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晩餐会1

 俺達は向かっているメイヤーズ邸はベルファ庁舎の北の通りを挟んだ向かいにあった。


 大きな柵状でアーチを描いている鉄製の門があり、庭はかなり広い。噴水の周りに花壇があり、西洋庭園そのままだ。


 既に門前では禅爺が館の執事と待っていた。ファミリーの紹介の後に今回、ヘルプで来てくれた源さんを紹介する。


九坂(くざか) 源次(げんじ)です。今回はホワイトに頼まれて調理の手伝いで来ました。よろしくお願いします」

「うむ。禅師じゃ。今回はよろしく頼む。それで九坂くんは普段どこで料理をやっておるんじゃ?」

「西大陸の西端にある島、パラゴニアで鮨屋をやっています」

「…おおっ、遥々パラゴニアから来てくれたのか。それはスマンのぅ…」


 そう言いつつ放浪している時に一度パラゴニアを訪れた事があると話す禅爺。


「以前は鮨屋は無かったがのぅ?」

「わたしがこの世界に来たのは一年半前なので、その時にはありませんよ」


 笑いながら説明する源さん。早くも打ち解けてくれて良かった。安心する俺を見て禅爺が笑いながら突っ込んできた。


「おぬし、プロを連れて来るとはまさか自分の腕に自信が無いのか?」

「いや、ネタカットと巻き寿司は出来るんですけど、流石にシャリ玉はちょっと…。それで来て貰ったんですよw」

「いや、良い良い。美味い酒、美味い刺身、美味い鮨があれば文句は言わんよ」


 禅爺と話しつつ、執事の案内でメイヤーズ邸内へと入った。


「ようこそいらっしゃいました。皆様、中へどうぞ…」


 今回は屋外で晩餐会をすると言う事で、庭園内にテーブルや椅子が用意されていた。その一角にステージがあった。


 料理は基本的に館の厨房で作り、召使いが運んで来るようだ。


「奥様とお嬢様はあちらにあります軽食コーナーでお菓子とドリンクを飲みながらゆっくりお待ち下さい」


 執事か案内する方を見ると、屋台のようなものがあり、色々なお菓子とソフトドリンクが飲めるようだ。俺はこの後、料理の準備をしなければならないので、フラムをクレアに預ける。


 クレアと妖精族は執事に案内されて軽食コーナーに向かった。その後、戻ってきた執事が館の中へと案内してくれた。


「シェフの方は、厨房の方へお入り下さい。一角を空けてありますので、そちらで料理の準備をなされませ…」


 見ると厨房はかなりの大きさだ。まぁ館がかなりデカい四階建てだからそれに合わせた厨房なんだろうけど…。


 結構な数のシェフがせかせかと動いていた。プロのシェフばかりがいる中で気後れしていると、源さんに発破を掛けられた。


「ここに入ったらアンタもプロと同じ扱いだからな。気を引き締めて、やれる事をしっかりやれよ?良いな?」

「…えぇ、何とか頑張ってみます…」


 俺は制服に着替えて準備を始めた。



 鮨は(おおむ)ね好評の様だ。源さんにほとんどやって貰った。俺がやったのはネタカットと巻き寿司だけだw


 巻き寿司は酢飯を使ったものと、味付けしていない白ご飯を使って巻いたモノも出した。酢飯が苦手な人もいるかと思って出したのだが、どちらも、貴族達の中でも評価は中々良かった。


 俺は源さんと共に正装に着替えて晩餐会へと参加する。源さんは正装は持ってなかったが、白シャツにネクタイ、スラックスという格好で会場である館の外へと出ていく。


 皆と合流した俺達は、同じテーブルの席に着く。既に辺りは暗かったが会場のあちこちに、照明代わりの光が灯っていた。


 食事やドリンクは、ビュッフェ方式の様だ。何も食べていなかった俺と源さんも、他のシェフが創った料理と酒を取ってくる。


 源さんは清酒を呑むかと思いきや、以外にもウィスキーをロックで飲んでいた。俺はまず、ビールから飲む。

 

