表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
父娘探偵~父の威厳を取り戻せ!~  作者: ほらほら
Episode1 新幹線の女
1/18

プロローグ

カクヨムにも投稿しています。

 その女はひどく焦っていた。

 8時30分東京発博多行き。のぞみ17号の3列シート。彼女が眺める車窓の向こうは暗く、車内の風景を反射するばかり。

 それもそのはず、現在位置は本州と九州を隔てる海峡の下、関門トンネルを猛然と走り抜けている最中だからだ。

 窓際に座る女の隣には、品川から乗ってきた父娘らしき二人組が座っている。

 二人の会話の会話を聞いていると、女はまるで自分の心の内を読まれているかのような気分に囚われる。


(お願い、……早く着いてちょうだい)


 女は一刻も早く目的地にたどり着くよう心の内でひたすらに祈り、自らを暴かれるような恐怖に、じっと耐え忍ぶのだった。


****


 その父娘……特に父親らしき男の方は車両に乗り込んできた時から一際人目を引いていた。。


 まず、目を引くのは黒い背広に時代がかったソフト帽。

 上着の下には赤色の派手なシャツがのぞき、その上から白いサスペンダーでズボンを吊っているのがチラリと見える。

 ネクタイも派手で、今時漫才師すら巻かないであろう真っ赤な物。

 おまけに日が照っている訳でも無いのに気取ったサングラスを掛けている。


 こんな服装をしている男など、今どき見た事がない。まるで昔のドラマに出てくる私立探偵のようないでたちだ。


 そんな父親に連れられた小学生ほどの少女の方は至って普通の服装。 ただ、父親に好奇の視線が集まっていることに羞恥心を覚えているのか真っ赤になってプルプルと震えている。


 男はしばらく辺りに視線を漂わせ、


「ここだな……」


と、(本人の認識では)さりげなく女の座る座席の前までやってくる。


 だがそんな父親に向かって少女は、


「お父さんここは自由席なんだけど。

 ……やめなよ、そうやって綺麗な女の人の近くに座ろうとするの。

 そんなだからお母さんに逃げられるんだよ」


と呆れた調子でツッコミを入れる。


「う、うるさい!」


 男はそんな娘からの指摘に動揺を隠せない。

 (本人の認識では) 格好良い服装もこうなっては台無しだ。


 そんなしっかり者の娘と、少々情けない父親のやり取りに周りの乗客も少し頬を緩ませる。


 ただ、女にとってはそんな事はどうでもよかった。 女にとって重要な事はこのまま博多まで逃げ切り、そこから海路で国外へ高飛びすることなのだから……。


 だからこそ、女は少女からの


「すいませんお隣いいですか?」


 という問いかけにも鷹揚に頷いてしまったのだ。


 ……その後、自らがどのような思いをするとかも考えぬまま。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