ショートショート 敵国
ショートショート 「敵国」
国中の軍という軍が配備されて2日が経った。
ようやく敵の全貌が分かったのだ。我が軍より強大だったが臆する者は一人も居なかっった。
司令官は、最後の確認をすべく、味方を激励に回った。
「何か不備はあるか?士気は上々か?」
「はい。準備は完璧です。闘う気概にあふれています」
「もう打てるんだな」
「はい。ミサイルは全て最終確認を終えました。全て順調と言えます」
このミサイルこそが敵国への秘密兵器と言えた。 その数、数千はあり、自国の国境付近から、国の最奥まで、くまなく配備されていた。 その一つが目の前にある。 キラキラと、蒼穹の空のように磨き上げられた、巨大な金属の塊は、一種の高揚感を与える物だった。 ミサイルはすべて深い緑色で統一され、それは来たるべく決戦を、待ち望んでいるようだった。
このミサイルが国中一斉に発射される。 そこには、慈悲などなく敵全土を焼き尽くすだろう。 すると若い兵士が質問してきた。
「ミサイルは無事に全弾着弾するでしょうか?」
まだまだ経験の浅い兵士のようだ。
「大丈夫だ。迎撃対策はしてあるし、数千ものミサイルをすべて撃ち落とすことなど不可能だ」
「それを聞いて安心しました。これからも見敵必殺の気持ちで任務にあたります」
若い兵士の士気の高さに満足しながら、古参の兵士も視察しに行った。すると仕事もせずに、皆でうずくまっている。
「おい、大事な任務中だぞ!何をしている」
どうやら本を読んでいるようだ。
「司令官、これを見てくださいよ。 外の世界の本です。 世界はこんなに面白い物に満ち溢れているんですね。 何だか戦争なんて馬鹿らしくなりました。」
司令官はこれに答えず、内ポケットから拳銃を取り出し、パアン、パアンと古参の兵士をすべて殺した。
「戦争は勝つ事だけがすべて。 娯楽など許さん」
さあ、いよいよ発射の時間になった。 発射ボタンに指がかかる。これを押せば、数千のミサイルが、敵国に降り注ぐ。
敵陣の被害は甚大だろう。 薄い笑いを浮かべたのち、決意を持った顔で司令官は言った。
「3、2、1、発射!」
地獄から響き渡るような音をたて、ミサイルは飛翔した。 紫の煙を巻き上げて、1本の筋を引きながら軌跡を描いていく。 あっという間に見えなくなった。 国中のミサイルが今発射され、敵国中で爆発し、地獄の業火を灯すだろう。 敵地は壊滅せざるを得ない。
司令官は最後の司令を出した。
「敵国は被害は甚大だ。我々の勝利である。味方の安全は守られた」
「諸君、よくやってくれた。後は最後の任務である」
司令官は一仕事終えたとばかりに、眉間を撃ち抜いた。
若い兵士も同様に眠りにつき、国中が静けさに包まれた。
「なーんてことが起きているわけね。わたしのケガで」
女が見ているのは『白血球のwiki』だ。足のケガを来週のデートまでに治したいのだ。
「それにしても白血球って結構凶暴ね。異物を無力化するまで追いかけるって。でもその後、バラバラになるのって、何だか泣けるじゃない?」
果たしてデートに間に合うのか?白血球の戦いにかかっている。