を唱えると、全身の血が粒状に浮かび上がってきた。

 それを瓶に詰めたものを、魔法薬作りに使えるから、と言って手渡してくれた。

 続いて解体に移る。


『羽根を毟るときは、皮膚を破らないように』


 あとから皮膚の表面を火で炙り、細かい毛を焼く作業が入るようだ。

 皮膚が破れると、肉にも火が通ってしまうため、細心の注意を払いながら毛を毟るらしい。

 それから死後硬直が進むにつれて、毛が毟りにくくなるので、手早く作業を行うことも大切だと教えてくれた。


『すでにカチコチになっている場合は、少し湯に浸けると羽根が毟りやすくなるぞ』

「勉強になります」


 続いて両翼と首の付け根を切り落としたら、残りの羽根を炙って焼いていく。

 足を切り落としたあとは、肋骨の下にある腹部にナイフを入れ、内臓を取り出す。

 

『砂肝と心臓、肝臓は、きれいに洗ってくれ』

「は、はい」


 わずかな温もりが残る内臓を水で洗う。命に感謝しなければ、と改めて思った。

 

『もも肉と胸肉を切り分けておいたぜ』

「ありがとうございます」


 今日はこれで、ピジョン・パイを焼こう。

 パイは時間がかかるので、早速調理に取りかかった。


 まずはペイストリー生地から作ろう。

 小麦粉とバター、塩、卵に水を加えながら練っていく。生地がなめらかになったら、濡れ布巾を被せ、しばらく休ませておこう。

 次に、パイの具を作る。

 先ほどリス妖精が解体してくれた山鳩のもも肉と胸肉を包丁でひき肉状にする。

 庭で採れた臭み消し用のローズマリーとタイムも加え、塩、コショウをしっかり利かせておいた。味を馴染ませるために、これもしばし置いておく。


 山鳩のガラで出汁を取ったスープも作る。具は細かく刻んだ内臓もつだ。

 これにも薬草をたっぷり入れて、滋養分に富むスープにした。


 休ませておいたペイストリーは薄くのばし、バターをたっぷり塗ったパイ皿の底に広げたあと、底をフォークで突き刺し、火が通りやすいよう穴を空けておく。

 縁にかかった生地は切り落とし、形を整える。

 そこに先ほど作った具を詰めたあと、薄くのばしたペイストリーで蓋をした。

 細長く切ったペイストリーで編み目を作ったあと、卵黄を塗ってじっくり焼くのだ。


 四十分ほどキッチンストーブで加熱したら、ピジョン・パイの完成だ。

 食卓にテーブルナプキンを広げ、皿やナイフ、フォークなどを並べていく。

 庭で摘んだアイリスを花瓶に活け、引越祝いのパーティーらしい雰囲気を作ってみた。

 アライグマ妖精の姉妹やセイブル、綿埃妖精のカトラリーも用意してみる。

 椅子を引いてあげると、アライグマ妖精の姉妹は招待客らしく、恭しい態度で腰かけてくれた。

 彼女達には、魔宝石の粒をごちそうする。

 セイブルは何も食べないのだが、気持ちだけ受け取ってもらおうと思い、ピジョン・パイを切り分けてあげた。

 綿埃妖精は私と同じように、料理を食べられる。そのため、ピジョン・パイを大きく切ってあげたら、喜んでくれた。


「それでは、いただきましょうか」


 ムクが赤ワインが注がれたグラスを掲げ、モコが『新しい暮らしに』と言い、モフが『かんぱ~い!』と元気いっぱいに叫んでくれた。


 グラスを軽く重ねたあと、さっそくピジョン・パイをいただく。

 ペイストリー生地はサクサクで、バターが豊かに香る。

 山鳩のお肉はあっさりしているけれど、噛めば噛むほど旨みを感じた。

 スープはコクがあって、ホッとするような味わいだった。


 綿埃妖精はピジョン・パイがお気に召したようで小躍りしていた。

 セイブルの皿に盛り付けた分も、綿埃妖精が食べてくれる。


 アライグマ妖精の姉妹も楽しそうに魔宝石の粒を食べていた。

 賑やかで楽しい引越祝いを、じっくり堪能したのだった。

 


 ◇◇◇


 エルミタージュにやってきてから、早くも一ヶ月ほど経った。

 そろそろ、私とオイゲンの離婚に関する噂話は風化しただろうか。

 人の噂も七十五日、という異国から伝わった言葉もあるので、まだまだ油断ならないような気もするが……。


 どうしようか迷ったものの、王都で買い足したい物もある。どちらにせよ、街に行かなければならないのだ。


 いっそのこと、友人に買い取ってもらおうか。

 ヒール・ポーションは魔法医の処方箋の必要なく売買が許可されている市販薬なのだ。

 口が堅く、オイゲンとの繋がりがない者が数名いるので、当たってみよう。


 手紙を書き、鳥翰ちょうかん魔法を使って友人のもとまで手紙を飛ばす。

 すると、三日後にヒール・ポーションを買い取ってくれるという返事が届いた。

 いつでも訪問してもいいと書かれてあったので、さっそく会いに行こう。


 先触れの手紙も、鳥翰魔法で飛ばしておいた。


 衣装室の中からあまり目立たないウィローグリーンのドレスを選び、化粧も控え目に仕上げる。髪は三つ編みにしたものを後頭部で巻き、ピンでまとめた。

 全身をすっぽり覆う外套を合わせ、頭巾を深く被る。

 かごに三十本のヒール・ポーションを入れていたら、綿埃妖精がやってきた。


『お出かけなの~ん?』

「ええ。王都に行ってきます」

『お薬、重たい?』

「まあ、少し重たいですね」

『だったら、一緒に行ってあげ~る!』

「あ、あげ~る?」


 独特な喋り方に戸惑っている間に、綿埃妖精はかごの中へと飛び込んできた。

 何をするのかと思ったら、大きく口を開いて、かごの中の薬瓶をぱくん! と一気に飲み込んだ。


「え!?」


 拳大の小さな体に、三十本の薬瓶を飲み込んでしまったのである。

 大きさは変わらないので、どこにあるのか不思議に思ってしまった。


『これで軽くなった!』


 綿埃妖精の言うとおり、かごを持ち上げると、重さはまったく感じない。

 

『いつでも取り出せるから、必要なときに、言ってねえん』

「あ、ありがとうございます」


 綿埃妖精のおかげで、苦労することなく薬瓶を運べそうだ。


 グリちゃんに声をかけ、王都まで運んでもらう。


「貴族街にある友人の宅を訪問したいのですが、よろしいでしょうか?」


 グリちゃんは任せろ! とばかりに凜々しい表情で『ぴい!』と鳴いた。

 彼女の背に跨がり、リス妖精やアライグマ妖精の姉妹に見送られながら、エルミタージュを発つ。

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