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父娘探偵~父の威厳を取り戻せ!~  作者: ほらほら
Episode1 新幹線の女
3/18

新横浜~名古屋 逃がし屋の男

「高飛びの方法ぅー?」


 女は隣に座った男(間に少女を挟むが)のそんな言葉で現実に引き戻された。

 いつの間にか先ほどの父娘が女の隣の座席に座り、言葉を交わしていた。

 何気なく男の口から飛び出した『高飛び』という単語に女は身を固くする。

 男はさらに言葉を重ねる。


「そんなの聞いてどうしようっていうんだい? お嬢さん」


「実の娘にお嬢さんはないでしょうが、このハードボイルド気取り!

 私は犯罪を犯した人がいったいどうやって逃げるのかって聞いたの!

 …………そういういう話を今書いてるからって」


 少女は男の脇腹を突く。


「イテッ、そんなゴニョゴニョ言われたって聞こえんよ……しかし高飛びの方法ねぇ、指名手配されていたら空路も海路も使い様が無い。そうなった時俺だったら逃がし屋を使うな」


 女はビクリと肩を震わす。

 が、父娘はそれに気づくことなく会話を進める。


「逃がし屋? 何それ」


「いわゆる裏社会御用達ってやつさ。

 どんな後ろ暗い所のある奴だって日本の官憲や悪どい組織の目の届かない所に運んでくれる……まあその分値は張るがな」


「ふーん。そういう設定が昔のドラマに出てきたのね」


「違う、本当の話だ!」


「はいはい、わかった、わかりました。

それで? いくらぐらいかかるの、その逃し屋の料金は?」


「そうだなぁ、ピンキリだが大体は一人一〇〇〇万くらいか。

それに運ぶ荷物の量にもよるかな……」


「いっ!? 一〇〇〇万円!!」


「それで臭い飯を食わずに済むんだ。そういう連中からしたら安いもんだろう」


 ……そう言った男の視線が、サングラス越しにじっとこちらに向けられていたように女には思えた。


****


 ヤクザの男の亡骸を前に女はしばし呆然としていた。


 なぜ自分がこんな目に合わなければならないのだろうか。

 自分はただ、母の為に生きてきただけだというのに……。

 女は思わずその場に崩れ落ちる。


 だがいつまでもそうしているわけにはいかない。このままでは良くて警察に捕まるだけだ。

 そう考えた女はすぐに行動を開始した。


 以前酔ったこの男が自慢気に話していた。

 いざとなったら海外に逃げれば良いのだと、その為の伝手も金も自分は持っていると。

 だからこそ幾らでも悪どい事が出きるのだと。


 ならば自分もそれを真似よう。こんな男の為にこれ以上人生を滅茶苦茶にされない為に。


 女はそう考え、まずは男の死体を必死に引き摺って他の部屋に向かう。

 向かった先は男がこの家で使っていた書斎。


 女は知っていた。この男がここを隠れ家としても使っている事を、隠し財産や重要な書類を保管している事を。


 女は部屋に入るなり部屋の隅に置かれていた金庫に目を向ける。指紋認証と暗証番号式の頑丈そうな金庫だった。

 暗証番号は以前から盗み見ていたので知っていた。男は女が自分に逆らう筈がないと高を括っていたのだろう。

 そしてセンサーに男の指を押し当てるとカチリと鍵の開いた音がする

女はその扉を開ける。

 中には大量の札束と金のインゴット、大量の書類。そして一冊の手帳が入っていた。

 女はそれを手に取る。


 パラパラとページを捲っていく。

 大半はアルファベットと数字の羅列。女にはこれが何を意味しているのかは分からない。

 ただ以前、男がこの手帳を金のなる木と呼んでいたので何かしら重要な事柄が書かれているのだろう。


 しかし女にとってはどうでも良い事だった。

 重要だったのはこの手帳の最後に書いてある番号に電話を掛ければ、きっと自分を逃がしてくれる筈だということだけなのだから。


「……あった!」


 女は歓喜の声を上げる。

 そこに書かれていたのは一つの電話番号。

 女は急いで書斎にある電話の子機の受話器を取る。

 するとすぐに相手が出た。わざとくぐもらせた男の声だ。


「もしもし」


「あっ、あの。ご相談があるんですが」


「っっっ……お伺いしましょう」


 女には電話口の男が少し驚いたように感じられた、だがその事よりもまず国外に逃げたいという話を優先させるのだった。


 女が事情を説明し終わると、男は少しの間無言になる。

 そしてやがて口を開く。


 すぐに、新幹線を使って博多まで来て下さい、と。

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