 飲む前に源さんにお礼を言った。


「シャリ玉と握りの件、助かりました。本当にありがとうございました」

「いや、俺は大した事してないよ。アンタを少し手伝いに来ただけさ…」


 話しつつ、鮨と刺身の成功を二人で乾杯し、ねぎらう。


「アンタ、筋が良いから時々店に来て修行しても良いんじゃないか?」


 源さんはロックを飲みながら、笑って話す。


「いや、今回だけで良いですよ。こういうのはプロに任せた方が良いですからねw」


 俺達が飲み食いしていると、不意に声を掛けられた。


「ホワイトさん、こんばんは」


 挨拶されて振り返った俺はその人を見て驚いた。


 声を掛けて来たのは、なんとアマリアさんだ。アレ?何でここにアマリアさんがいるのw?いつもと違い今日はドレス姿だ。


「…あの…アマリアさんは何故ここに…?」


 俺の質問に、その後ろから現れた恰幅の良いタキシードと山高帽子を被った紳士がにこやかに答える。


「アマリアは、わたしの娘なんだ。キミは禅師先生を煙に巻いたホワイトくんだね?わたしはルジーク・メイヤーズだ。今後ともよろしく」


 手を差し出されたので、理解が追い付かないまま、握手に応じた。


「…アンソニー・ホワイトです。よろしくお願いします…」


 アマリアさんが、まさかメイヤーズ市長の娘だったとは…。



 メイヤーズ市長は貴族籍で爵位は男爵だそうだ。それは門の前で出迎えに来た禅爺から聞いて知っていたが…。アマリアさんがまさかの貴族の娘だったとは…。


 何でギルドで受付の仕事してたんだろう…?


「今日は奥様とお子様も一緒なんですね」

「…えぇ、まぁ…」


 話しつつ、アマリアさんは俺が抱っこしていたフラムを見る。


「…フフ、こんな可愛いお子様がもう一人いたんですね」


 そう言いつつ、アマリアさんはフラムの頭をなでる。フラムは喜んで愛嬌を振りまいていた。アマリアさんが貴族の娘である事に驚いていた俺は、続く市長の言に更に衝撃を受けた。


「今回はアマリアの婚約のご挨拶も兼ねての晩餐会なんだ。ゆっくり楽しんでいってくれ給え」

「…は、はぁ…そ、そうでしたか…ありがとうございます…」


 そして二人の後ろから、その婚約者らしき貴族の男性が現れる。


「…あなたが噂のホワイトさんですね?お会い出来て嬉しい限りですよ。王国での噂は辺境の領地でもよく耳にしてましたからね。わたしはコンシュアー子爵家のフレスト・コンシュアーと申します。以後お見知り置きを…」

