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1-6

決闘の直前、学年主任の教師が、担任の教師を引き連れて俺のところにやってきた。


「わかっていると思うが、相手が死んだ時点でキミは退学だ。加減しなさい」

「本来の決闘なら、生死を問わず、なんじゃないですか?」

「加減をさせなければ、訓練場の生徒にまで被害が出る。そんなことをすれば、今以上に学院での居場所が無くなると思うが?」


 そう言って、学年主任は口元だけで笑った。


「あくまで剣術を主体とした決闘だ。木剣が折れてしまったのであれば、拳を使うのは致し方のないことだ」




「それでは、はじめ!」

「これで終わりだー!」


 開始早々、クライスくんはまっすぐにこちらに向かって突っ込んでくる。


 フェイントも無くただ突っ込んでくるだけの様は、ジャイアントボアにも似ているが、速度は全然遅い。さらに剣は隙の大きい大上段からの大振りだ。


 これで終わりだ、などと言うくらいだから、雷系統の魔法を付与させて高速の斬撃を放つか、炎系統の魔法で爆発力を上げる気か?そこまで距離が空いていないにもかかわらず、どのような魔法を付与させたのか判断ができない。


 さすがは、王都の中級騎士に匹敵する実力者だ。


 ここは一度、大きく後退した方が良いだろう。そう思い、クライスくんの剣が振り下ろされるであろう位置から、後方へ3メートルほど跳躍する。


「「え?」」


 クライスくんの攻撃は特に魔法が施された様子も無く、剣先が空を斬って終わる。


 クライスくんも何が起こったか理解出来ない顔をしている。大観衆のせいで緊張して、魔法が不発した?彼も状況が飲み込めていないようで、自分の剣と俺の顔をキョロキョロと見比べている。


 いくら魔法が不発したからって、動揺しすぎじゃないのか?ここは戦場だ。一瞬の気の緩みが命取りになるんだぞ。


 3メートルほど空いた距離を一息で詰め、こちらも必殺の一撃を打ち込む。


狙うは首だ。


首筋目掛けて横薙ぎに一線!


動揺していたクライスくんは全く反応できていない。もらった!


『ボキン!』


 鈍い音と共に、根元からポッキリと折れてしまったぜ・・・・・・俺の木剣が!


 これだから木剣は嫌なんだよ。


 再び彼から距離をとるため、後方に飛び退く。


「な、なんだかよくわからんが、私の勝ちのようだな」


 首筋を必死にさすりながらクライスくんが言った。


 剣術主体の勝負だったから、剣が折れれば負け?いやいや、戦場に立っておいて、武器の一つが無くなったぐらいじゃ戦いは終わらないよ。少なくとも、大森林の魔物は見逃してくれない。


「剣がなければ、拳を使えば良いじゃない」


 折れた木剣を放り投げ、クライスくんの顔に拳を突き出してやる。俺も剣を使った戦いの方が得意だが、木剣を使うくらいなら、こっちの方がマシだ。


「ふ、ふん。負け惜しみを。剣がなければ、私の攻撃一つ受けることはできまい。行くぞ!」


 冷静さを取り戻したのか、クライスくんは再び剣を大上段に構え直して突っ込んでくる。こちらも拳を構えて臨戦態勢をとり、斬撃を紙一重で躱す。どうやらまた魔法は発動していないようだ。


「く、くそ。なぜ当たらない!」


 何度か剣を躱すも、一向に魔法が発動する様子は無い。よくよく観察してみると、剣先には攻撃魔法の付与はおろか、強化魔法の類いもかけられていないようだ。


 勝機!