「こちらこそ、アンソニー・ホワイトです。よろしくお願いします」


 俺は戸惑いつつ、握手に応じる。金髪のミディアムヘアでスラッと背は高く、穏やかな顔立ちの落ち着いた感じの青年だ。


 うちのメンバーとも挨拶をした市長、アマリアさんとフレストは別のグループのテーブルに移動して挨拶をしていた。


 …はぁ、アマリアさんは婚約者がいたのか…。


 俺は溜息を吐きつつ座る。そんな俺に皆が笑いながら総突っ込みを入れてきた。


「…何でちょっと残念そうなんじゃ(笑)?」

「そーでしゅ、姉さまがいるのに何で残念がるでしゅか(笑)?」

「アンタ、奥さんがいるのに気が多いんだな。刺されないようにしろよ(笑)」

「…主、浮気をすると母上がまたキレますぞ(笑)?」

「…(笑)」


 リーちゃんは会話が聞こえていたのか、ティーちゃんのポケットの中で眠りつつ、口元に笑みを浮かべていた…。


「…ふんっ。べ、別に何かを期待してたわけじゃないけどね!!」


 ツン状態で拗ねたままビールを煽る俺を見て、更に皆が笑う。皆が笑っているので、フラムも俺を見て楽しそうに笑っていた。



 禅爺はちょっとしたパーティとか言ってたが、会場は広いし結構な人数だ。あちこちに貴族達と商人らしき人達の姿があった。


 料理とお酒を楽しんでいるとロメリックが現れた。


「ここにおられましたか。ホワイトさん、随分探しましたよ」

「あぁ、いつもと違って俺達正装だからwそれにこの人数だからねぇ…」


 話しつつ、ロメリックに源さんを紹介しようとしたら、更にテンダー卿、ラフレス夫人、マロイ婆さんも現れた。


 俺は纏めて皆に、源さんを紹介しておいたw


「…ほほぅ、パラゴニアから遥々こちら迄おいでになるとは…」

「やはり、プロでないとどうしても上手くいかない事もありますからね。それでお願いして来て貰ったんです」


 俺の説明にテンダー卿が納得したように頷いた。


「鮨も刺身もかなり好評でしたよ?貴族の中で流行るかもしれません(笑)」


 ロメリックが笑いながら言う。


「わたしも久々に、鮨を食べたよ。この星に召喚されても地球のものが食べられるのは良い事だね…」


 マロイ婆さんも鮨を食べたようだ。今回、晩餐会で出した舎利とシャリ玉は全てシャリノアの米なので、改めてお礼を言っておいた。


 皆で鮨と刺身の話をしていると、禅爺が現れた。


「…ここにおったか。済まぬがホワイト、おぬしに紹介したい人達がおるのじゃ。テンダー卿とロメリックも一緒に来てくれ」


 禅爺に言われて俺は再び、フラムをクレアに預けると、ティーちゃんシーちゃん、源さんに少し席を外すと伝えて、テンダー卿、ロメリックに付いて行った。



 禅爺、テンダー卿、ロメリックと共に会場の奥の方に向かう。そこに座っている人達は明らかに他とは雰囲気が違っていた。そこには四人がそれぞれ酒と料理を楽しんでいた。


 一人は二十代後半と思われる金髪の若く爽やかな騎士風の男。


 その隣に瘦せぎすで背が高く、山高帽子を被りタキシードを着ている、セミロングの黒髪を流している紳士、更にその隣に茶色の短髪で顎髭を生やしたゴツイ商人風の男。


 そして最後に、椅子の背もたれに寄り掛かって優雅にワインを飲んでいるザンバラの金髪で貴族風の目付きの鋭い三十代?と思しき男がいた。


「あぁ、テンダー卿にロメリック、久しぶりですね。で、禅師先生が連れて来たそちらの方が最近、噂になっているホワイトさんですか」

「その通りじゃ。皆様にも改めて紹介します。王国のフリーSランクハンターの…」


 俺はそのまま禅爺の言葉を引き継いで自己紹介した。


「アンソニー・ホワイトです。よろしくお願いします!!」


 お酒も多少入っていたので緊張する事無く、斜め四十五度でぴしっと挨拶した。


「…ほう、貴殿があの噂の男ですか…。しかしセンチピード、怪物退治をしたようなSランクハンターには見えませぬが…」


 黒髪穏やか紳士の言葉に、禅爺が目を光らせる。


「…伯爵、人を見た目で判断してはなりませんぞ?このホワイトの恐ろしさは強さや激しさを一切感じさせない所にあるのですよ…」


 なにやら禅爺が、普通に見えてコイツには隠れた恐ろしいモノがある、みたいなことを言っているが、体を鍛えている訳でもないし俺はただの標準体型のオッサンだ。


 しかも酒が入ってるからゆるーく立っているだけ。『伯爵』と聞いても一切緊張感はない。


「…済みません。失礼をしました。わたしはオランデール。ルイス・オランデールだ。以後、覚えておいて欲しい」


 伯爵という爵位の割には穏やかな物言いで腰が低い。続いて、金髪爽やか騎士くんが自己紹介をしてくれた。


「僕はブラントと申します。騎士団所属の平の騎士です」

「ブラントくんは、レーゼン侯爵家の次男でのぅ、騎士団員の中でも抜きん出た才能を持っておるんじゃ」

「…先生、今日は僕個人で来ています。侯爵家の名前は余り出して欲しくなかったのですが…」


 爽やか騎士くんは、苦笑いをしつつ、禅爺にやんわりと抗議する。


「…まぁまぁ、そのような事はそのうち解かる事でしょう?先に話しても問題ないのでは…?」


 そう言ったのは顎髭を生やした身体のゴツイ商人風の男だ。男は酒を飲みながら、自己紹介をする。


「わたしはスタイラー商会の商会主で王都の商工所を纏めるモルダン・スタイラーだ。交易馬車襲撃の時にはカルダモン商会を助けたとか。王国商工所の長としてお礼を言わせてもらうよ。その節はありがとう」


 ゴツイ見た目と違い、丁寧な物腰の大商会の長だ。


 そして最後に、ザンバラ髪の目付きの鋭い三十男が背もたれに寄り掛かったまま、怠そうに話す。


「…僕は…レイソル。レイソル・ウィルザーだ。貧乏子爵家の三男坊で、ほとんど何もしていない遊び人みたいなモノだ…」


 そう言ったレイソルは、本人が言う様に最低限、騎士の様な格好はしているが着流しで傾奇者のような雰囲気だ。


 しかし、伯爵、大商人、侯爵家の次男で騎士ときて何故、貧乏子爵の三男坊なんだw?この四人はどういう関係なんだろう…?


 そして、テンダー卿、ロメリックとも皆、親しげに話している。聞きたい事は色々あるが、後でロメリックにでも聞くかw


 取り敢えず椅子を勧めて貰ったので、どういう関係性のメンバーなのか俺は良く解らなかったが大人しく座った。

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