『バキン!』


 先ほどよりもやや高い音が鳴り響く。それと同時に、クライスくんの持つ木剣が根元からはじけ飛んだ。


「な!」


 剣が折れて呆然と立ち尽くすクライスくん。


 ここが勝負所だと思い、拳を握りしめて距離を詰め、振りかぶった拳をクライスくんの顔面に目掛けてたたき込む。


『ポキン!』


「いってー!」


 クライスくんの顔面を殴ったら、指の骨が砕けた件。


 剣に強化魔法をかけていなかったくせに、全身には強化魔法ガチガチにかけていやがった。指の骨だけじゃ無くて、これ手首までいってるよ。これ、回復魔法でちゃんと治るよね?くそじじいの力だけは死んでも借りたくないんだからね。


「身体強化が使えないというのは、みっともないものだ、な!」

「ぐふっ!」


 鳩尾の衝撃に、危うく意識が持って行かれそうになる。腹に穴が空いたかと思うほどの衝撃に、思わずうずくまってしまう。


「ふん。多少驚かされたが、やはり魔法もろくに使えないクズだったな」


 腹だけではなく、顔や胸、頭、腕や足にも衝撃が走る。


 身体強化によって威力と速度を増した拳や蹴りが、次々と全身に突き刺さってくる。身体強化をした肉体と生身の肉体とでは、鋼鉄と石ころぐらいの差があると言われているから、このまま攻撃を受け続ければいずれ粉々に砕け散ってしまうだろう。


 最初のように距離を空けたいところだが、クライスくんは攻撃の手を緩めることは無い。


「ははははは!どうだ?降参すらできないだろう。もう中央に出てくる気もなくなるよう、その体に恐怖と痛みを刻み込んでやる」


 なんだか随分とお楽しみのようだが、こっちは激痛とクライスくんがしゃべる度に飛んでくる唾のせいで全然楽しくない。むしろ、頭にきていると言っても良い。


 それに、ひょろ眼鏡の教員や、何人かは俺がいたぶられている姿を見て笑っていやがる。


 これ、もう我慢しなくても良いんじゃね?


 どうせ全身はボロボロだ。このまま何もしなくてもボロクズになるのなら、このくそ野郎の顔面も道連れにしてやる。


「はぁ、はぁ・・・どれ、まだ意識はあるのか?もしや、死んでしまったか?」


 攻撃に疲れたのか、クライスくんは肩で息をしながら手を止めた。その隙を逃さぬよう、後方に飛んで距離を空ける。この動作だけでも激痛だ。立っているだけでもフラフラしてしまう。


 だから、限界が来る前に全力の一撃をたたき込んでやる。


 体内で魔力を練り上げる。その瞬間に、全身から魔力が噴き出し、それに合わせるようにあちこちから血が噴き出しているのがわかる。


 すでに足下には小さなクレーターができあがるが、魔力はさらに噴き出し続ける。


「なんだそれは。魔力が全身から噴き出すなど、制御できていない証拠ではないか。このような虚仮威しが、私に通用すると思うなよ!」


 クライスくんが何か言っているようだが、全く気にしない。


 一息で彼との距離を詰めると、本日二度目となるクライスくんの顔面へ、全力の拳を叩きつける。


「リクス。加減しろ。拳を振り抜くとクライスが死ぬ!」


 焦ったように叫んだのは、学年主任の教員だ。そういえば、相手を殺すと負けになるんだったか。


 あと少し遅ければ、クライスくんの顔面に突き刺さった拳振り抜くところだった。寸前で動きを止めはしたが、噴き出す魔力に飲み込まれながら、クライスくんの体は天井を突き破ってどこかへと飛んで行ってしまった。


 ちょっとどこまで飛んで行ったかはわからないが、あれだけ身体強化ができていたんだから、死にはしない・・・よね?


「勝者、リクス・ヴィオ・フォーリーズ!」


 学年主任の教員の声に合わせて、ボロボロになった拳を突き上げる。腕まで皮膚が剥がれかけ、血がドロドロと滴っているが気にしない。


 辛勝と言ったところだが、これで少しはみんなからの好感度が上がるだろうか?


 期待を込めて周囲を見回してみるが、なぜか観覧席は沈黙していた。ちょこっと仲良くなったと思っていたギースや、婚約者?の彼女まで固まっている。何をそんなに驚いているのだろうか。


「治療魔法が使える教員は、直ちに集まれ。それ以外の教員は、クライスの捜索をしろ!」


 その言葉を最後に、俺の意識は薄れていった。






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